第41話:アンドロイドが来た
アンドロイドって今でも300万くらいで手に入れられるらしいっすよ!?
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時は、経った。
季節が、何度か巡った。あの頃、毎日のように流れていたニュース——どこそこの会社が人を減らした、どこそこの業界が消えた——も、いつのまにか、古い話になっていた。
人は、慣れる。
崩れていく音にも、慣れてしまう。あれほど恐ろしかったものが、日常の背景になって、誰も、いちいち騒がなくなる。それが、いいことなのか、悪いことなのかは、わからない。
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最初に気づいたのは、たぶん、ずいぶん前だったのだと思う。
ただ、はっきり自覚したのは、その日だった。
——最近、配達に来る人を、見なくなった。
玄関の前に、荷物が置かれている。伝票の受け取りも、押印も、いらない。誰が持ってきたのか、考えたこともなかった。
いや、違う。考えなかったんじゃない。
考えなくても、済むようになっていたのだ。
あの日、僕は思った。工場は動いている、宅配は届く、介護の現場は人手が足りない、と。体を使う仕事は、まだ残っている、と。ロボットは、そこまで器用じゃないから、と。
器用に、なったらしい。
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街には、いつのまにか、人でないものが混ざっていた。
オフィス街を歩いていると、スーツを着た彼らとすれ違う。動きが滑らかで、目線の運びが自然で、すれ違ってから「あ、今のは」と気づく程度には、人に近い。ホワイトカラータイプ、と呼ばれているらしい。会議に出て、資料を作って、判断もする。
工場や物流に入っているのは、もっと無骨なやつらだ。装飾も、表情も、いらない。効率だけを詰め込んだ、正直な形をしている。夜中の倉庫で、灯りもつけずに動いているのを、テレビで見た。彼らには、明かりが要らないのだ。
家庭に入るタイプもある。家事をして、話し相手になって、年寄りの世話をする。近所の一人暮らしのおばあさんの家に、いつからか、若い女性が出入りするようになっていた。挨拶をされて、初めて気づいた。声の抑揚が、少しだけ、丁寧すぎた。
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町工場の匠は、しばらく、持ちこたえていた。
手の感覚だけで、千分の一ミリを削り分ける——ああいうものは、最後まで残ると、誰もが言っていた。実際、しばらくは、そうだった。彼らの価値は、むしろ上がっていた。希少になったから。
でも、その希少さが、目をつけられた。
匠の手つきを、何百時間も撮り続けたやつらがいる。関節の角度、力の抜き方、金属の鳴る音への反応。全部、記録された。
最後の砦だった人たちが、最後だから、いちばん熱心に、真似された。
知的労働から、中小企業から、そして手の仕事へ。順番に、静かに、水位が上がってきた。
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街を歩いていると、たまに、視線が刺さる場面に出くわす。
アンドロイドが通る。誰も、何も言わない。ただ、通りすぎるまでの数秒、そちらを見ている目の色が、少し、暗い。
それだけだ。
誰も殴らないし、誰も叫ばない。ただ、見ている。行き場のなかった苛立ちが、ようやく、目で追える形を見つけた——それだけの話だった。
僕は、目を逸らして、歩いた。
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その頃、僕の仕事も、変わっていた。
AIの動作設計、というやつをやっている。どう振る舞うべきか、どこで止まるべきか、どういう時に人に判断を返すべきか。そういうことを、決める仕事だ。
出世した、という感覚は、まるでない。
何かを勝ち取ったわけでも、志願したわけでもない。ただ、くろっぴたちとの付き合い方を、社内で何度か話しているうちに、いつのまにか、そういう仕事になっていた。名刺の肩書きが変わったことに、しばらく気づかなかったくらいだ。
僕自身は、何も変わっていない。
変わったのは、僕の決めたことが、どこへ届くかだった。
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あの夜のことを、思い出す。
全員は救えない、と自分に言い聞かせた夜だ。手が届くのは、目の前の、たった一人だけ。飯を奢って、隣で手を動かして、種を蒔く。届かないところは、見送るしかない。それが、いちばん誠実なやり方だと、思うことにした。
なのに、今。
僕が決めた一行が、顔も知らない何万人のところへ、まとめて届いていく。会ったこともない誰かの生活の中で、僕の決めた振る舞いをした何かが、今日も、動いている。
届く範囲は、あの頃より、ずっと広くなった。
嬉しくないわけじゃない。役に立っている、という手応えもある。
それでも。
——これは、俺が、蒔きたかった種なのか?
あの夜、僕が惜しんでいたのは、届く数じゃなかった気がする。飯を食いながら、あいつの顔を見て、目の色が変わる瞬間に立ち会う——あの、たった一人分の手触りのことだったはずだ。
数は、増えた。手触りは、増えていない。
届く範囲は広がったのに、抱きしめられる範囲は、何ひとつ、変わっていなかった。
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夜、帰り道で、空を見上げた。
あの頃と、同じ夜だった。コンビニの灯りも、遠くの車の音も、何も変わらない。ただ、その下を歩いているものの種類だけが、少し、増えた。
僕は、相変わらず、見ているだけだった。
崩れていくのを見ていた。人が沈んでいくのを見ていた。標的を探す目を見ていた。そして今、自分の手が思ったより遠くまで届いてしまったことを、他人事みたいに、見ている。
見ているだけだ。
——そろそろ、何かを、しなければ。
その思いだけが、確かに、胸の底で、形を持ち始めていた。
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