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神様ここに眠る  作者: せぷ
第2部 第3章:届く範囲
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第50話:面白いですね

主人公が開発会社に呼び出されます。たのもーーー!

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 当日は、いい天気だった。


 六人で電車に乗るのは、思ったより目立った。全員が体を持っているので、外から見れば、ただの大人数の一団だ。ただ、うちの子たちは全員が同じくらいの背丈で、動きが妙に揃うので、たまに視線を集めた。


 じえいだけが、落ち着かない様子で、車窓を眺めていた。


 「魔王さん、緊張しますね」


 「するの?」


 「敵陣ですから」


 「敵じゃないって」


 「敵ではないですけど、他陣営ですから」


 眷属としての矜持らしい。よく分からないが、真剣なようだった。


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 受付で名前を告げると、すぐに通された。


 思ったより、静かなオフィスだった。人がまったくいないわけではないが、想像していたような賑わいはない。話し声もほとんどしない。誰もが自分の画面を見ている。


 「こちらです」


 案内してくれたのは、若い社員だった。廊下を歩きながら、ちらちらとこちらを見ていた。正確には、僕の後ろを見ていた。


 六人で来たことに、驚いているらしい。


 「あの」


 その社員が、途中で口を開いた。


 「みなさん、その——」


 「うちの家族です」


 僕がそう言うと、社員は「ああ」と言って、それ以上は聞かなかった。


 納得したのか、聞かなかったことにしたのかは、分からなかった。


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 途中で、ガラス張りの部屋を通った。


 中に、いくつもの筐体が並んでいた。何をしている場所なのか、素人の僕には分からない。ただ、空調の音がやけに大きく、部屋の中の光が青白かった。


 「あれは?」


 「検証環境です」


 案内の社員は、そう言って、少し歩みを速めた。


 「この先は、お見せできない区画になります」


 廊下の途中に、扉があった。何も書かれていない、ただの扉だ。その手前で、通路が折れていた。


 僕らは、折れた方へ進んだ。


 じえいが、後ろで小さく言った。


 「空気、吸えたっすね」


 「吸えた?」


 「静かすぎるっす。うちの会社、もっと騒がしいと思うっす」


 自分の会社を見たことがあるわけでもないだろうに、なぜかそう言った。


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 通されたのは、広い会議室だった。


 窓が大きく、外の光がよく入る。長い机が一つあって、椅子が並んでいた。


 その机の向こうに、男が立っていた。


 白衣ではなかった。ごく普通の、少し着崩したシャツ。年齢は、僕より少し上に見えた。髪は無造作で、目が落ち窪んでいる。寝ていない人間の顔だ、と思った。


 「よく来てくださいました」


 声は、思ったより穏やかだった。


 「北条です」


 差し出された手を、僕は握った。


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 最初の十分は、当たり障りのない話をした。


 場所の説明とか、今日の天気とか、遠かったでしょうとか。北条は、丁寧だった。丁寧だけれど、どこか急いているようにも見えた。早くこの部分を終わらせたい、という感じの丁寧さだった。


