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クローン兵は斃れない   作者: 雨麗亭四迷
第一章  海の向こうの殺意
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荒れ狂う海と機械獣

 フィナリエント帝国とサエリオン共和国連邦を隔てる海──ルノワール海峡は始終荒れている。

 複数の海流が混じり合う位置となっており、この海が凪ぐことは───歴史上一度もない。

 それは両国間の交流を長い間拒んでおり、航空手段が発展するまで両国間の直接的な行き来はあり得なった。

 勿論そんな不都合も永久戦争以前の出来事であり、そんな時代のことも遠い過去の『歴史』となって久しい。


 そして────


「どうやって────か。確かにそれは重大な問題と言えるかも……な……………ふぁ〜あ」


 帝都。

 フィナリエント帝国軍本部にて。

 撃破した機械獣についての合とレアリスの報告を受け、帝国軍大将・黎明はあくびとともにそんな反応を返した。

 伸びっぱなしの銀髪。隈を浮かべた目元。極めつけに首に下げたアイマスク。そのどれもが彼に眠たげな印象を与えている。


「大したことじゃないって言いたげだな」

「いやいや、そんなことないさ」


 黎明はゆるゆると頭を振る。


「言っただろ?これは重大な問題だ。あの荒れ狂う海を───ルノワール海峡をハイエナモデルの機械獣が渡るなんてことは不可能と言っていい」

「どういうことですか?ハイエナは泳げますよ」

「それは確かにお前の言う通りだレアリス。──基本的に機械獣の体は動物をモデルに設計されているらしい」


 動物をモデルにした設計。それはつまり、身体能力はモデルに準ずることを示している。


「しかし、だ。ハイエナと機械獣───動物と鋼鉄兵器では根本的に異なるんだよ。全てがな」


 大きさが。材質が。質量が。

 モデルとなった動物と機械獣では──それらが絶対的に異なる。


「特に顕著なのは密度だな。まあ考えてみればわかるだろ。いくら両足を──四足をバタつかせても、鋼鉄製の自動機器が荒れ狂う海を渡ることなんてできないってな」

「んなことは分かってんだよ。それで?俺が聞きたいのは答えなんだよな」


 ひいては────生き残れるのか。

 機械獣との戦闘を課せられた合にとって、相手の動きが予測できないということは死のリスクに直結する。


「わからんな。───というか、それを調べるためにお前らを呼びつけたんだが」

「あァ?」


 聞き返す。またどうしようもなく腐った任務になりそうな予感がしたからだ。


「お前らの次の対機械獣任務は数週間後だ。だからお前らに司令を下す。───ハイエナモデルの機械獣が本土に出現した理由を調べろ。何か質問は?」


 WhyとHow。2つの疑問。

 理由と手段、2つの疑問。


「了解」


 ハァ……


 レアリスが短く返事をする横で、合は静かにため息を付いた。





「浮かない顔だな」


 黎明の個室をでたあと、レアリスは合の顔を覗き込んでそう言った。


「そりゃあそうだろう。───クソ面倒臭ェじゃねえか」

「む。そんなことを言うな。任務だぞ」


 顔をしかめて見せるレアリス。

 けれどその声は、いつになく覇気がない。

 そんな彼女の顔を、今度は逆に合が覗き込む。


「レアリスこそどうしたんだ?いつになく顔色が悪くねェか?」

「いや…」


 そんなことはないぞ。


 そう言って、小さく首を振る。


「───んなことねェだろ」


 合は両手でレアリスの顔を挟み込むと、目線を合わせて視線を合わせて、彼女の蒼い瞳を覗き込んだ。

 彼女の蒼い目に、合の赤銅色の瞳が映る。


「な───」

「ほら─────蒼白だぞ。体調くらい正直に言えよ」


 とは言ったものの、すぐにレアリスの顔は耳まで赤く染まって口をパクパクさせ始めたので合の評価は半ば外れる形になってしまったが。


「というかお前、本部に行くって決まったときから何かおかしかったよな。そわそわしてるっつうか…。ひょっとして熱でもあんのか?」


 そう言って、自分の額をレアリスに触れさせる。自分との温度差と比較できるため、彼としてはこの方法は合理的判断に基づいたものだったのだが───


「なななななな!何をするのだ!」


 思いっきり赤面したレアリスの正拳突きを、顔面に見舞われてしまったのだから。


 数分後。


「痛ってえなァ……」

「当たり前だろ………。驚いたんだからな……!」


 なお恨みがましい視線を向けるレアリスに、合はニッと笑ってみせる。


「まァ……元気出たみたいで大変結構だけどな」

「…………………っ!」


 合は笑って微笑って嗤って嘲笑う。

 その笑みは、レアリスが初めて見るその笑みは───

 どうしようもないほど、快活で闊達な笑みだった。

 それこそ、レアリスが言葉を飲み込んで俯くほどに。



「ふーん、そうなんだそうなんだ……。あのレアリスくんに相棒がねえ」




「!?」

「…………!」

「でもまさかクローン兵とは。味方を踏み躙ってきた『炎刃』には都合のいい相手なのかもね」


 突如として背後から聞こえる声。

 レアリスは思わず立ち上がって柄に手をかけた。

 レアリスのその構えは、紛れもない臨戦態勢。

 それは異例の若さで少佐の座に就いた、紛れもない『天才』に敵意を向けられたに等しい。


 けれど───


「相変わらず怖いね、レアリス。けれど止めておいた方がいいと思うな────()()()?」

新キャラ登場でございます

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