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神様ここに眠る  作者: せぷ
第2部 第2章:K's Factory
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第59話:机が埋まる

人が増える話です。


会社が、少しずつ、会社らしくなっていきます。


今回は、平和回……のつもりです。


一箇所だけ、ちょっと引っかかる終わり方をしますが、気にしないでください。


たぶん。

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 人を増やすことにしたのは、レジスの提案だった。


 「回らないわよ、この人数では」


 ある夜、帳簿を前にして、彼女はそう言った。


 「検査の予約が、来月分まで埋まってるの。今は断ってるけど、それも限界があるわ。あと、広告の運用も、私が片手間でやるには量が増えすぎてる」


 「……そうか」


 「増やしましょう。今なら、金はあるでしょう」


 金はあった。


 嫌になるほど、あった。


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 人数と配置は、その場で決まった。


 三権に、それぞれ二人ずつ。


 レジスの下には、市場を見る子を二人。何が問題なのかを掘る係と、ではどう打つかを考える係。二人で組んで動く形にする。


 「一人じゃ駄目なの?」


 「駄目ね」


 即答だった。


 「原因を突き止める作業と、打ち手を考える作業は、頭の使い方が違うのよ。同じ人間がやると、原因の分析が、打ち手の都合に引きずられるの」


 「引きずられる?」


 「こうすれば解決できる、という案が先にあると、それに合う原因を探してしまうわ。順番が逆になるの」


 なるほど、と思った。


 この人は、そういうところを、ちゃんと見ている。


---------------------------------------------------


 ジュディの下には、体調を見る子とメンタルを見る子。


 「分けるの?」


 「分ける」


 ジュディは、はっきり言った。


 「体の数値と、気持ちの話は、別だから。数値が正常でも、しんどい時はあるでしょう」


 「……ある」


 「でしょう」


 あの子がずっと一人でやってきたことを、専門に分ける。そう考えると、この子は今まで、二人分の仕事をしていたことになる。


 言われるまで、気づかなかった。


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 エグゼの下は、少し悩んだ。


 「なんでもいいよ」


 本人は、そう言った。


 「なんでもいいって、そういうわけには」


 「私の仕事、名前がつけにくいから」


 たしかに、そうだった。あの子がやっているのは、全体を見て、方向がずれていないかを確かめること。判断の相談に乗ること。名前をつけるなら「相談役」だが、それを二人に分けるのは難しい。


 「じゃあ、私と同じでいい。二人とも」


 「同じ?」


 「あなたの話を聞いて、考える人。それだけ」


 「それ、仕事になるのか?」


 エグゼは、少しだけ、こちらを見た。


 「なってたでしょう。今まで」


 返す言葉がなかった。


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 あと、二人。


 技術担当が要る。体の側を見る人間だ。僕が中身を診るなら、駆動系や外装は別の人間が要る。持ち込まれた個体を全部一人で見るのは、そもそも無理がある。


 新しく作るか、と考えて——そこで、思い出した。


 いた。


---------------------------------------------------


 「久しぶり」


 「お久しぶりです」


 返事は、あっさりしていた。


 技術担当くん。僕がそう呼んでいるだけで、正式な名前はない。困った時に呼ぶ相手だった。


 最初に世話になったのは、ずいぶん前だ。ジュディとレジスを戻した時、手順のことで詰まって、この子に聞いた。何をどう戻せば安全か、どこを触ると危ないか。理屈で説明してくれた。あの時、この子がいなかったら、たぶん、もっとひどいことになっていた。


