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クローン兵は斃れない   作者: 雨麗亭四迷
第一章  海の向こうの殺意
15/26

ジーク・ウルフィート

「あァ?どこの誰だか知らねェが、随分とまあ偉そうな戯言を吐いてくれるじゃねェか……」


 赤銅色の瞳。乱雑に切られた濡羽色の髪。

 その瞳を歪めてそんな髪をかきあげて。

 空集合は、皮肉げに嘲笑ってそう言った。


「初めましてだね。君が噂のクローン兵か」


 対するのは優等生然とした美青年。汚れ一つない軍服に柔和な笑みをたたえた───高級将校。


「でもね、残念ながら今、君に構ってる暇はないんだよね。だから─────退きなよ」


 青年は合に軽く手をかざす。

 ただそれだけの動作。ただそれだけの所作。彼がとったのは本当にそれだけの行動。

 けれどもそんな行動に、レアリスも合も──否、その場にいた全員が目を見張る。

 なぜならその行為が─────


「か──────ハァッ………!」


 合の体を冗談でも比喩でもなく───軽々と吹き飛ばしたのだから。


 ドッ  ドドドッッ  バンッッ


 距離にしておよそ20メートル。

 廊下を吹き飛んだ合は何度か身体を強かに床に打ち付ける。

 グルグルグルグル

 反転し暗転する視界。回転し廻転する視界。


「合───!」


 思わず彼の名を叫ぶ。

 そして息を呑む。なぜなら合の身体には──


「痛ッ……………てえなァッ!」


 見るも無惨な無数の傷がついていたのだから。


「ふうん。よくそこまで吠えられるね。───使い捨てのクローン兵如きが」


 敵意でもなく殺意でもなく。

 あくまで柔和な笑みを浮かべながら。

 ただ明確な侮蔑を込めて、眼前の男はそう言った。


「だけど耐久性はそこまでじゃないかな。道理で捨て駒にすらなれなかったわけだ」

「なら試してみるかァ!?その捨て駒もどきに勝てるかどうかなァッ!」


 もちろん───挑発。

 実際のところ合は───先程の男の()()でかなり消耗している。

 つまり今、彼に戦闘を始める体力はない。

 それどころか。


───()()連発されれば、()()()()


 それほどまでに男の攻撃は確実な威力を伴っていた。十分な殺傷能力を有していたのだ。


「やってみろよ三下ァ!それとも……捨て駒とすらビビって殺り合えねェか?」


 ならなぜ、こんな挑発をするのか。

 戦闘意欲に満ちているわけでも、命より高いプライドがあるわけでもない彼が。───生きること()()に固執する彼が。


「目障りなんだけど、君。仕方ないな────本気で壊すか」


 男がまた、合に向けて手をかざす。

 来るべき衝撃に備え、防御の姿勢をとる合。


「───死ね、不良品」


 合は計算していた。

 この廊下から()()の執務室までの距離を。

 この状況が伝わり、()()が駆けつけるまでの時間を。

 合は理解っていた。

 現在の状況を。

 軍人が軍人を軍の本部で殺そうとしている事態の意味を。

 しかもその行動が、公衆の面前で行われているということの意義を。

 だから。

 合は驚かなかった。()()の到着に。

 会心の笑みを浮かべていた。


「なあにやってんの〜?」

「慎みなさい───公の場での行動を」

「廊下で闘るなよ、折角の余興が台無しだぞ」


 誰もが────息を呑む。

 その年若い3人の男女に。

 戦慄し、畏怖し、頭を垂れる。

 それは彼らが誰にも知覚できないスピードで現れたから───()()()()

 そんな具体的な理由でも、些末な理由でもない。

 彼らの存在そのものが───言うなればそこに()()ということそのものに、畏怖を感じてしまうから。

 そう。なにしろ。

 ───フィナリエント帝国軍『最高戦力』が3人もこの場に現れたのだから。


「隊長………」


 合への攻撃を妨害された男はしかし、現れたうちの一人を見て項垂れた。


「公の場で何をしているんですか。そんな恥知らずを私の隊に入れた覚えはありませんよ───ジーク」


 ジーク。それが彼の名のようだった。


「ですが…」

「黙りなさい。どんな理由があるにせよ、それがルールです」


 一分の隙もなく着こなした軍服。それでいてどこか秘書的佇まいの女性。そしてその眼光は限りなく冷たい。


「アケローン隊長……」


 レアリスが言葉を零す。


「有名人か?」

「ノーア・冥・アケローン。………あらゆる機動隊の中で最高と名高い壱番隊。───その隊長だ」


 漆番隊隊長のレアリスをしてそう言わしめるほどの実力者。合はそっと、息を呑んだ。


「そんなに叱らないであげなよ〜。血の気が多い年頃じゃん?」

「しかし夜泉──」


 蔭のない笑顔でそういったのは、背の高い美青年だった。


「夜泉?」

「参番隊隊長───一文字(いちもんじ)夜泉(よみ)。黎明総隊長を除く隊長格の中で、間違いなく()()の男だ」

「お前よりも?」

「私など10人いても手も足も出ないだろうさ」

「はァ───!?」


 『炎刃』レアリス・シャードバースが10人いても手も足も出ない。

 その圧倒的火力をもってしても敵わないほどの圧倒的な『戦力』。


「こいつァ……とんでもないもんを呼んじまったな…」


 汗を滲ませながら、そうつぶやく。


「ったく、喧嘩(バトル)なら場所を考えろよ。あたしの見てないところで()ってんじゃねえ」


 もう一人。煙草を咥え、軍服を着崩した女性は煙を吐きながらそういった。


「あははっ。それは本当に同意かな。気が合うねー、セレスト」


 伍番隊隊長、八意(やこころ)セレスト。

 肌色の肩を覗かせる着崩し方をした彼女は、アケローンを向いてこう言った。


「稀に見る面白い対戦カードじゃん。どうよノーア、こいつらに公式でバトらせてみるのは」

新キャラ三人も出ましたね

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