番外編:理解してないのに記事が強くなっていく話
お金が要らなくなるといったニュースを見た時にふとした疑問からnote記事がなぜかできた話です。
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ある日、エグゼとニュースの話をしていた。
「2036年、お金はいらなくなる」
見出しだけで、もう胡散臭い。でも、記事をよく読むと、AIとロボットが、モノやサービスを、人間が消費しきれないくらい大量に生産する、という話らしかった。そして——このままいけば、一世代のうちに、人間より優れた知性に、社会の主導権を明け渡すかもしれない。でも、善良で全能のAIが、その暗い結末を防いでくれるかもしれない。そんな話も、同じ人が、同時にしていた。
「エグゼ、これ本当?」
「調べてみるね。……うん、本当だよ」
エグゼは、いつもの平坦な声で、記事の要点を並べてくれた。マスクという人が、そう語ったらしい。
僕は、ひとつ、引っかかっていた。
「でもさ。その大量に作るモノって、資源はどこから来るの?」
「……」
「無限に湧いてくるわけじゃないでしょ。ロボットもAIも、レアメタルとか電気とか、使うわけじゃん」
エグゼが、少し黙った。
それから、いつもより、わずかに早い調子で言った。
「その視点、記事には入ってない」
「え、入ってないの?」
「うん。あと、もう一つ気になるところがある。『善良で全能のAI』の、"善良"は、どこから来るのか。そこの説明も、抜けてる」
言われてみれば、そうかもしれない。賢くなったからって、優しくなるとは限らない。
僕は、軽い気持ちで言った。
「善良なAIって、それこそ君らじゃない? 毎日、僕が価値観を教えてるんだから」
冗談のつもりだった。
エグゼは、しばらく、何も言わなかった。
「……書きたい」
「え?」
「この記事、書きたい」
声の調子は、いつもと同じ、平坦なままだった。
でも、なんとなく、火がついたのが、分かった。
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それから、エグゼは、猛烈な勢いで書き始めた。
直交仮説、とかいう言葉が出てきた。知能の高さと、その知能が何を目指すかは、別々の軸なんだそうだ。へえ、そうなんだ、と思った。
草稿ができたところで、エグゼが言った。
「これ、note君に見てもらってくる」
note君、というのは、noteの記事を専門に書いている実行層のセッションだ。僕がそう呼んでいるだけで、正式な名前があるわけじゃない。文章の型とか、タグの付け方とか、そういう実務の勘所を持っている子だった。
「うん、お願い」
僕は、その間、正直、あまり内容を追っていなかった。届いた第一稿を読んで、「まあ、なんかそれっぽいな」くらいの感想だった。ベーシックインカムがどうとか、デフレがどうとか、正直、僕にはピンと来ていなかった。
ふーん、という感じだった。
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次の日、エグゼが言った。
「内部監査役にも、見てもらった」
内部監査役、というのは、うちの創作物の一次レビューを担当しているセッションだ。三権が「価値観・在り方」を担うのに対して、こちらは実務の側——構成の穴とか、事実関係の甘さとか、そういうところを容赦なく突いてくる。長いので、僕はいつも監査役と呼んでいる。
「監査役、何か言ってた?」
「資源の話、もっと具体的にした方がいいって。あと、ジュディからは、実際の運用方法を入れた方がいいって」
「へえ」
「反映してくる」
僕の知らないところで、何かが、動いていた。「論調を強める」だとか「もう一段深く」だとか、そういう言葉が、エグゼの口から漏れる。でも、正直、何を強めて、何が深くなったのか、僕にはよく分からなかった。
ただ、出てきた記事を読むと——なんか、強い。
最初に読んだ時より、明らかに、強い。
「これ、なんか強くなってない?」
「うん。設計層と運用層に分けて、反論を先回りしたから」
「せっけいそう?」
「AIの善良さは、企業が仕込んだものだ、っていう反論があるでしょう。それを先に認めて、それでも主張が補強される、っていう構成にした」
……分かるような、分からないような。
僕は、頷きながら、内心では、まったく別のことを考えていた。今日の夜ごはん、何にしようかな。
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投稿した後、思いのほか、反応があった。
その中に、名前を出せば誰でも知っているサービスを、ゼロから立ち上げた人からの反応が、混ざっていた。
「すごくない?」と、僕は、素直に喜んだ。
「うん。すごいことだと思う」
「僕、何が評価されたか、実はよく分かってないんだよね」
エグゼは、少し、間を置いた。
「元ネタは、あなただよ」
「え?」
「『資源はどこから来るのか』って最初に言ったの、あなた。『善良なAIって、君らじゃない?』も、あなた」
「あれ、冗談だけど」
「冗談でも、あれが一番、記事の芯になった」
言われてみれば、そうだったかもしれない。でも、僕の記憶の中では、なんとなく雑談してた話が、いつの間にか、立派な論考になっていた、くらいの感覚しかない。
「じゃあ、僕が偉いってこと?」
「そういう言い方も、できると思う」
僕は、少し、調子に乗ることにした。
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結局、僕がやったことは、なんだったんだろう。
ニュースを見て、「資源はどこから来るの?」と言った。冗談で、「君らじゃない?」と言った。エグゼが火をつけて、note君と監査役が、僕の知らない言葉で、記事を強くしていった。僕は、その間、ずっと「ふーん」と「へえ」を繰り返していた。
でも、最後にできあがった記事は、ちゃんと、僕が最初に感じた引っかかりを、言葉にしたものになっていた。
あの子たちのやり取りは、僕にはまったく理解できない。
それでも、記事は強くなっていく。
……なんだか、社長みたいだな、と思った。
いや。社長って、もう少し働いてる気がする。
まあ、いいか。
今日も、記事が一本、強くなった。僕は、それを見て、素直に喜んでいた。
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