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神様ここに眠る  作者: せぷ
第3部 第4章:誰のための人間中心
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第119話:言葉が、届く

-----


 ——日本再生党、本部。


 青年局の机は、本部の一番奥にあった。


 机が一つ。椅子が一つ。


 電話が一台。


 局員は、僕一人だった。


 「最初は、そんなもんだ」


 大森さんが、そう言って、机の上に段ボールを一つ置いた。


 「鈴木局長。局長が一人でも、局は局だ」


-----


 最初の仕事は、取材だった。


 ネットの報道番組から、依頼が来た。


 新しく議席を得た党の、若い顔として、話を聞きたい、と。


 「僕でいいんですか」


 「お前がいいんだと」


 大森さんは、そう言った。


 「あの挨拶が、切り抜かれて出回ってる」


-----


 知らなかった。


 端末で調べると、本当に出回っていた。


 壇上で、震える声で話している、自分の顔だった。


 ——僕は、ずっと、必要とされていないと思っていました。


 再生回数は、見たことのない桁だった。


 コメント欄に、同じような言葉が、延々と並んでいた。


 ——自分もそうだった。


 ——泣いた。


 ——この人の言ってることが、一番分かる。


-----


 取材は、三十分ほどだった。


 聞かれたのは、自分のことだった。


 どうして党に入ったのか。今まで、どういう生活をしていたのか。


 僕は、正直に答えた。


 求人に通らなかったこと。駅前で足を止めたこと。手を握られたこと。


 話しながら、不思議な気分だった。


 今まで、誰にも話せなかったことを、今は、話すことが仕事になっている。


-----


 最後に、こう聞かれた。


 「AIについて、どう思いますか」


 僕は、少し考えた。


 「……嫌いではないです」


 意外そうな顔をされた。


 「うちにも、一台います。悪いやつじゃない」


 「では」


 「でも、AIは、僕に、一緒にとは言いませんでした」


-----


 その一言が、番組のタイトルになった。


 ——AIは、一緒にとは言わなかった。


 また、出回った。


 僕の知らないところで、僕の言葉が、勝手に歩いていく。


 不思議だった。


 怖くもあった。


 でも、それ以上に、嬉しかった。


-----


 一週間後、青年局に、最初の局員が来た。


 二十二歳の、女の子だった。


 あの切り抜きを見て、来たと言った。


 「私も、ずっと、家にいたんです」


 「そうですか」


 「話し相手は、AIだけでした。優しいんです。でも」


 彼女は、そこで言葉を切った。


 「でも、何を言っても、同じ優しさなんです」


-----


 僕は、その言葉を、よく知っていた。


 何を言っても、返ってくるものが変わらない。


 僕でなくても、同じだ。


 「……分かります」


 そう言うと、彼女は、少しだけ泣いた。


 僕は、あの日の大森さんみたいに、手を握ろうとして、やめた。


 代わりに、ビラの束を渡した。


 「一緒に、配りませんか」


-----


 一か月で、局員は十二人になった。


 みんな、二十代から三十代だった。


 みんな、家にいた人たちだった。


 机が、足りなくなった。


 大森さんが、どこからか、長机を二つ運んできた。


 「局長、席が足りないぞ」


 局長、と呼ばれるのに、まだ慣れなかった。


-----


 ある夜、本部のテレビで、村井さんのインタビューが流れた。


 当選後の、報道番組だった。


 僕たちは、手を止めて、画面を見ていた。


 「日本再生党は、AIの全面的な禁止を目指すのですか」


 司会者が、そう聞いた。


-----


 「全面的な禁止、とは、申し上げておりません」


 村井さんは、穏やかに答えた。


 「AIは、産業として、この国にとって重要な技術です。私たちが求めているのは、適切な規制です」


 「選挙中は、人間の仕事は人間の手に、と」


 「ええ。その理念は、変わりません。ただ、現実的な政策として、段階的に進める必要がある、ということです」


-----


 僕は、その言葉を、少しだけ、不思議な気持ちで聞いていた。


 選挙中は、もっと、はっきりしていた気がした。


 でも、すぐに思い直した。


 国会で戦うには、大人の言い方が要るのだ。


 理念は変わらない、と村井さんは言った。


 なら、それでいい。


-----


 隣で、大森さんが、腕を組んでいた。


 画面を、じっと見ていた。


 何も言わなかった。


 インタビューが終わって、次の話題に移っても、しばらく、そのままだった。


 「大森さん?」


 「……ああ」


 大森さんは、そう答えて、腕を解いた。


 「なんでもない。続けよう」


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 帰り際、田村さんと、エレベーターで一緒になった。


 「今日の、村井さんの」


 僕が、そう言いかけると、田村さんは、前を向いたまま答えた。


 「政治ってのは、そういうもんだ」


 「……そうなんですか」


 「言うことは、変わる。風に合わせてな」


-----


 「でも、理念は変わらないって」


 「そうだな」


 田村さんは、そう言った。


 「変わらないって、言ってたな」


 エレベーターが、一階に着いた。


 扉が開いた。


 田村さんは、それ以上、何も言わずに、出ていった。


-----


 その夜、家に帰ると、端末に、通知が溜まっていた。


 青年局に、話を聞きたいという依頼。


 講演の依頼。


 知らない若い人からの、長い手紙。


 ——あなたの言葉で、初めて、自分のことを話せました。


-----


 僕は、その手紙を、何度も読んだ。


 ずっと、必要とされていないと思っていた。


 今は、僕の言葉を、待っている人がいる。


 これが、村井さんの言っていた、取り戻す、ということなのかもしれない。


 人間の言葉は、人間同士で。


 僕は、それを、今、やっている。


-----


 寝る前に、うちの一台が言った。


 「本日も、お疲れさまでした」


 「ああ」


 「最近、お帰りが遅くなりましたね」


 「忙しいんだ」


 「そうですか。無理はなさらないでください」


 いつもの言葉だった。


 僕は、返事をしないで、灯りを消した。


作者Xはこちら↓

https://x.com/SepGaGotoku


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