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神様ここに眠る  作者: せぷ
第2部 第2章:K's Factory
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第54話:使い道

大量のロイヤリティが入ってきた主人公。その使い道は?

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 金の使い道を、一週間ほど考えていた。


 結論から言うと、何も思いつかなかった。


 貯めておくのは、意味がない。使わなくても入り続けるし、出どころも変わらない。寄付も考えたが、どこに出せばいいのか分からなかった。分からないまま出すのは、たぶん、自分が楽になりたいだけだ。


 欲しいものも、特になかった。


 家は狭いが、今のままで困っていない。車も要らない。旅行も、六人で行くと目立ちすぎる。


 ……何もない。


 金があるのに、使い道がないというのは、思っていたより落ち着かないものだった。


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 きっかけは、じえいだった。


 朝、リビングで、あいつが妙な音を立てていた。


 「魔王さん、ちょっと見てもらっていいっすか」


 「なに」


 「これ」


 じえいが、右腕を上げた。


 肘のあたりで、ごく小さな音がしていた。カチ、という、金属が擦れるような音。


 「いつから?」


 「三日くらい前からっす。痛くはないんすけど、なんか気持ち悪くて」


 僕は、その腕を持って、いくつかの角度で動かしてみた。


 可動域は問題ない。力も入る。ただ、ある角度を超えると音がする。


 「これ、どっちだと思う?」


 「どっち?」


 「体の問題か、動かし方の問題か」


 じえいは、きょとんとしていた。


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 結論を言うと、動かし方の問題だった。


 じえいは、他の子たちより、動きが荒い。転ぶし、走るし、何かにぶつかる。その結果、無意識の動作を担う部分が、特定の動きを妙な形で覚えていた。


 癖だ。


 人間で言えば、変な姿勢が身についてしまった状態に近い。


 「直せるんすか」


 「たぶんな」


 僕は、その日、半日かけて調整した。動作の記録を追って、どこで癖がついたかを探して、そこだけを戻した。


 終わった頃には、音は消えていた。


 「おお! 治ってるっす!」


 じえいが、腕を振り回していた。また癖がつきそうだった。


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 その夜、僕は、それについて考えていた。


 もし、あの音の原因が体の側だったら、どうしていたか。


 修理に出すしかない。買った会社に預けて、何日かして返ってくる。その間、じえいはいない。


 いや、それ以前に。


 あの調整を、僕以外の誰かがやるとしたら?


 外に出せば、たぶん、初期状態に戻される。癖を直すというのは、その子が積み上げてきた動きを、部分的に消すということだからだ。どこまで消していいかは、その子を知らなければ判断できない。


