↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様ここに眠る  作者: せぷ
第2部 第2章:K's Factory
PR
85/143

第67話:慈善でやったと思われたら

新しい事業に手を出したいんです!〇西先生!

---------------------------------------------------


 その夜、三権に諮った。


 新しい事業をやるかどうかは、まずこの三人で揉む。そう決めたばかりだった。


 結果から言うと、僕は怒られた。


 「受けたの?」


 レジスが、開口一番そう聞いてきた。


 「まだ受けてない。話を聞いただけ」


 「聞いた時点で、受ける気でしょう」


 図星だった。


 「金額は?」


 「……聞いてない」


 「聞きなさいよ」


 「たぶん、出せないと思う」


 レジスは、書類を置いた。


 「制作の手間は、大したことないわ。作るだけなら、私たちで何とでもなる」


 「じゃあ」


 「問題は、そこじゃないの」


 彼女は、こちらを見た。


 「一件受けたら、次が来るわ」


 「……」


 「あの人、商店会の会長でしょう。他の店にも話すわよ。そうしたら、断れる?」


 断れない。


 「あなた、断れないでしょう」


 「……断れない」


 「なら、これは一件の話じゃないの。事業として続くかどうかの話よ」


 正論だった。


---------------------------------------------------


 「ジュディは?」


 僕がそう聞くと、あの子は少し考えてから答えた。


 「反対はしない」


 「賛成でもない?」


 「賛成でもない」


 はっきりしていた。


 「私、その商店街のこと、何も知らないもの。判断できるほどの材料がないわ」


 「うん」


 「ただ」


 少し、間があった。


 「あなたが、あの人の話を聞いて帰ってきた時の顔は、見てる」


 「顔?」


 「何か言いたそうだったでしょう。言わなかったけど」


 ……見られていた。


 「だから、聞くだけは聞くわ」


---------------------------------------------------


 エグゼは、最後まで黙っていた。


 三人の中で、あの子だけが何も言わない。


 「エグゼ」


 「なに」


 「意見は」


 「まだ」


 短かった。


 「まだ?」


 「材料が足りない。この人が何を見てきたのか、まだ分かってないから」


 その言い方に、レジスが少し反応した。


 「見てきたもので判断するの?」


 「そう」


 「数字は?」


 「見るけど、それだけでは決めない」


 二人の間に、少し空気が張った。


 ……この二人、判断の軸が根本的に違う。


---------------------------------------------------


 「あのさ」


 僕は、そこで口を挟んだ。


 「うちが広告を業務に入れたの、何のためだっけ」


 レジスが、少し黙った。


 「……AIを使えない人が、その恩恵を受けられるようにするため」


 「そう」


 「でも、それは理念でしょう」


 「理念だよ」


 「理念で会社は回らないわ」


 「回らないな」


 僕は、うなずいた。


 「でも、回す方法は、あると思う」


 「どういうこと」


 「作るのは、うちの子たちだろ」


 「そうね」


 「制作費はかからない。かかるのは媒体費と、僕が客先に行く時間だけだ」


 レジスの目が、少し動いた。


---------------------------------------------------


 「……分かったわ。試算させる」


 「レジスがやるんじゃないんだ」


 「うちの子たちにやらせるわ」


 あの子は、そう言った。


 「原因を掘る方と、打ち手を考える方。二人で組ませてるでしょう」


 「うん」


 「今回みたいな案件は、まさにその仕事よ。商店街に人が来ない原因を掘って、それに対して何が打てるかを考える。私が一人でやるより、そっちの方が精度が出るわ」


 「……そういうものか」


 「そういうものよ」


 言い方に、少し誇らしさが混じっていた気がした。


---------------------------------------------------


 翌日の夕方、レジスが結果を持ってきた。


 「まず、収支から」


 数字が並んでいた。


 「媒体費が月にこれだけ。先方からもらえるのは、たぶんこの程度でしょう。差し引きで、ほぼゼロ」


 「ゼロならいいじゃん」


 「一件ならね」


 レジスは、そこで釘を刺した。


 「これが十件になったら、媒体費も十倍よ。それから、あなたが客先に行く時間も十倍」


 「……あ」


 「気づいてなかったの?」


 「気づいてなかった」


 「だと思ったわ」


---------------------------------------------------


 「それから、これは別の話だけど」


 レジスは、もう一枚出した。


 「うちの子が、面白いことを言っていたわ」


 「なに」


 「この案件、本当の問題は集客じゃない、って」


 「え」


 「原因を掘る方の子が、そう言ったの。商店街に人が来ないのは、知られていないからだけど——知られたところで、行く理由がなければ来ない、と」


 その通りだった。


 「じゃあ、どうすれば」


 「そこは、まだ出てないわ。打ち手を考える方の子が、今やってる」


 「間に合う?」


 「間に合わせるでしょう。あの子たち、毎日話してるもの」


 ……そうか。


 毎日やることにした、あのミーティングだ。


