第十八話 空白の時間(とき)
しばらく更新が出来ませんでしたが、少し落ち着きましたのでゆっくりですが再開したいと思います。
よろしければお読みください。
ボランチに入ってから、新たな取り組むべきことが増えた。
ZAALで全てのポジションをさせられていたため、戸惑うことはないと思ったけれど違った。
相手のプレッシャーが半端ないのだ。
それも、チーム内での練習でこれだけプレッシャーを感じているのだら、試合になんてなるとどうなることか・・・。
そうして3ヶ月が過ぎた。
その間、試合に出るけれど途中交代ということが続き、そしてスタメンからも外れた。
初めは「なんか調子が上がらないな」ぐらいに感じていたのだけど、全くと言っていいほど自分のプレイが出来なくなっていた。
楽しくないのだ。
ボールを触ることもなくなってきた。
そして、仲間から話しかけられることも少なくなってきた。
マリウスですら・・・。
ぼくたちはフッスバルで繋がっていたのだと思う。
それ以外の彼らのことは良く知らないことに気がついた。
この頃からぼくはサッカーノートを書かなくなった。
そして、練習にも行かなくなった。
◆◆◆
それから2ヶ月が過ぎ、季節は冬になり、ドイツでの生活も1年が経とうとしたとき、父さんから話があった。
「アメリカのレーシングチームからオファーがあった」
父さんは車のエンジンのチューナーだ。
それも飛び切りの腕利きらしい。
「インディ500に参戦しているチームのチーフメカニックに誘われたんだが、瑞穂ついてくるか?」
父さんがぼくのことを坊主ではなく、名前で呼んだのは初めてだと思う。
「アメリカはまだまだサッカーの後進国だよな・・・。そこで続けることのデメリットもある。だけど、サッカーを続けるかどうかも含めて家族で行かないか?」
いや、アメリカのサッカーも十分強いし・・・。
てか、野球や自分がやって来たアメリカンフットボールのイメージ強すぎだろう。
でも、初めてづくしだ。
名前で呼ばれたし、ぼくの気持ちを聞いてくる。
「うん」
考えてから返事をするはずが即答してしまった。
「じゃあ、来週引越しだ」
ええ~!!!!
これだけフットボールから離れたことはなかった。
怪我をしていたときもボールを触っていた。
今は、触る気にもなれない。
だから・・・もう良いや・・・。
◆◆◆
一週間で引っ越せるのか?といわれれば・・・出来る。
自分の荷物をまとめるだけで、日本人学校は通っていただけで仲のいい友達もいない。
ヘルタの仲間とは話しもしないまま練習に行かなくなったから、連絡も取っていない。
寂しい中学生活だよな・・・。
出発の当日、家を出るとそこにはヘルタの仲間がいた。
「おまえ、なにかんがえてるんだ!」
マリウスが食って掛かってきた。
「体調悪くて来ないのだと思ったら引越しだって!?」
いつも冷静なジャコモも食って掛かってきた。
「ごめん・・・」
「フッスバル辞めるのか?」
カールコーチが静かに聞いてきた。
「・・・」
「続けるよな?」
「まだ良くわからない」
正直、今考えたくないという気持ちが大きい。
7歳からサッカーを始めて、試合に出れなくても、チームの中に溶け込めなくてもボールを蹴っているのが楽しかった。
今はそうではない。
何がきっかけだったのかはわからない。
試合に出れないのが原因かもしれない。
もしかしたら受け入れてくれた仲間と対等にプレイできないからかもしれない。
みんなをまっすぐ見れない自分がそこにいた。
「体の調子はどうなんだ?」
クラウスコーチが聞いてきた。
「悪くない。けれど、今は走れないし蹴れないと思う」
「そっか・・・」
一日サボったぐらいで変わらないか?いや、ぼくの世代は続けることが大切だと思う。
意識せずにボールをコントロールする。
周りの動きを感じ取る。
これは続けているから出来ることであり、続けることで伸びていくことだと実感してきていた。
「まあ、良いんじゃない?」
カールコーチの一言でぼくははっとした。
「・・・な、なにが?」
「いや、ミズホがフッスバルを続けるかどうかって、自分が決めることだ」
突き放された気分だった。
「でもな、短い時間だったけれど確実にこいつらの意識を変えたのはお前だ。
こいつら強いよ。
いろんな意味で。
その中でもまれたお前も自分で気がついていないかもしれないけれど成長したんだよ」
「・・・」
なんだか、カールコーチの言葉に救われた気分になった。
でも、同じピッチに立つことはもうないだろう・・・。
「これやるよ」
カールコーチが差し出したのはヘルタのユニフォームだった。
それもホームとアウェイ用のぼくが始めての試合でつけた14番だった。
「まあ、ミズホはでかくなってもこのサイズどまりだろう」
広げてみると大きい・・・。
「帰ってくるときはこのユニフォームがぴったりになってたらいいな」
ぼくのレベルで上のカテゴリーに上がるなんてなるなんて無理だと思う。
でも、カールコーチの口から出た言葉は違った。
「俺、お前らと一緒に上に上がることを決めたしクラブも了承してくれた。
トップチームのライセンスも取った。
今までツェー ユニオーレンに拘ってきたのは選手の成長を見るのが好きだったからだけど、お前ら見ていて思った。
お前らが上に上がるなら俺もコーチとして上がる」
「「「カールコーチはトップチームのヘッドコーチなんて無理だよ」」」
「無理かどうかはやってみないとわからんよ」
「ヘッドコーチは無理だな」
クラウスコーチは冷静だった。
やっぱり、この人はカツコに似ている。
その自信は何処から来ているんだろう・・・。
「自分を信じろ。ミズホ」
「次ぎ会うときは敵か味方か・・・だな」
一人ひとりと握手した。
そして、ぼくは父さんと母さんと一緒に空港に向かった。
でも、ぼくはすぐにはフットボールには戻らなかった。




