ジーク・ウルフィート
「あァ?どこの誰だか知らねェが、随分とまあ偉そうな戯言を吐いてくれるじゃねェか……」
赤銅色の瞳。乱雑に切られた濡羽色の髪。
その瞳を歪めてそんな髪をかきあげて。
空集合は、皮肉げに嘲笑ってそう言った。
「初めましてだね。君が噂のクローン兵か」
対するのは優等生然とした美青年。汚れ一つない軍服に柔和な笑みをたたえた───高級将校。
「でもね、残念ながら今、君に構ってる暇はないんだよね。だから─────退きなよ」
青年は合に軽く手をかざす。
ただそれだけの動作。ただそれだけの所作。彼がとったのは本当にそれだけの行動。
けれどもそんな行動に、レアリスも合も──否、その場にいた全員が目を見張る。
なぜならその行為が─────
「か──────ハァッ………!」
合の体を冗談でも比喩でもなく───軽々と吹き飛ばしたのだから。
ドッ ドドドッッ バンッッ
距離にしておよそ20メートル。
廊下を吹き飛んだ合は何度か身体を強かに床に打ち付ける。
グルグルグルグル
反転し暗転する視界。回転し廻転する視界。
「合───!」
思わず彼の名を叫ぶ。
そして息を呑む。なぜなら合の身体には──
「痛ッ……………てえなァッ!」
見るも無惨な無数の傷がついていたのだから。
「ふうん。よくそこまで吠えられるね。───使い捨てのクローン兵如きが」
敵意でもなく殺意でもなく。
あくまで柔和な笑みを浮かべながら。
ただ明確な侮蔑を込めて、眼前の男はそう言った。
「だけど耐久性はそこまでじゃないかな。道理で捨て駒にすらなれなかったわけだ」
「なら試してみるかァ!?その捨て駒もどきに勝てるかどうかなァッ!」
もちろん───挑発。
実際のところ合は───先程の男の攻撃でかなり消耗している。
つまり今、彼に戦闘を始める体力はない。
それどころか。
───アレ連発されれば、俺は死ぬ。
それほどまでに男の攻撃は確実な威力を伴っていた。十分な殺傷能力を有していたのだ。
「やってみろよ三下ァ!それとも……捨て駒とすらビビって殺り合えねェか?」
ならなぜ、こんな挑発をするのか。
戦闘意欲に満ちているわけでも、命より高いプライドがあるわけでもない彼が。───生きることのみに固執する彼が。
「目障りなんだけど、君。仕方ないな────本気で壊すか」
男がまた、合に向けて手をかざす。
来るべき衝撃に備え、防御の姿勢をとる合。
「───死ね、不良品」
合は計算していた。
この廊下から彼らの執務室までの距離を。
この状況が伝わり、彼らが駆けつけるまでの時間を。
合は理解っていた。
現在の状況を。
軍人が軍人を軍の本部で殺そうとしている事態の意味を。
しかもその行動が、公衆の面前で行われているということの意義を。
だから。
合は驚かなかった。彼らの到着に。
会心の笑みを浮かべていた。
「なあにやってんの〜?」
「慎みなさい───公の場での行動を」
「廊下で闘るなよ、折角の余興が台無しだぞ」
誰もが────息を呑む。
その年若い3人の男女に。
戦慄し、畏怖し、頭を垂れる。
それは彼らが誰にも知覚できないスピードで現れたから───ではない。
そんな具体的な理由でも、些末な理由でもない。
彼らの存在そのものが───言うなればそこにいるということそのものに、畏怖を感じてしまうから。
そう。なにしろ。
───フィナリエント帝国軍『最高戦力』が3人もこの場に現れたのだから。
「隊長………」
合への攻撃を妨害された男はしかし、現れたうちの一人を見て項垂れた。
「公の場で何をしているんですか。そんな恥知らずを私の隊に入れた覚えはありませんよ───ジーク」
ジーク。それが彼の名のようだった。
「ですが…」
「黙りなさい。どんな理由があるにせよ、それがルールです」
一分の隙もなく着こなした軍服。それでいてどこか秘書的佇まいの女性。そしてその眼光は限りなく冷たい。
「アケローン隊長……」
レアリスが言葉を零す。
「有名人か?」
「ノーア・冥・アケローン。………あらゆる機動隊の中で最高と名高い壱番隊。───その隊長だ」
漆番隊隊長のレアリスをしてそう言わしめるほどの実力者。合はそっと、息を呑んだ。
「そんなに叱らないであげなよ〜。血の気が多い年頃じゃん?」
「しかし夜泉──」
蔭のない笑顔でそういったのは、背の高い美青年だった。
「夜泉?」
「参番隊隊長───一文字夜泉。黎明総隊長を除く隊長格の中で、間違いなく最強の男だ」
「お前よりも?」
「私など10人いても手も足も出ないだろうさ」
「はァ───!?」
『炎刃』レアリス・シャードバースが10人いても手も足も出ない。
その圧倒的火力をもってしても敵わないほどの圧倒的な『戦力』。
「こいつァ……とんでもないもんを呼んじまったな…」
汗を滲ませながら、そうつぶやく。
「ったく、喧嘩なら場所を考えろよ。あたしの見てないところで闘ってんじゃねえ」
もう一人。煙草を咥え、軍服を着崩した女性は煙を吐きながらそういった。
「あははっ。それは本当に同意かな。気が合うねー、セレスト」
伍番隊隊長、八意セレスト。
肌色の肩を覗かせる着崩し方をした彼女は、アケローンを向いてこう言った。
「稀に見る面白い対戦カードじゃん。どうよノーア、こいつらに公式でバトらせてみるのは」
新キャラ三人も出ましたね




