死合
「私の通り名を知っているか?」
「『炎刃』だろ?」
少しずつ。けれど確かな自身の声で、レアリス・シャードバースは言葉を紡ぐ。
「ああ。実はそれは───私の師匠からもらったものなんだ」
「師匠?」
「『剣神』────雨龍・月之丞・幽玄。元、漆番隊隊長だ」
元漆番隊隊長。即ちそれは、レアリスの後釜を意味する。
「私はあの日────師匠をこの手で殺したんだ」
通称、その場所はコロシアムと呼ばれる。
軍人同士の手合わせ────そしていわゆる決闘が行われる場所である。
わかりやすく言うなら闘技場だろうか。
そこにあるのは───否、何もない。
殺風景な空間。
何もない空間。
無機質な───白い部屋。
コロシアムというのも烏滸がましい───むしろそれは『実験室』と言った方がまだ近しいかもしれなかった。
一片の温度も感じられない白い立方体。
しかし何もないというのは言いすぎかもしれない。少なくとも部屋には数個のカメラと扉はあるのだから。
そして何より、空集合がその空間に立っていたのだから。
「遅えな………」
合は毒づく。どちらかと言うと、聞かせるように。
『今用意をしている最中です。しばらくお待ち下さい』
設置されているのだろう。どこにあるのかも分からないスピーカーからそんな女性の声が聞こえる。
「誰だよアンタ」
『本日あなたと対戦するジーク・ウルフィートの上司です。壱番隊隊長、ノーア・冥・アケローン。以後お見知りおきを』
スピーカーから聞こえた声の主はなんの感情も匂わせない声色でそう答えた。
───と、部屋に一つしかない扉が静かに開き、扉の向こうから件の青年が顔を覗かせた。
「やあ久しぶりだね。死にきれなかった捨て駒くん」
「いつまで待たせてんだよ。時間管理すらできねェのか──次代のホープ殿ォ……!」
剥き出しの敵意。尤も、そんな合などマシな方で、ジーク放つそれはいっそ殺意に近かった。
『それでは両者が揃ったところで、早速始めましょうか。どちらかが瀕死になったら止めますので御安心を。────それでは、スタート」
切られた火蓋。
生き残ったクローン兵と次代のホープは───睨みあったまま動き始めた。
「死ね────捨て駒………!」
向ける掌。放つ殺意。
「グッッ────!?」
たったそれだけの動作だけで────
まるで見えざる手に拒まれたように、合の身体はいとも簡単に弾き飛ぶ。
ドドドドッッッ ズザァァァッッ!!
「ゴフッ─────カハッ………!」
喀血。
内臓から───否、身体中から吹き出す鮮血。
気管支が生暖かい感触で満たされる。
呼吸すらままならなくなるほどの内外の出血。
誰の目からも明確で明白な───強弱。
「勝負ついたかな?」
「じゃあ終わりにしてくれんのか?」
彼に───空集合に、闘う理由はない。
圧倒的な強者に挑む理由も、私怨や憎悪を向け止める理由も。
生き残ることのみを至上目的としている合にとって、そんな理由は絶対的に───存在し得ない。
闘わなくていいなら、そうしたい。
それが偽らざる本音。
「駄目だね。殺すまではないにしろ────再起不能くらいにはなってもらわないと」
「そいつァ───ちょっと困るな」
ハハッ。
そんな風に笑う。
血だらけで傷だらけで、そんな風に笑ってみせる。
「オッケーオッケーわかったよ。要するにジークだったか?お前は俺を二度と立ち上がれないくらいに叩き潰さないと気が済まないってことか。何でかは知らんし興味もねェけど」
「……………」
立ち上がりながら笑う。腕を広げて天を仰いで。
笑う嗤う嘲笑う────高らかに、嘲笑う。
「だったら仕方ねェな……俺もぶっちゃけ気が進まないんだが。でもまあ、それしか道がないならしょうがねえ──」
構える。明確な────ファイティングポーズ。即ちそれは、戦意の証明。
「────殺すか」




