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クローン兵は斃れない   作者: 雨麗亭四迷
第一章  海の向こうの殺意
13/26

モデル『ハイエナ』

新章突入〜〜乞うご期待!!

 帝国領の外。

 事実上の緩衝地帯となっているその荒野。

 刀を差したレアリス・シャードバースと、軍服を着た空集合(からあつまりあい)は遠い目をしていた。

 慣用句的な意味では勿論ない。

 遠くから迫りくる敵を観察しているのだ。


「モデル『ハイエナ』か」


 機械獣(ビースト)モデル『ハイエナ』。


「一匹だな。それに動きもそこまで速くない」

「がっかりだ」

「…………」


 心底期待外れのようにため息をつくレアリス。合は半目になって彼女を見やる。


 理解できない。


 レアリスの強者との戦闘を望む気持ちが、合にはどうしても理解できない。生き残ることのみを至上命題として生きている合には。


「あと何メートルくらいだ?」

「私の目測だが、おおよそ2070メートルってとこだな」

「なるほど。なら……」


 親指を立てる。数学的にいうなら相似の応用。自分の親指と腕の長さを知っているだけで、情報力と生存率は格段に高まる。


「全長20メートルくらいか?」

「そんなとこだろう」


 時速は180キロメートルくらいだろうか。悠長に話している間にもかなりの距離まで迫ってくる。


「………一撃で屠れるな」


 そんな言葉とともに、レアリスは少し腰を落とす。

 その体勢のまま柄に手をかけ、姿勢をやや傾ける。

 その体はすでに、蒼き灼熱の煉獄───彼女の能力(プロミネンス)を纏っていた。


 ドドドドドッッッ


 疾風怒濤にして────疾風迅雷。

 時速でも秒速でもなく───瞬速。

 機械獣(ビースト)がその牙を剥き出し、一息に飛び掛かる。

 鋭く尖った牙。触れれば合金でさえも切れてしまうだろう、研磨された牙。

 鋭利にして怜悧なる────冷たい刃。


 あの場所───クロード高原にいたのなら、何十人もの『i』たちを屠っていたことだろう。


 しかし、けれども、どうしようもなく、冷たい刃と灼熱の刃の対決は、瞬きする間もなくけりがついた。


「炎──────刃ッッ………!!」


 レアリスの放つ、不可避にして無慈悲にして無比なる──蒼炎の斬撃。

 圧倒的な熱量を乗せて機械獣(ビースト)に襲いかかる豪炎の斬撃。

 それが機械獣(ビースト)の体を、文字通り両断したのだから。


 ジュバァァァッッッ


 金属が溶ける匂いと破砕音が辺りを満たす。

 骸と化した機械獣(ビースト)は斬撃と炎の余波を受けて無秩序に飛び散った。


「ふうっ……」


 軽く息をついて、レアリスは汗を拭う。


「お見事」

「大したことない。このくらいの火力なんて朝飯前だ」

「朝飯前、ね。それでこの威力かよ……」


 少々やりすぎじゃねえか?


 そんな言葉をそっと飲み込む。

 今の余波。下手をしていれば合のことも巻き込んでいたかもしれない威力だった。


 単に合の安全を考えていないのか。

 それとも…


 もしかすると彼女は能力の破壊力こそ絶対的に優れているが、その制御面は若干不得手なのだろうか。しかしそれでは周囲に大きな被害を出せない市街戦では不利だろう。

 案外、そのあたりに先の戦いで彼女が敗北を喫した理由があるのかも知れない。


 こいつァ………良いこと覚えたな。


 胸の内でそんなことを呟きながら。

 合は機械獣(ビースト)が現れた方に目を向ける。


 ここから数十キロは先にある海。

 恒久的に荒れ狂う海。

 この海の向こうには敵国────サエリオン共和国連邦が位置している。

 機械獣(ビースト)を開発し、送り込んでくる国。

 自分たちは犠牲を払わず、ただ戦力を削ってくる国。

 指一本動かさず、人を殺す国。

 そして何より───永久戦争の圧倒的優勢国。

 先日の黎明の説明によるとこの先、合が──帝国が──相手をしていく機械獣(ビースト)はあの海を越えてきた強者のみになるとのことだった。


「クソが……ッ」


 苛立ちとともに吐き捨てる。

 生産に鍛錬に戦地投入───そして現在も。

 軍部は合を利用し続ける。

 107999体の────『i』(戦死者)たち。

 慰霊碑にも犠牲者共同墓地にも───彼らの名はない。

 名すら与えられなかった『i』たちの死の先にある現在(いま)を。

 記憶にも記録にも残らない『i』たちの犠牲の死の上にある現在(いま)を。

 ────空集合は生きている。


 故にか否か。

 空集合は命にしがみつく。

 空集合は命に食らいつく。


 まるでそれが、『i』(犠牲者)達への贖罪になるかのように。

 生き残ってしまったことへの、贖罪になるかのように。


 ガシッ!


 足元に転がった破片を踏みつける。

 かつて機械獣(ビースト)モデル:『ハイエナ』だったものの残骸。

 殺戮のために海を超えてきた──生き残りだった物の残骸。


 ───それは唐突だった。


 今まで違和感にすら感じていなかった物の一つ一つが、急速に輪郭を帯び始めたのは。

 それまで断片でしかなかった物の一つ一つが、急速に結びついたのは。


「────────馬鹿な……ッ」

「…?何がだ?」


 始まりは違和感にすら満たない"引っ掛かり”。それらが収束して急速に、疑問となって頭をもたげてくる。


「確認なんだがレアリス……機械獣(この鉄くず)は海を越えてきたんだよなァ?」

「そうだが…………何かおかしいか?」

()()()()()()!」


 足元の残骸を指差す。


「こいつが───モデル:『()()()()』の機械獣が───()()()()()()()()()()()()()()()───!」

そして、事件は動き出す───!

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― 新着の感想 ―
[良い点] レアリスさんかっけえええええうおおおあああ!!✨️✨️✨️✨️✨️ 一撃、その瞬間。超やべぇです。胸高鳴る。どっきどきやべぇです。 そして、終わったこの戦闘、合くんやべぇことに気付いた((…
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