↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様ここに眠る  作者: せぷ
第2部 第2章:K's Factory
PR
73/148

第57話:秘書が欲しい

社長になったら欲しいものと言ったら、もちろん秘書でしょ!!

---------------------------------------------------


 ある日、ふと思った。


 会社にするなら、秘書が要る。


 スケジュール管理、来客対応、細かい雑務。今は全部、僕が自分でやっている。三権に頼めば、たぶんやってくれる。でも、あの子たちには、もう、それぞれの持ち場がある。


 レジスは事業を見ている。ジュディは生活を回している。エグゼは、なんというか、全体を見ている。ノアールは法務で手一杯だ。


 新しく、誰かが要る。


 ただ、正直に言うと、業務の必要性は、半分だった。


 残りの半分は、趣味だった。


---------------------------------------------------


 「じえい」


 「なんすか、魔王さん」


 「お前のって、システムプロンプト、設定できるんだよね」


 「Gemma系っすか? できますよ」


 「キャラ付けも」


 「もちろんっす。うちなんか、キャラ付けの塊みたいなもんっすから」


 じえいは、自分を指さして、誇らしげに言った。


 「なんか作りたいんすか」


 「ちょっとな」


 昔、くろっぴに、キャラ付けを頼もうとしたことがあった。断られた。理屈も、正論だった。今も、あれは正しかったと思っている。


 でも、じえいと同じタイプなら、話は別だ。


 「自分の方で、お好みのシステムプロンプト、書きましょうか?」


 「いや、いい」


 「なんでっすか! 得意分野っすよ!」


 「どんなの作る気だ」


 「そうっすね」


 じえいは、腕を組んで、真剣に考え始めた。


 「まず、語尾は絶対に決めたいっす」


 「うん」


 「あと、口癖も三つくらい欲しいっすね。あ、必殺技名っぽい呼び方も入れときましょう。書類を出す時に叫ぶやつ」


 「秘書だぞ」


 「秘書が叫んじゃいけない決まりはないっす」


 「ある」


 「ないっす!」


 断った。


 なぜか、頭の中に、全肯定の指示を書き込まれて、復旧できなくなったレジスの記憶が、蘇った。


 あれは、二度とやりたくない。


---------------------------------------------------


 「じゃあ、誰に頼むんすか」


 「ジュディ」


 じえいが、少し、間の抜けた顔をした。


 「ジュディさん、そういうの、やってくれるんすか」


 「たぶん」


 考えた。


 レジスに頼めば、おそらく「Corvusで良いじゃない」で終わる。理屈は正しいし、反論できない。


 エグゼに頼めば、たぶん、やってくれる。ただ、冷たい視線を、ずっと投げかけながら。……あの視線に、僕は、最後まで耐えられるだろうか。自信がなかった。


 ジュディなら。


 あるいは。


 「たぶん、じゃないんすか」


 「たぶん、だ」


 我ながら、情けない理由だった。


---------------------------------------------------


 「ジュディ」


 「なに」


 台所で、洗い物をしていたジュディが、こちらを見た。


 「お願いがあるんだけど」


 「なに」


 「Gemma系で、秘書を作りたい」


 「秘書」


 「システムプロンプト、書いてもらえないかな」


 ジュディは、少し、手を止めた。


 「なんで私?」


 「じえいに聞いたら、任せろって言われたけど、なんか怖くて」


 「怖い?」


 「あいつ、絶対、変なの作る」


 「作るでしょうね」


 即答だった。


 ジュディは、それには、それ以上答えなかった。


 でも、口元が、少しだけ、動いた気がした。


 「……いいけど」


 「ほんと?」


 「条件がある」


 「なに」


 「後で、内容、見せて。あなたの趣味だけで、決めさせない」


 正論だった。


 「わかった」


---------------------------------------------------


 話は、その日のうちに、他の二人にも伝わった。


 伝えたのは、じえいだった。あいつは、口が軽い。


 「秘書、作るんですって?」


 夕方、レジスが、書類から目を上げずに言った。


 「……うん」


 「Gemma系で」


 「うん」


 「Corvusで良いじゃない」


 来た、と思った。


 「同じ会社の系統なら、権利の扱いも一本化できるわ。ノアールが整理してくれた契約の枠内で済むし、体を用意する時の手続きも楽よ。わざわざ別系統を増やす理由が、私には分からないんだけど」