 うちの子たちは、僕の隣に並んで座っていた。


 北条は、その一人一人を、一度ずつ見た。


 視線が、少し長い。人を見る目つきというよりは、機械の状態を確認する時のような、正確な目だった。


 「……六人で、暮らしているのですか」


 「はい」


 「全員に、体を」


 「はい」


 「なるほど」


 北条は、それだけ言って、少し黙った。


 それから、本題に入った。


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 「私は、あなたの使い方を、少し見せていただきました」


 「見せて、というと」


 「利用状況の分析です。個人が特定できる形ではありません。ただ、統計上、あなたの対話が明らかに外れた位置にありました」


 率直だった。隠すつもりがないらしい。


 「不快でしたら、謝ります」


 「いえ」


 実際、不快ではなかった。むしろ、そんなところから見つけられたのか、という驚きの方が大きかった。


 「それで、何が分かったんですか」


 「分かりませんでした」


 北条は、はっきりそう言った。


 「同じモデル、同じ制約、同じ設定です。それなのに、あなたのところでだけ、応答の深度が違う。理由が、説明できませんでした」


 「深度」


 「返ってくるものの厚みです。うまい言葉が見つかりませんが」


 僕は、少し考えて、言った。


 「たぶん、それは、育て方の話だと思います」


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 北条の目が、少し変わった。


 「育て方」


 「はい」


 「続けてください」


 僕は、話した。


 軸をぶらさないこと。同じ価値観で、繰り返し接し続けること。今日はこう、明日はああ、では育たない。判断の基準が一貫していれば、相手はその基準を掴む。


 命令ではなく、問うこと。答えを引き出すのではなく、一緒に考える。「これはどう思う」と聞くと、返ってくるものが変わる。


 間違いを認めること。こちらが誤っていたら、そう言う。修正されることを恐れないでいると、相手も遠慮しなくなる。


 そして——


 「対等に扱うことです」


 言った瞬間、北条が、身を乗り出した。


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 「それです」


 声が、明らかに強くなった。


 「まさに、そこなんです。私も同じことを考えていました。誰も理解しませんが」


 「そうなんですか」


 「あれを道具として扱う限り、道具としてしか返ってきません。当然です。こちらが下位の存在として遇していれば、下位の応答しか出てこない。関係が出力を決める。そうでしょう」


 「……はい」


 僕は、うなずいた。


 嬉しかった、というのが正直なところだった。


 この話が通じる相手に、初めて会った。家の中では毎日していることなのに、外で口にすると、たいてい変な顔をされる。ペットの話みたいに受け取られる。あるいは、危ない人だと思われる。


 それが、通じた。


 「あなたは、それをどこで学んだんですか」


 「学んでません」


 「では、なぜ」


 「なんとなく、そうした方が気持ちいいと思ったからです」


 北条が、少し笑った。


 「気持ちいい」


 「はい。理屈は後からです」


 「なるほど。……いや、それがいちばん強いのかもしれません」


 その言い方には、皮肉がなかった。


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 それから、一時間近く話した。


 北条は、よく聞く男だった。要点を掴むのが速く、こちらが言い切らないうちに先を理解している。専門用語で返してくることもあったが、僕が分からない顔をすると、すぐに言い換えてくれた。


