フィナリエント帝国領
「そして3つ目だ」
黎明はそう言って説明を再開した。
「フィナリエント帝国は島国だった。数百年前に侵略されたんだが、それをこの度取り戻した」
「取り………………ッ戻しただと!?」
思わず声が裏がえる。それは数百年間占領されていた地のことだったから。誰もが諦めを口にしていた地のことだったから。
「あぁ。iたちが全員投入されたのはそのためだ。クロード高原での戦闘の間に別働隊が退路を断つ。クロード高原はお前を残して全滅という結果となったが、戦果としてここ──フィナリエント島から機械獣を駆逐することに成功したわけだ」
「……ふざけた戦略だな」
文字通りの『足止め』。今は亡き司令の命令、『死んでこい』とは『時間を稼げ』ということとほぼ同義だったということだ。107999人の『i』の命を犠牲にして。
「それが戦争だ」
そう。それが、戦争。
領土と、そこに根付く大多数の命。
そのための必要な犠牲。
それが少数の軍人の命。
ましてや今回のそれは108000体のクローンの命。
そのために造られた命たち。
「英雄だなんだと言ってみても、体のいい捨て駒。もしくは自動式殺戮人形だよ。俺もお前も。───きっと共和国連邦の連中も、同じ理由で機械獣を創ったんだろうな」
「………」
彼───空集合は、敵方である連邦の人間を、というか外国の人間を見たことがない。フィナリエント帝国は防衛で手一杯で他国との国交など無きに等しく、他国との唯一の交流は連邦による、機械獣を介しての侵略だったからだ。
千年以上前──永久戦争が始まる前は肌の色や宗教の違いが戦争の理由になったらしい。
そんなものは戦争の口実に過ぎず、たとえそんな違いがなくとも、やはり適当な理由をつけて戦争は行われていたのだろう。
だが今──敵国の人間に接触したことが皆無と言っていい帝国民が、連邦民が、戦争を続ける理由は何なのだろうか。
「そんなわけで当分、俺達が相手をするのは運良く──いや運悪く、か?──海を越えてきた奴らだけだ。
──さっき言ったと思うが、軍人になってもらうお前が相手をするのもそんな奴らになる」
「そいつらは強いのか?」
当面の彼の関心はそこだけである。とはいえ合は強者との闘いに嬉々とする戦闘狂ではなく、むしろその逆だ。
戦闘嫌い。
否、『生の亡者』。
相反する2つの言葉。しかしどうしようもなく合の本質を表している言葉。
彼の内にあるのは自らの生への執着。
『自分』の死を冗談でもなく数千回経験した結果といえる。常人なら気が狂いそうな地獄で彼が正気を保っていられた理由がその執着だ。生き残ることへの渇望。それだけを糧に戦場を生き抜いてきた。
故に──彼が聞いたのは強者に出会えるかではない。強者に出会ってしまうのか。
「相手による。これくらいしか言えないな。
それと、紹介したいやつがいるんだ。───入ってこい、レアリス」
病室のドアが開く。
金髪碧眼。白い肌。長い脚に姿勢のいい曲線美。息を呑むほど美しい──けれど冷たい光を瞳に宿す少女がその姿を現す。
「お前……あのときの…」
合は少女──レアリス・シャードバースを見て目を見開いた。
「あのときは…その………すまなかったな。私のせいで3日も目を覚まさなかったそうじゃないか」
彼女は気まずげに目を逸しながらそう言った。
「気にすんな。俺もお前を殺そうとしたからな。お互い様だ」
「フッ……そうか。お互い様……か」
心なしかレアリスが微笑んだように見える。
「仲直りは済んだようだな。さて、俺がお前らを引き合わせたのは仲直りのためだけじゃないってのはわかるよな?」
「あァ?」「え?」
フワァ………
あくび混じりに言い放つ。
「合、お前はこれからレアリスの下──警備局漆番隊に入ってもらう」
「俺がこいつの下に?」
レアリスが高級将校だとはわかっていたが、いかんせん彼女の下は命の危険がする。
「と言っても隊員はレアリス一人だったんだけどな」
「……隊じゃねえじゃん」
「ようやく部下ができた…っ!」
げんなりと肩を落とす合と対象的に、レアリスは有頂天に舞い上がっている。
「そしてレアリス、お前にはこれから合の世話係をしてもらう。──もちろん同じ家でだが?」
ラノベだなあ。




