初任務
一応新章です
それは、レアリス・シャードバースが空集合の世話係に任命された翌日、夕食時のことだった。
前日のことだが、レアリスの作る料理はある種の兇器だと判明していた。
肉を焦がしてアルカリ性の炭化物にするのはマシな方で、なんと洗剤を調味料と勘違いして使っていたのには、いくら食えればなんでもいいと事前に嘯いていた合も命の危険を感じてキッチンからレアリスを追い出した。
したがって二人の料理は合が担当することになったのだ。
「できたぞ」
簡単な鮭のムニエルに野菜を添えたもの。そしてトマトベースのスープにパン。別に料理が得意なわけでも上手いわけでもない合だが、食事は戦場での生命線となる重要な要素なので最低限の料理のイロハは弁えている。
「おお!美味しそうだ!」
「洗剤を隠し味に使ったりしてないからな。致死率は極力抑えてある」
むー。
合の皮肉に唇を尖らせるレアリス。
「さっさと食うぞ。このあと洗い物もあるんだから」
「皿洗いくらい私にもできるぞ」
「そう言って昨日何枚割った?」
しかも何をどう滑らせたのか、後ろにいた合の顔面に皿が飛んできたのだ。
「俺が洗うから、頼むからお前はじっとしていてくれ」
世話係。
それがレアリスに課せられた任務の一つだ。
これではどちらが世話係か分からない。
そんな時だった。
ウゥゥぅぅぅぅッッッ ウゥゥぅぅぅぅッッッ
警報が鳴り響いたのは。
『空襲です。空襲です。落ち着いてシェルターの中に避難してください。繰り返します───』
機械獣の襲撃を告げる警報が
『空襲です。空襲です───』
戦闘の開始を告げる警報が
『落ち着いて、シェルターの中に避難してください』
フィナリエント帝国の夜空に鳴り響いたのは。
「残念だ。───出発するぞ」
レアリスはナイフとフォークを置いて得物の刀を腰に差していた。
「おい、何なんだよ唐突に」
「知らないのか」
「帝国領の生活は知らねえ。今まで研究所内か野営くらいしかいたことないからな」
「コレは空襲警報と呼ばれているものだ」
「空襲?」
「あぁ。───今から数百年前の永久戦争での主戦略は戦闘機での爆撃、いわゆる空襲だったらしい」
数百年前。
人間が何世代にも渡って子孫を残す年数。
しかしそれは、千年続く永久戦争の中での数百年前。
遠い過去であると同時に、今なお続く、否、今へと至るまでの過程。
遠い過去、けれど忘れることなどない、風化することのない歴史。
歴史。あるいは記憶。
永久戦争の中での数百年前とはそんなものだ。
レアリスはかけてあった2着の軍服を掴むと、合の分を彼に投げた。
「その頃の名残なんだろう。機械獣の帝国領内への侵攻を空襲と呼んでいるんだ」
島国であるフィナリエント帝国だが、島内全てが帝国領と|いう訳では無い。もちろん大部分がそうなのだが、海の向こう──サエリオン共和国連邦から送り込まれる機械獣の侵攻に備えるための緩衝地帯が海の沿岸には広がっている。
そして、その緩衝地帯にさえ数日前まで機械獣が跋扈していたのだから帝国どれほど劣勢に立たされていたか分かるだろう。
「つまり、この警報がなってるってことは機械獣共が帝国領内に侵入したってことか?」
「そうだ。──早く支度をしろ」
レアリスはもう玄関で軍靴を履いていた。
「さぁ、漆番隊の出動だ」
「隊つっても二人しか居ないんだろ?っつうかその漆番隊って何なんだよ」
「雨龍・月之丞・黎明大将を総隊長に置く軍部対機械獣機動隊7つの隊のうちの1つだ。大体一つの隊は100〜200人で構成されている」
「なんで俺等だけ2人なんだよ」
一つの隊が100〜200。
それに対する漆番隊の総勢。
中央値を取って他隊が150ほどだとしてもあまりに圧倒的な差。
150:2。75:1。
単純計算で漆番隊は他隊の1/75の戦力であり、戦略の幅やノウハウの蓄積も考慮すると、そこには絶対的な差が生まれてしまう。
「色々あったんだ。前任者が」
色々。
少しだけ笑って締めるレアリス。
「隊の振り分けは地区を基準にされている。今回は私達の担当するエリア7thに空襲が来た。迎え撃つのは私達2人だけ。何か質問は?」
合は肩をすくめて首を振った。




