同居人、もしくは世話係、もしくは奴隷
前回、合とレアリスが一緒に住むことになりました
「世話係……。どうして私がこの男なんかの世話係に……」
「よくわからないんだが、世話係ってのは奴隷みたいなものなのか?」
「そんなわけ無いだろ!」
病室から半ば無理矢理退院させられ、(傷は塞がっていた)これから一緒に住むというレアリスの家に向かう道中、ずっと彼女はぶつぶつと零し続けていた。
「俺は世話係なんて要らないんだが…」
合としても辞退したかったのだが、世話係は合の監視も目的であるらしく、黎明の『決定』は覆らなかった。
「そもそもお前──」
「『お前』じゃない。レアリスだ」
「っ………!」
思いの外強い言葉での返事に身が竦む。あのときは辛くも勝利を収めたとは言え、彼女の文字通り暴力的な戦闘力は身に沁みて知っている。識っている。
「……そうか。そもそもレアリスはどうしてそんなに嫌なんだ?」
「嫌に決まってるだろっ!?」
心外そうに声をあげるレアリス。
「殺し合った相手と一緒に暮らすなんてできると思うのか!?」
「無理ならいい」
「……………!?」
足を止めたレアリスに構わず前を歩きながら言う。
「無理なら俺が逃亡しようとした、とか適当なことを言って始末すればいい。───軍人の得意分野だろ?」
それは野営キャンプでの出来事だった。
108000体のうちの一人の『i』が正規軍人に射殺されたのだ。
殺された『i』の『罪状』は逃亡未遂。
その正規軍人がたまたま逃亡中の『i』を見つけ、抵抗してきたので銃殺したとのことらしい。
そしてこれはその後、合がたまたま耳にしてしまった正規軍人たちの会話。
──『お前も上手くやったよな。ライフルのメンテナンスにi共を使うなんてな』
──『だろ?ライフルってのは定期的に使って手入れしないと照準が狂うんだよ。あいつらも正規軍人の役に立てたら本望なんじゃねえか?』
──『違いねえ。ギャハハハ』
「そんな───!」
「恨むつもりはねェよ。俺たちは使い捨ての駒だった。なァ、レアリス。俺はな──」
そう言って振り返る。
振り返って彼女の目を見据える。
「───107999人の犠牲の上に生きている」
あのとき銃殺されたのが合だった可能性は十分にある。たまたま生き残ったのが彼だった。なんの運命性も必然性もない。ただ生き残っただけ。他の『i』たちを犠牲にして。
「だから俺は生きる。生き残る。生にしがみつく。それが俺だ」
けどな、と続ける。
「お前は正規軍人だ。だから、正規軍人は『i』を殺してもお咎めはない」
「!……けど──」
「わかってる」
何か言おうとしたレアリスを制す。
「その必要があるなら、お前は俺を殺すだろう。仕方ないことだ。そして」
「そして?」
「必要があるなら俺もお前を殺すだろう」
「───!」
合は殺人鬼じゃない。
彼は殺人を好まない。
けれど、彼は殺人者になれる。
殺人を好まないが、それと同時に殺人を拒まない。
先の戦闘でレアリスを殺そうとしたことからもわかるとおり、人を殺すことに、命を奪うことに一片の抵抗もない。
必要なら殺す。
必要がないから殺さない。
「これから一緒に住むからな。言葉に出して宣言しておく。──俺たちは、必要なら殺し合っていい。そうだろ?」
そう言って、口角を上げてみせる。
笑顔を作ってみせる。
不敵な、それでいてどこか歪な笑顔を。
「殺し合うその時まで、仲良くやろう」
手を差し出す。握手を求める。
意味のない握手を。
形だけの握手を。
「───そうだな」
レアリスは握り返す。
仮初めの信頼の証を。
薄氷より脆い信頼の証を。
「よろしくな─────奴隷」
「む。奴隷じゃない。世話係だ」
しかし、合の浮かべた不敵な笑みは、レアリスの部屋を見るなり凍りつくことになる。
「………なんだ…これは……────地獄か?」
「失礼な。変なところなど何もないぞ」
そこ──レアリスの家は──衣類やゴミ袋、食器などが散乱し、地獄絵図とでも修飾した方がいい『部屋』だったのだから。
「おい奴隷」
「だから、私は奴隷じゃない」
「そんなことはどうでもいい」
合は頭を下げた。深く。
「これ以上、家事はするな」
レアリスはうっかり衣類を燃やすことがよくあるらしいです