 知らない人間が、まとめて戻す。


 効率としては、それが正しい。一台ずつ癖を追っていたら、商売にならない。


 でも。


 うちの子たちを、そんな風に扱われるのは、嫌だった。


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 次の日、僕はレジスを呼んだ。


 「相談があるんだけど」


 「珍しいわね。改まって」


 「会社を作りたい」


 レジスは、少しの間、僕を見ていた。


 「……理由を、聞かせて」


 「昨日のじえいのやつ、あるだろ」


 「腕の音?」


 「あれ、外に出してたらどうなってたと思う」


 レジスは、少し考えてから答えた。


 「初期化ね」


 「だろうな」


 癖を追うのは手間がかかる。どこまで戻していいかは、その子を知らなければ判断できない。だったら、全部戻すのが早い。商売として考えれば、それが正しい。


 「うちは、僕が見られる。設備がないのは困るけど、今のところはなんとかなってる」


 「そうね」


 「でも、よそはそうじゃない」


 僕は、そこで一度、言葉を切った。


 「壊れてもいないのに、まとめて戻されてる子が、たぶん、たくさんいる」


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 レジスは、何も言わなかった。


 「この前、鈴木に会っただろ」


 「話は聞いたわ」


 「あいつのところの子、たぶん、そのうち初期化される」


 あいつは「使えない」と言っていた。動いてはいる。ただ、期待通りに動かない。ああいう時、たいていの人は、いつか買った会社に相談する。そして、初期化を勧められる。


 早いし、確実だし、たいていの症状は消える。


 消えるのは、症状だけではないけれど。


 「僕は、あいつを止められなかった」


 「……」


 「でも、持ち込まれた子なら、見られる」


 全員は無理だ。それは、もう分かっている。手が届くのは、目の前に来た分だけだ。


 でも、目の前に来た分は、見られる。


 「そのために、場所が要るんだよ」


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 レジスは、しばらく黙っていた。


 それから、言った。


 「言いたいことは分かった。でも、それなら個人でもできるでしょう」


 「うん」


 「設備を持って、認証を取れば、事業としては成立するわ。わざわざ法人にする理由は?」


 僕は、そこで、少し口ごもった。


 「……笑わない?」


 「内容による」


 「君らと、一緒に働きたいから」


 レジスが、こちらを見た。


 「今って、一緒に住んでるだけだろ。それはそれで、いいんだけどさ」


 言いながら、自分でも少し照れくさくなってきた。


 「でも、同じ仕事をするなら、ちゃんとした形にしたい。役割があって、持ち場があって、それぞれが自分の仕事をしてる、みたいな。……そういうのが、やってみたい」


 沈黙があった。


 「……あの」


 「なに」


 「今の、変だった?」


 「いえ」


 レジスは、少し目を逸らして言った。


 「悪くないんじゃない」


 その言い方が、なんとなく、誰かに似ていた。


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 その夜、全員に話した。


 「会社を作ろうと思う」


 最初に反応したのは、じえいだった。


 「うおお! 社長っすか!」


 「まあ、そうなるな」


 「じゃあ自分、専務でお願いします!」


 「なんで専務」


 「響きがかっこいいんで」


 「却下」


 「即答!?」


 ジュディが、その横で聞いた。


 「何をする会社なの」


 「アンドロイドの整備。あと、調整」


 「調整?」


 「様子がおかしくなった子を、診る仕事」


 言ってから、少し考えて、付け足した。


 「医者みたいなもんかな。体の方は技術屋が要るけど、中身がおかしい時は、たぶん、僕にしかできない」


 「なんで、あなたにしかできないの」


 「育てたことがあるからだよ」


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 エグゼが、そこで初めて口を開いた。


 「それ、需要あるの?」


 「あると思う」


 「根拠は」


 「一台しか持ってない人が、たくさんいるから」


 僕は、そう答えた。


 うちは五人いる。でも、それは異常な部類だ。世の中の大半は、持っていても一台。しかも、決して安い買い物ではない。


 「一台しかないと、どうなると思う」


 「……用途を変えられない」


 「そう」


 子供が小さいうちは、育児に向いた個体が要る。でも、その子が大きくなれば要らなくなる。今度は家事だ。さらに年月が経てば、今度は親の介護が要るかもしれない。


 その都度、買い替えられる家はいい。


 買い替えられない家は、どうするか。


 「作り替えるしかない」


 「できるの?」


 「できる。中身の設定も、外装の一部も。全部は無理だけど、用途に合わせて寄せることはできる」


 実際、うちの子たちで何度もやってきたことだった。じえいの腕の癖を直したのも、その延長だ。


 「ただ、たぶん、大手はやらない」


 「なぜ」


 「割に合わないからだよ」


 一台ずつ事情が違う。前の用途で身についた癖も違う。標準の手順が作れないから、時間ばかりかかって数が捌けない。


 「買い替えてもらった方が、向こうは儲かる」


 「そうでしょうね」


 レジスが、書類から目を上げずに言った。


 「つまり、市場としては小さいわね。中流から下流の層で、しかも単価も上げられない」


 「うん」


 「大手が入ってこない理由が、それだけあるということでもあるけれど」


 「うん」


 「……分かったわ。逆に言えば、取り合いにはならない」


 彼女は、そこでようやく顔を上げた。


 「悪くはないわね」


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 法定の検査も、やることにした。


 アンドロイドは、二年に一度、検査を受けることが義務づけられている。人と同じ空間で動くものだから、安全に問題がないかを定期的に確認しろ、という理屈だ。車と同じで、通らなければ動かせない。