---------------------------------------------------


 「ドンナにも、見せた?」


 「見せたわ」


 「なんて?」


 「持ち出しにはならない、ただし件数が増えたら知らせろ、って」


 「相変わらずだな」


 「あの子は、そういう役目だから」


 レジスは、そう言って、書類を閉じた。


---------------------------------------------------


 「エグゼ」


 僕がそう呼ぶと、あの子は少し顔を上げた。


 「もう、意見出せる?」


 「出せる」


 「聞かせて」


 エグゼは、少し考えるような間を置いた。


 「あなた、あの人の店の話をしてないよね」


 「え」


 「和菓子屋の話。今日、一度も出てこなかった」


 言われて、気づいた。


 たしかに、僕が話していたのは商店街全体のことだけだった。


 「あの人、自分の店の宣伝をしてくれとは言わなかったんでしょう」


 「……言わなかった」


 「そういう人の頼みなら、聞いていいと思う」


 それだけだった。


 理由としては、たぶん薄い。数字も、根拠もない。


 でも、レジスは何も言わなかった。


---------------------------------------------------


 「ジュディは?」


 「困ってる人がいるなら、やればいいでしょう」


 あっさりしていた。


 「さっき、判断できないって言ってなかった?」


 「言ったわよ。でも、話を聞いたら判断できたの」


 ……この子は、そういうところがある。


---------------------------------------------------


 「じゃあ、やっていいの?」


 「よくはないわ」


 いつもの返し方だった。


 「でも、あなた、どうせやるでしょう」


 「やる」


 「なら、ちゃんと形にしなさい。慈善でやったと思われたら、先方に失礼よ」


 その言い方が、この人らしかった。


---------------------------------------------------


 翌朝、ノアールが来た。


 「契約の件、伺いました」


 「早いな」


 「レジスさんから回っていましたので」


 この家の情報伝達は、僕が思っているより速い。


 「作りましょうか」


 「頼む」


 「では、確認させてください」


 ノアールは、いくつか質問をした。


 業務の範囲。期間。金額。成果が出なかった場合の扱い。中途で終わる時の条件。


 「成果が出なかった場合、というのは」


 「必要です」


 即答だった。


 「広告の効果は、保証できるものではありません。それを事前に明示しておかないと、後で揉めます」


 「揉めるかな。あの人」


 「あの方は揉めないでしょう」


 ノアールは、そこで少しだけ、言い方を変えた。


 「ですが、あの方の周りの方が、どうかは分かりません」


 ……なるほど。


 商店会だ。会長一人の話ではない。


---------------------------------------------------


 書面は、すぐに出てきた。


 僕は、それを読んで、少し戸惑った。


 「……短くない?」


 「短くしました」


 「前に、短いものほど危ないって言ってなかった?」


 「言いました」


 ノアールは、あっさり認めた。


 「ですが、それは、相手が読める場合の話です」


 「読める場合?」


 「今回の相手は、七十を過ぎた方です。しかも、以前に業者と揉めた経験がある」


 「うん」


 「その方に、十ページの契約書を渡して、どうなると思いますか」


 僕は、少し考えた。


 ……読まないな。


 いや、読もうとして、途中でやめる。そして、また騙されるんじゃないかと不安になる。


 「そうです」


 ノアールは、言った。


 「読まれない契約書には、意味がありません。書いてあることが守られるのは、双方が理解している場合だけですから」


---------------------------------------------------


 できてきたものは、一枚だった。


 項目は五つ。何をするか。いつまでか。いくらか。効果は保証しないこと。やめたい時はいつでも言えること。


 全部、平易な言葉で書いてあった。


 「これで足りるの?」


 「足ります。争いになりそうな点は、全て入っています」


 「専門用語がないけど」


 「不要です」


 ノアールは、書面を指した。


 「専門用語は、正確に書くためのものであって、難しく書くためのものではありません。同じことを平易に書けるなら、そちらの方が良いに決まっています」


 「……なるほど」


 「ただ」


 彼女は、そこで少しだけ、付け足した。


 「私の側の控えには、詳細な条項を残してあります。同じ内容ですが、法的な表現で書いたものです」


 「二種類あるの?」


 「はい」


 「なんで」


 「読む人によって、必要な形が違うからです」


 僕は、その一枚の書面を、もう一度見た。


 平易な言葉で、五つの項目。


 これなら、あの人も読めるだろう。読めて、それで、安心できるだろう。


 届く範囲を広げるというのは、こういうことの積み重ねなのかもしれなかった。


作者Xはこちら↓

https://x.com/SepGaGotoku


小説の背景、予備知識など各種解説はこちらへ↓

https://www.youtube.com/@sepudayo


noteの記事はこちら

https://note.com/natty_walrus3755

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。