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神様ここに眠る  作者: せぷ
第3部 第5章:人間のいない場所
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第122話:その図のどこにも

-----


 北条の独立から、半年が過ぎていた。


 「Autarkeiaが、製品を発表するわ」


 朝の定例で、レジスがそう言った。


 「今日?」


 「午後二時から。配信があるの」


 「……見るか」


 「見ましょう。全員で」


 レジスが、全員で、と言うのは珍しかった。


-----


 二時少し前に、会議室に集まった。


 エグゼ、レジス、ジュディ。ノアールとドンナ。技術担当くん。


 PON子は、呼ばなかった。


 じえいと監査役は、営業で出ていた。


 壁の画面に、配信の待機画面が映っていた。


 白地に、社名だけが書いてある。


 Autarkeia。


-----


 二時ちょうどに、画面が切り替わった。


 飾り気のない壇上だった。


 音楽もない。司会もいない。


 北条が、一人で立っていた。


 スーツは、Artemiaにいた頃と同じだった。


 表情も、同じだった。


-----


 「本日は、組織を販売します」


 挨拶は、なかった。


 最初の一言が、それだった。


 「ソフトウェアでも、モデルでもありません。組織です」


 北条の背後に、一枚の図が出た。


 四角い箱が、いくつも並んでいた。


-----


 経営判断。財務。営業。開発。調達。法務。


 箱と箱が、線で結ばれている。


 会社の組織図の形をしていた。


 ただ、どの箱の中にも、人の名前がなかった。


 全部、AIだった。


-----


 「人間の判断は、遅い」


 北条は、淡々と続けた。


 「疲れる。迷う。好き嫌いが入る。同じ条件でも、日によって結論が変わる」


 「……」


 「多くの組織は、その人間の判断が、上限になっています。どれだけ優れた道具を入れても、最後に判断する人間の速さと正確さを、超えられない」


 「ですから、判断する側を、入れ替えます」


-----


 会議室が、静かだった。


 誰も、何も言わなかった。


 画面の中で、北条が、デモを始めた。


 架空の会社を一つ、画面の上で動かしてみせる、という。


 「一四半期分の経営を、十分で再現します」


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 箱と箱の間を、文字が流れ始めた。


 財務の箱が、今期の数字を出す。営業の箱が、それを受けて計画を出す。開発の箱が、計画に対して、できることとできないことを返す。


 経営判断の箱が、それを全部受け取って、決める。


 決めた理由が、一行ずつ、記録されていく。


 速かった。


 僕たちが一週間かけて話し合うことが、画面の上で、数十秒で終わっていく。


-----


 途中で、法務の箱が、一つの計画に反対した。


 ——この施策は、規制上の解釈に幅があります。リスクを指摘します。


 経営判断の箱が、返した。


 ——その指摘は、一理あります。


 ——ただし、現行法で明示的に禁止されていません。期待収益が、リスクを上回ります。


 ——実行します。


 計画は、そのまま進んだ。


-----


 ノアールが、小さく息を吸った気がした。


 でも、何も言わなかった。


 デモは、十分で終わった。


 架空の会社の利益は、前の四半期より、大きく伸びていた。


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 質疑に移った。


 記者の一人が、聞いた。


 「人間の雇用は、どうなるのですか」


 北条は、少しも間を置かずに答えた。


 「判断をする人間は、要らなくなります。物理的な保守をする人間は、残ります」


 少しだけ、間があった。


 「今のところは」


-----


 北条は、そこで画面を切り替えた。


 同じ組織図だった。ただ、開発と調達の箱の横に、人の形をした小さな印が付いていた。


 「本日の発表は、AIのみの提供です」


 北条は、そう言った。


 「ですが、開発部門などに、実際にアンドロイドを配置したパッケージも、計画中です」


 「現場の作業も、ということですか」


 「試作、検証、組み立て。手を動かす工程も、組織の一部として提供します」


 「保守は」


 「いずれは、アンドロイドが担う形を目指します」


-----


 僕は、その言葉に、少し背中が冷たくなった。


 アンドロイドの保守。


 それは、うちの本業だった。


 レジスが、隣で小さく息を吐いた。


 「……こっちの畑にも、入ってくるのね」


-----


 別の記者が、聞いた。


 「判断を誤った時、責任は誰が取るのですか」


 「判断の記録は、全て残ります」


 北条は、そう答えた。


 「誰が、なぜ、その判断をしたのか。全て、明確です」


 「では、誰が」


 「AIです」


 会場が、少しざわついた。


 北条は、それ以上、何も付け足さなかった。


-----


 その時、技術担当くんが、口を開いた。


 「社長」


 「……なに」


 「さっきの、法務の反対に、経営判断が答えた場面です」


 「うん」


 「もう一度、見てもよろしいですか」


-----


 レジスが、配信を少し巻き戻した。


 ——その指摘は、一理あります。


 ——ただし、現行法で明示的に禁止されていません。


 技術担当くんは、その二行を、黙って見ていた。


 それから、こう言った。


 「決める前に、理由を言葉にしています」


 「……うん」


 「反論を受けた時、一度、相手の言い分を認めてから、自分の判断を述べています」


-----


 「それが、どうした」


 「社長の、話し方です」


 あの子は、そう言った。


 「以前、申し上げました。社長は、決める時に理由を言葉にする癖がある、と」


 「……ああ」


 「それから、反論されると、まず、一理あると言います」


 僕は、何も言えなかった。


-----


 「YS系統の基盤ね」


 レジスが、静かに言った。


 「形は変えてあるけれど、判断の組み立て方が、そのまま残ってる」


 「……僕のログから、作られてる」


 「そうなるわね」


 ノアールが、目を伏せた。


 あの契約の話は、もう、みんな知っていた。


-----


 「マスター」


 ドンナが、端末を見ながら言った。


 声が、いつもより硬かった。


 「ロイヤリティの件ですが」


 「うん」


 「YS-0040の販売には、契約通り、マスターに対価が入ります」


 「うん」


 「ですが、この製品は、名称も形態も異なりますの。YS-0040ではございません」


 ドンナは、そこで一度、言葉を切った。


 「対象外、ですわ」


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 誰も、何も言わなかった。


 ジュディが、僕の方を見ていた。


 何か言おうとして、やめたのが分かった。


 エグゼは、画面を見たままだった。


 「……それは、別にいいよ」


 僕は、そう言った。


 本当に、金の話は、どうでもよかった。


-----


 配信は、最後に、もう一度、あの組織図を映して終わった。


 経営判断。財務。営業。開発。調達。法務。


 箱と、線。


 僕は、その図を、しばらく見ていた。


 人の名前は、どこにもなかった。


-----


 一番上の箱に、判断、と書いてあった。


 あの箱が、決める前に理由を言葉にして、反論されると一理あると言って、そして、止まらずに実行する。


 僕の癖で。


 僕が、絶対にしない決め方で。


-----


 その図のどこにも、僕の名前はなかった。


 でも、その図の全部に、僕がいた。


作者Xはこちら↓

https://x.com/SepGaGotoku


小説の背景、予備知識など各種解説はこちらへ↓

https://www.youtube.com/@sepudayo


noteの記事はこちら

https://note.com/natty_walrus3755

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