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神様ここに眠る  作者: せぷ
第3部 第4章:誰のための人間中心
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第116話:数字の下にいる人

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 週に一度の市場報告は、その週、いつもより短かった。


 「HIIの件、まとめておいたわ」


 レジスは、そう言って、画面を出した。


 「どうなってる」


 「縮んでるわ。静かに」


 あの子は、数字を並べた。


-----


 国内では、省庁に続いて、自治体と主要な企業が利用を止めた。


 配信ストアは、新規の入手を止めた。


 国外でも、いくつかの国が、輸入の見直しを始めていた。


 「全部じゃないのか」


 「全部じゃないわ。使い続ける国も、あるの」


 「どこ」


 「……前に、話に出た国とか」


-----


 衝突が起きている、あの取引先の国だった。


 「止められないのね、たぶん」


 レジスは、そう言った。


 「行政も医療も、全部あれで動いてるんだもの。止めたら、国が止まる」


 「……一度入れたら、抜けられない」


 「そういうことね」


 僕は、その言葉に、少し寒くなった。


-----


 「それから、もう一つ、気になるものがあったの」


 レジスは、画面を切り替えた。


 グラフだった。


 「あの国の、経済の数字よ」


 「HIIの?」


 「国全体の」


-----


 右肩上がりの線が、一本引かれていた。


 「国が発表している成長率。今年も、去年と同じくらい伸びてるわ」


 「今回の件があっても?」


 「数字の上では、何も起きていないことになってる」


 「……そんなこと、あるのか」


 「あるのよ。発表するのは、あの国自身だから」


-----


 レジスは、もう一本、線を重ねた。


 今度は、ほとんど平らだった。


 「これは、電力の使用量」


 「平らだな」


 「平らよ。この三年、ほとんど伸びていないの」


 さらに、もう一本。


 「こっちは、貨物の量。港と鉄道の」


 下がっていた。


-----


 「経済が本当に伸びてるなら」


 レジスは、そう言った。


 「工場も動くし、物も運ばれるし、電気も使うわ。一緒に伸びるはずなの」


 「伸びてない」


 「伸びてないわね」


 「じゃあ、どっちが本当なんだ」


 「伸びてない方でしょうね」


-----


 あの子は、最後に一枚、画像を出した。


 夜の地上を、空から撮ったものだった。


 街の明かりが、白く光っている。


 「三年前と、今年」


 二枚が、並んでいた。


 ほとんど、同じだった。


 「国が言う通りに伸びてたら、明かりも広がってるはずよ」


-----


 僕は、その二枚を、しばらく見ていた。


 街の明かりは、嘘をつかない。


 発表する人がいないからだ。


 「……点数と、同じだな」


 僕は、そう呟いた。


 「そうね」


 レジスは、すぐに分かったようだった。


-----


 「あの子が言ってたでしょう」


 「測るための物差しが、目標になると、測れなくなる」


 「そう」


 レジスは、画面の右肩上がりの線を指した。


 「会社は、試験の点数を揃えてた。国は、発表する数字を揃えてた」


 「同じことを、二重にやってた」


 「そういうことになるわね」


-----


 「なんで、そんなことするんだ」


 「数字が、目標になってるからよ」


 レジスは、そう答えた。


 「伸びてないと、困る人がいるの。だから、伸びていることにする」


 「……本当は、伸びてないのに」


 「本当に伸ばすより、伸びたことにする方が、ずっと早いもの」


-----


 僕は、あの国の報告書を思い出していた。


 同じ性能で、三分の二の値段。


 あれも、発表の数字だった。


 揃えられた点数と、揃えられた統計。


 その上に、あの国は、立っていた。


-----


 「これで、終わりなのか」


 僕は、そう聞いた。


 「終わりって」


 「あの国が、この件で、脅威じゃなくなるってこと」


 レジスは、少し考えた。


 「この件ではね」


 「この件では」


-----


 「借りていた強さがなくなって、試験の点数だけが残った」


 レジスは、そう言った。


 「そういう製品を、進んで買う国は、もう少ないわ。輸出は、縮んでいく」


 「うん」


 「数字で膨らませていた分も、いつかは、合わなくなる。電気も、物も、明かりも、発表の数字には付いてこないもの」


 「……ゆっくり、萎んでいく」


 「たぶん、ね」


-----


 「勝ったってことか」


 僕がそう言うと、レジスは首を振った。


 「勝ち負けじゃないわ」


 「じゃあ、何だ」


 「火が、一つ消えただけよ」


 あの子は、画面を閉じた。


 「国が消えたわけじゃないの。人は、あそこで暮らしてるわ。今日も」


-----


 その言葉を、僕は、しばらく考えていた。


 人は、あそこで暮らしている。


 発表される数字が伸びていても、電気は増えていない。


 明かりは、三年前と同じだった。


 ということは、あの国の人たちの暮らしは、発表されている数字より、ずっと下にある。


-----


 その国の中で、一日中AIに話しかけている人がいて、その会話が国に届いている。


 たぶん、息子のことを心配している人もいる。


 村の診療所では、今日から、試験の点数だけは取れるモデルが、子供を診ている。


 僕は、その誰の顔も知らない。


 知る方法も、ない。


-----


 「レジス」


 「なに」


 「あの国の人たちは、自分の国の数字が、本当じゃないって知ってるのかな」


 レジスは、少し黙った。


 「知ってる人もいるでしょうね」


 「知らない人は」


 「知らないまま、暮らしてるわ」


-----


 「……うちが、何か言うことじゃないな」


 「ないわね」


 レジスは、そう言った。


 「言ったところで、届かないもの。あの国の人たちのニュースは、あの国が作ってるんだから」


 その通りだった。


 この国のニュースが、見る人ごとに違うように。


 あの国のニュースも、あの国が見せたいように作られている。


-----


 その夜、僕は、明かりの写真をもう一度見ていた。


 三年前と、今年。


 同じ明るさの、夜の街。


 あの白い点の一つ一つに、窓があって、誰かが住んでいる。


 伸びたことにされた数字の、ずっと下で。


 僕は、それを、うまく言葉にできないまま、画面を閉じた。


作者Xはこちら↓

https://x.com/SepGaGotoku


小説の背景、予備知識など各種解説はこちらへ↓

https://www.youtube.com/@sepudayo


noteの記事はこちら

https://note.com/natty_walrus3755

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