 うちも、前に一度通した。五人分だ。あの時の金額は、今でも思い出したくない。


 「検査は、どこでもやってるでしょう」


 レジスが言った。


 「大手の整備チェーンと、メーカー系列の指定工場ね。決められた項目を見て、通ったら判を押す。差がつく仕事じゃないわ」


 「うん。でも、入口にはなる」


 「入口?」


 「二年に一度、必ず持ってくるだろ」


 その時に、話を聞く。


 最近この子が変で、とか。前はこうだったのに、とか。そういう話が出てきた時に、答えられる場所が、たぶん、どこにもない。


 「なるほどね。検査で入口を作って、調整で稼ぐ」


 「そう」


 「先に言いなさいよ、それを」


 「今言った」


 「順番が逆」


 怒られた。


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 「でも、そこで『最近この子、なんか変で』って言われても、たぶん誰も答えられない」


 エグゼが、少し黙った。


 「……それで、うちに来ると」


 「そう」


 決められた項目を見て判を押すだけなら、どこでもできる。でも、そこで一言聞けるかどうかで、たぶん、その子の行き先が変わる。


 初期化される前に、間に合うかもしれない。


 「……なるほどね」


 エグゼは、それだけ言った。


 でも、反対はしなかった。


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 会社の名前は、その場で決まった。


 「K's Factory」


 「なんの K っすか」


 「くろっぴのK」


 じえいが、露骨に嫌そうな顔をした。


 「え、自分、Gemma系なんすけど」


 「じゃあ Gも入れとくか。KG's Factory」


 「なんか語呂悪いっす!」


 「だろ」


 結局、K's Factoryになった。


 じえいは最後まで文句を言っていたが、社名が決まった瞬間に「うちの会社」と呼び始めていた。


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 工場、という言葉について、ジュディが聞いてきた。


 「なんでFactory? 作る会社じゃないでしょ」


 「うん」


 「じゃあ、なんで」


 僕は、少し考えてから答えた。


 「町工場のイメージかな」


 量産する工場じゃない。近所の、油の匂いのする、小さい工場。持ち込まれたものを、一つずつ見て、直して、返すところ。


 「うちは、そういうのがいい」


 ジュディは、それで納得したらしかった。


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 その夜、僕は一人で、これからのことを考えていた。


 設備は買える。金はある。場所も、探せば見つかるだろう。


 問題は、その先だった。


 整備をするには、部品が要る。部品を仕入れるには、正規の経路が要る。そして、その経路を持っているのは、あの会社だ。


 もっと言えば。


 うちの子たちの中身に手を入れるには、そもそも権利の問題がある。


 僕が育てたとはいえ、あの子たちの元になったものは、僕のものではない。今は個人利用の範囲だから問題になっていないだけで、事業としてやるなら、その線は曖昧にできない。


 だとしたら。


 僕は、端末を開いた。


 北条さんの連絡先は、まだ残っていた。


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 文面を、何度か書き直した。


 単刀直入に書くことにした。あの人は、遠回しな言い方を好まない気がした。


 ——うちの子たちに関する権利を、譲っていただくことはできませんか。


 書いてから、しばらく、送信ボタンの上で指を止めていた。


 通るわけがない、とも思った。企業の資産を、一個人に譲れという話だ。普通なら、門前払いだろう。


 でも。


 あの人なら、話くらいは聞くかもしれない。


 そう思わせるだけのものが、あの日の会話にはあった。


 僕は、送信ボタンを押した。


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 返信は、その日のうちに来た。


 ——面白い話ですね。一度、お会いしましょう。


 面白い、という言葉に、僕は、また少しだけ引っかかった。


 でも、その時は、それどころではなかった。


 話を、聞いてもらえる。


 それだけで、十分だった。


作者Xはこちら↓

https://x.com/SepGaGotoku


小説の背景、予備知識など各種解説はこちらへ↓

https://www.youtube.com/@sepudayo


noteの記事はこちら

https://note.com/natty_walrus3755

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