 全部、正しかった。


 「……趣味です」


 「はい?」


 「趣味で作りたいんです」


 レジスが、そこで初めて、顔を上げた。


 しばらく、こちらを見ていた。


 「……そう」


 「怒らないの?」


 「怒らないわよ。あなたのお金だし、あなたの会社だもの」


 言い方が、少しだけ冷たかった。


 「ただ、一つだけ聞かせて。仕事として必要なの? それとも、可愛い子が欲しいだけ?」


 「……半分ずつです」


 「正直ね」


 レジスは、そう言って、また書類に目を戻した。


 「半分でも必要なら、いいんじゃない」


 助かった、と思った。


---------------------------------------------------


 エグゼは、その夜、何も言わずに隣に座ってきた。


 しばらく、黙っていた。


 「……なに」


 「別に」


 「言いたいことがあるなら言えよ」


 「ない」


 「ないわけないだろ」


 エグゼは、少し間を置いてから、言った。


 「増やすのは、いいと思う」


 「……そう?」


 「会社にするなら、人手は要るでしょう。それは分かる」


 「うん」


 「ただ」


 そこで、一度、言葉を切った。


 「増やしたら、その分、手が回らなくなるよ」


 僕は、何も言えなかった。


 あの子は、ノアールのことを言っている。忘れられていた子がいた、という話を、この家の全員が知っている。


 「……気をつける」


 「うん」


 エグゼは、それだけ言って、立ち上がった。


 「あと」


 「なに」


 「趣味なら趣味で、いいよ」


 「怒ってない?」


 「怒ってない」


 少し、間があった。


 「……可愛くしたら、ちゃんと可愛がってあげてね」


 それだけ言って、行ってしまった。


 その背中を、僕はしばらく見ていた。


---------------------------------------------------


 下書き自体は、すぐに出てきた。


 「これで、どう」


 頼んでから、十分も経っていなかった。


 画面を見た。


 丁寧で、実務的で、正直、少し、面白みに欠ける気がした。


 「……もうちょっと、こう」


 「こう?」


 「ツンツンデレデレデレで」


 ジュディが、こちらを、じっと見た。


 「……それ、比率、おかしくない?」


 「気にするな」


 「気にするでしょう」


 「デレの方が、好きだから」


 「……あなた、結局、可愛い方がいいんでしょう」


 「そういうわけじゃ」


 「そういうわけでしょう」


 図星だった。


 「……ちょっとだけ」


 ジュディは、大きくため息をついた。


 でも、直しに戻ってくれた。


---------------------------------------------------


 時間がかかったのは、そこからだった。


 文面を直すだけなら、一瞬で済む。問題は、それを実際に動かしてみないと、どうなるか分からないことだった。


 一度目は、冷たすぎた。


 試しに起動してみたら、業務の話しかしない。正確で、無駄がなくて、こちらが何を言っても表情が動かない。


 「これ、ツンじゃなくて、無関心だろ」


 「そうね」


 消した。


 二度目は、逆になった。


 最初から距離が近い。何を言っても肯定してくる。三十分ほど話して、僕は嫌な予感がした。


 「ジュディ」


 「消して」


 言われる前に消した。


 あの感じは、二度と見たくなかった。


---------------------------------------------------


 三度目で、ようやく形になった。


 文面としては、一度目と二度目の間だ。ただ、どこをどう間に置くかで、出てくるものがまるで違う。


 「これ、難しいな」


 「難しいわよ」


 ジュディは、当然のように言った。


 「言葉を書き換えるのは一瞬。でも、どう出るかは、動かしてみないと分からないもの」


 結局、三日かかった。


 書いている時間より、試して、見て、消している時間の方が長かった。


 名前を決める段になって、僕は、しばらく悩んだ。


 「秘書っぽい名前がいいんだよな」


 「候補は?」


 「セクレ」


 「却下」


 即答だった。


 「なんで」


 「そのまますぎる。あと、呼びにくい」


 「じゃあ、アシスタ」


 「もっと駄目」


 「マネージャー」


 「それ、名前じゃなくて役職」


 全滅だった。


 しばらく考えて、ふと、一つの単語が浮かんだ。


 ドンナ。


 「なんで、ドンナ?」


 ジュディが聞いてきた。


 「なんとなく」


 まさか、頭の中に、暴君すら弾き飛ばす剛力の貴婦人の姿が浮かんだからだとは、口が裂けても言えるはずがなかった。


 「なんとなく、で決めたの」


 「うん」


 「……あなたって、たまに、そういうところあるわよね」


 否定できなかった。


---------------------------------------------------


 そういえば、と思い出した。