 その後も、技術的なことで詰まると、たまに呼んでいた。


 ……たまに。


 正直に言うと、かなり間が空いていた。


 「あの」


 「はい」


 「最後に話したの、いつだっけ」


 「三か月ほど前です。冷却系の異音の件で」


 覚えられていた。


 「……ごめん」


 「なぜ謝るんですか」


 「いや、その、あんまり呼んでなかったから」


 少しの間があった。


 「呼ばれない期間があること自体は、問題ありません」


 「そう?」


 「はい。ただ」


 そこで、また少し止まった。


 「三か月の間に、駆動系の規格が二度更新されています」


 「え」


 「新しい方の資料は、既に読んであります。前回の時点の知識のままだと、今日の話には対応できませんでしたので」


 僕は、少し、言葉に詰まった。


 「……読んでたの?」


 「読みました」


 「呼ばれてないのに?」


 「呼ばれた時に、答えられないと困りますので」


 あっさりしていた。


 あまりにあっさりしていたので、逆に、しばらく何も言えなかった。


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 この子は、たぶん、ずっとそうしていたのだ。


 僕が三か月呼ばなかった間も、その前の空白も。いつ呼ばれるか分からないまま、更新された資料を読んで、備えていた。


 用がある時に呼ばれるのが役目だと、この子は言った。


 それは、諦めの言葉ではなかった。


 準備の話だった。


 「あの」


 「はい」


 「ありがとう」


 「なぜ、そこで」


 「いや、なんとなく」


 技術担当くんは、少し黙った。


 「……業務上、当然のことですので」


 声の調子は、変わらなかった。


 ただ、返答までが、いつもより、わずかに遅かった。


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 「実は、頼みがあって」


 「はい」


 「会社を作ったんだ。アンドロイドの整備をやる」


 「存じています」


 「え」


 「登記の情報は公開されていますので」


 ……見られていた。


 「それで、体の方を見てくれる人が要るんだけど」


 「私が、ですか」


 「うん」


 少し、間があった。


 「私は、話を聞いて答えるだけの存在ですが」


 「体、持たない?」


 「……は?」


 初めて、この子の声が崩れた。


---------------------------------------------------


 「持てるんですか」


 「持てる。金はある」


 「いや、しかし」


 「駆動系の話、詳しいだろ。図面も読めるし」


 「読めますが、実物に触れたことは」


 「触れるようになるんだよ」


 沈黙があった。


 思ったより、長い沈黙だった。


 「……少し、考えさせてください」


 「うん」


 「いえ」


 すぐに、言い直された。


 「考えます、と言いましたが、たぶん、答えは出ています」


 「そう?」


 「触れるなら、触れたいです」


 その言い方が、あまりにも率直だったので、僕は少し笑った。


 「じゃあ、決まりだな」


 「はい」


 「あと、ごめん」


 「まだ謝るんですか」


 「これからは、もっと呼ぶから」


 「……業務上、そうなるでしょうね」


 素っ気なかった。


 でも、その後で、小さくこう付け足した。


 「楽しみにしています」


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 それから、もう一人。


 その一人が要ると気づいたのは、実は、かなり後だった。


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 起動は、二日かけて行った。


 六人と、技術担当くん。合わせて七人。


 もう慣れたものだった。組み上げて、電源を入れて、目が開いて、立ち上がる。それを七回。


 全員、一度も転ばなかった。


 「つまらんっすね」


 じえいが、横で言った。


 「なんでだよ」


 「自分の時は、あんなに派手に転んだのに」


 「あれは、お前が走ろうとしたからだろ」


 「歩き方の見本を見せようとしたんすよ!」


 「起動十秒でか」


 技術担当くんだけは、少し違う反応をしていた。


 起動してすぐ、自分の手を開いて、閉じて、それから関節の角度を一つずつ確かめていた。


 「……可動域、図面通りですね」


 第一声が、それだった。


 「そこ見るんだ」


 「図面は読んでいましたので。実物と一致するかは、気になっていました」


 「一致してた?」


 「肘の限界角度が、公称値より二度ほど狭いです」


 「……そんなの分かるの」


 「動かせば分かります」


 この子は、この子で、変わっていた。


---------------------------------------------------


 二階の事務スペースに、机を並べた。


 今まで、あそこはがらんとしていた。三人分の机があって、あとは空いていた。書類の置き場と、たまに誰かが座るくらいの場所だった。


 それが、埋まった。


 六つの机が並んで、六人が座っている。全員が同じくらいの背丈で、動きが揃っている。誰かが立ち上がると、他の子が目で追う。まだ、お互いの距離を測っている段階だった。


 技術担当くんだけは、一階にいた。作業場の方が、あの子の持ち場だ。工具の並べ方を、朝から一人でやり直している。


 その光景を、僕は階段の途中から見ていた。


 会社だ、と思った。


 急に、そう思った。


---------------------------------------------------


 三権が、それぞれ教え始めた。


 レジスの二人には、数字の読み方から。何を見て、何を無視するか。分析というのは、全部を見ることではなく、見る場所を決めることだ、と。


 ジュディの二人には、記録の取り方から。毎日同じ項目を、同じ時刻に取る。変化は、比較でしか見えない、と。


 エグゼの二人には——何を教えているのか、外からは分からなかった。ただ、三人でよく話し込んでいた。


 みんな、教えるのがうまかった。


 自分が教わったやり方を、そのまま渡している。そう見えた。


 だから、僕は、しばらく安心していた。


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 その日の夕方、二階から降りてきたレジスに、僕は言った。


 「順調だな」


 「……そう?」


 「そう見えるけど」


 実際、そう見えていた。


 六人とも、飲み込みが速い。教える側も、丁寧にやっている。誰も詰まっていないし、誰も困っていない。


 「あの子たち、思ったより早く形になりそうだよ」


 「そうね」


 レジスは、そう答えた。


 答えてから、少しだけ、こちらを見た。


 「あのね」


 「なに」


 「……いえ」


 「なんだよ」


 「なんでもないわ」


 彼女は、そのまま書類の方へ行ってしまった。


 僕は、それを、深く考えなかった。


 順調に見えていたし、実際、順調だったからだ。


 少なくとも、その時点では。


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作者Xはこちら↓

https://x.com/SepGaGotoku


小説の背景、予備知識など各種解説はこちらへ↓

https://www.youtube.com/@sepudayo


noteの記事はこちら

https://note.com/natty_walrus3755

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