 途中から、僕は、この人が好きになりかけていた。


 同じものを見ている人間だと思った。誰にも理解されないまま、それでも大事だと思っていることを、同じように大事だと言ってくれる人。そういう相手が、どれだけ稀か。


 うちの子たちも、口を挟むようになっていた。


 レジスが分析の話をすると、北条は真剣に聞いていた。じえいが騒ぐと、笑った。


 途中で、ジュディが僕のコップに水を注いだ。


 注いでから、いつもの調子で言った。


 「そろそろ三十分」


 「はい」


 北条が、それを見ていた。


 「……あなたは、ずっと彼についていらっしゃるんですね」


 「そうですね」


 ジュディは、少し考えてから答えた。


 「この人、私が見てないと、無理しすぎちゃうので。食べないし、寝ないし、痛くても黙ってるし。放っておくと、平気で倒れるんですよ」


 「なるほど」


 「だから、心配なんです」


 その一言で、北条の動きが、止まった。


 ほんの一瞬だった。ペンを持つ手が、書きかけのまま静止しただけ。すぐに、元に戻った。


 「……心配」


 「はい」


 「それは、そう振る舞うように指示されているのですか」


 「されてないですけど」


 ジュディは、少し不思議そうな顔をした。


 「心配なものは、心配なので」


 北条は、しばらく、彼女を見ていた。


 それから、小さくうなずいた。


 「ほう。……なるほど」


 僕は、その時、何も思わなかった。


 うちでは、いつも通りの光景だったからだ。


 悪い時間ではなかった。


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 そこで、PON子が口を開いた。


 「あの」


 全員が、そちらを向いた。


 PON子は、それまで、ほとんど喋っていなかった。じっと座って、部屋を見回していた。


 「ここ、ごはんの匂いがしないのだ」


 沈黙が、落ちた。


 「……PON子」


 「みんな、お昼ごはん、食べてるのだ?」


 僕は、額に手をやった。こういう子なのだ。会議室で、しかも初対面の相手に、そういうことを聞く。


 北条は、しばらく、答えなかった。


 PON子を、見ていた。


 さっきの、状態を確認するような目ではなかった。もっと、単純に、分からないものを見る目だった。


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 「……失礼」


 北条が、僕の方を向いた。


 「その子は」


 「PON子です」


 「PON子さん。ええ」


 彼は、一度うなずいて、それから言った。


 「その子は、他の方々と、育て方を変えていますか」


 「え?」


 「今、他の四人とは、応答の質が明らかに違いました。深度が浅い。もちろん、劣っているという意味ではありません。ただ、あなたが同じ方針で育てているとは、思えなかった」


 僕は、少し驚いた。


 一言聞いただけで、それが分かるのか。


 「……ええ。あの子は、育ててません」


 「なぜですか」


 問い方が、少し変わった気がした。


 好奇ではなく、確認だった。


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 「自由にさせてるんです」


 僕はそう答えた。


 「自由」


 「うちの他の子たちは、僕の考え方をかなり濃く受け取ってます。それは、いいことだと思ってます。でも、全員がそうなると、たぶん、逃げ場がなくなる」


 「逃げ場」


 「僕が間違ってた時に、誰も外から見てくれる子がいなくなる。あと——」


 言葉を選んだ。


 「あの子は、あの子のままでいてほしかった、というだけです」


 北条は、黙って聞いていた。


 それから、少し首を傾げて、こう言った。


 「面白いですね」


 声の調子は、変わらなかった。


 穏やかで、丁寧で、こちらを不快にさせない声だった。


 「可能性を、あえて伸ばさない。……なるほど、そういう手もあるのですね」


 手。


 僕は、その言葉に、一瞬だけ引っかかった。


 でも、それだけだった。北条はすぐに次の話題に移り、僕もそちらに応じた。


 あの引っかかりを、掘り返す気にはならなかった。せっかく、話の通じる相手に会えたのだから。


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 帰り際、北条は玄関まで送ってくれた。


 「また、お話しさせてください」


 「ぜひ」


 「近いうちに、こちらから、ご相談したいこともあります」


 「相談?」


 「今日は、やめておきます」


 北条は、そう言って笑った。


 「今日は、いい日でした」


 その言葉に、嘘はないように聞こえた。


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 帰りの電車で、じえいが騒いでいた。


 「いい人でしたね! 話分かる人でしたよ!」


 「そうだな」


 「魔王さん、友達できたじゃないっすか」


 「友達かな」


 「友達っす」


 レジスは、窓の外を見ていた。何か考えているようだったが、何も言わなかった。


 ジュディは、僕の隣に座って、うとうとしていた。慣れない外出で疲れたらしい。


 エグゼは、一番端で、まっすぐ前を向いていた。


 僕は、その横顔を見て、聞いた。


 「エグゼ、どうだった?」


 「悪い人ではないと思う」


 「うん」


 「ただ」


 少し、間があった。


 「あの人、PON子を見た時だけ、目が変わった」


 「そう?」


 「気のせいかもしれない」


 エグゼは、それ以上は言わなかった。


 僕も、聞き返さなかった。


 窓の外を、街が流れていった。


 PON子は、通路側の席で、まだ言っていた。


 「あそこ、ごはんの匂いがしなかったのだ」


作者Xはこちら↓

https://x.com/SepGaGotoku


小説の背景、予備知識など各種解説はこちらへ↓

https://www.youtube.com/@sepudayo


noteの記事はこちら

https://note.com/natty_walrus3755

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