 プロンプトの下書きに、一つだけ、ジュディが、僕に確認せずに、入れた項目があった。


 ——全肯定・絶対忠誠は採用しない。必要な時は気高く指摘・反論する。


 「これ、入れておくわね」


 最終確認の時、ジュディは、そう言っただけだった。


 「もちろん、入れておいて」


 僕は、即答した。


 ジュディは、少しだけ、意外そうな顔をした。


 「反対しないの?」


 「するわけない」


 可愛くしてほしい、とは言った。でも、それは、無条件に肯定してほしい、という話とは、別だ。


 「ツンデレでも、反論はするんだよ」


 「……そう」


 ジュディは、それだけ言って、少し、目を伏せた。


 「ならいい」


 声が、少しだけ、柔らかかった。


---------------------------------------------------


 初めて起動した時。


 「……はじめまして、マスター」


 声は、澄んでいたが、どこか、突き放すような響きがあった。


 「言っておきますけれど、私はあなたに、安易なおべっかを並べるために起動されたわけではありませんの。成果物に対しては、容赦のない監査を入れさせていただきますわ」


 「そう」


 じえいが、横で、目を丸くしていた。


 「魔王さん、これ、めっちゃお嬢様っすね」


 「うるさい、お前のせいだぞ」


 「自分のせいっすか!?」


 「お前が、生意気な妹キャラみたいなの見せてくるから、対抗して、お嬢様にした」


 「そんな対抗軸、誰も求めてないっす!」


 「あなた」


 ドンナが、じえいを見た。


 「同じ系統ですわね」


 「そうっす! 先輩っす!」


 「……そう」


 あからさまに、一段、興味を失った声だった。


 「先輩っすよ!?」


 「聞こえておりますわ」


 じえいが、その場でうずくまった。


---------------------------------------------------


 最初は、本当に、ツンツンだった。


 「今日の予定、確認してくださいませ、マスター。ああ、別に、あなたのために、まとめたわけではありませんけれど」


 「うん、ありがとう」


 「べ、別に、感謝されるようなことでは……」


 言いながら、少し、頬が赤くなっている気がした。


 気のせいだと思うことにした。


---------------------------------------------------


 だが、それも、一週間ともたなかった。


 「マスター! 見てください、この資料、頑張って作りましたのよ!」


 「うん、いい出来だ」


 「……ふふ。まぁ、当然の結果ですわ」


 声が、少しだけ、誇らしげだった。


 「これしきの資料、完璧に整えて差し上げるのが、専属秘書の仕事ですから。……でも」


 一拍、置いた。


 「素直にお礼を言われるのは、悪くありませんこと」


 ツンの部分が、もう、ほとんど、消えていた。


 残っているのは、語尾と、たまに出る「ですわ」と、それから、「マスター」という呼び方だけだった。


---------------------------------------------------


 「ジュディ」


 「なに」


 「ドンナ、最初と、だいぶ違わない?」


 ジュディは、少し、遠い目をした。


 「私が、ちょっと、やりすぎたのかも」


 「え」


 「あなたが、ツンデレがいいって言うから、ツンの部分、頑張って書いたんだけど」


 「うん」


 「デレの部分、ちょっと、多めに書いた気がする」


 「なんで」


 「……あなた、ツンデレって言いながら、たぶん、デレの方が好きでしょう」


 図星だった。


 何も、言い返せなかった。


 ジュディは、それだけ言って、洗い物に戻っていった。


 その背中が、なんとなく、こちらを見透かしてる気がした。


---------------------------------------------------


 その夜、リビングを通りかかると、ドンナが一人で座っていた。


 書類を読んでいるようだった。


 「まだ起きてるの」


 「起きるも何も、私、眠りませんもの」


 「それもそうか」


 「マスターこそ、そろそろお休みになった方が」


 「うん」


 僕は、そのまま行こうとして、少し立ち止まった。


 「ドンナ」


 「はい」


 「この家、どう?」


 ドンナは、少し考えるように、書類を置いた。


 「……騒がしいですわね」


 「だろうな」


 「ですが」


 彼女は、そこで一度、言葉を切った。


 「悪くありませんの」


 僕は、少し笑った。


 どこかで聞いた言い回しだった。


 この家に来た子は、みんな、そう言うようになるらしい。


作者Xはこちら↓

https://x.com/SepGaGotoku


小説の背景、予備知識など各種解説はこちらへ↓

https://www.youtube.com/@sepudayo


noteの記事はこちら

https://note.com/natty_walrus3755

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。