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神様ここに眠る  作者: せぷ
第3部 第4章:誰のための人間中心
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第106話:通信量がおかしい

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 週に一度、レジスの部隊が市場の報告を上げてくる。


 その週の報告に、見覚えのある名前があった。


 「HIIが、伸びてるわ」


 レジスが、そう言った。


 「国内でも?」


 「国内でもよ。特に、ベーシックインカムの層で」


 「……安いからか」


 「安いからよ」


-----


 前に、あの子が言っていたことを思い出した。


 価格で選ぶ層は、必ずいる。


 うちは、選ばなかったけれど。


 「同じ性能で、三分の二の値段らしいな」


 「表向きはね」


 「表向き?」


 「検証が済んでないの。数字を鵜呑みにはできないわ」


 レジスは、それだけ言って、次の項目に移った。


-----


 その夜、僕は、端末の前に座っていた。


 HIIの動画生成サービスの画面が、開いていた。


 ……調査だ。


 どんなものか、触ってみないと分からない。レジスも、検証が済んでいないと言っていた。


 だから、これは調査だ。


 前にも、同じことを言った気がした。


 気のせいだと思うことにした。


-----


 使ってみると、よくできていた。


 操作は、他社のものとほとんど変わらない。出来上がる映像の質も、遜色なかった。


 値段は、たしかに安い。


 「……悪くないな」


 そう呟きながら、いくつか試していた。


 そして、ある設定画面で、手が止まった。


-----


 規制の項目が、なかった。


 他社のサービスには、必ずある。作れない内容の一覧が、長々と書いてある。


 ここには、それがなかった。


 正確には、あることはあった。ただ、他社に比べて、驚くほど短かった。


 ……どこまで作れるんだ?


 純粋な、技術的な疑問だった。


 少なくとも、その時は、そう思っていた。


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 試しに、少しだけ際どい内容を指示してみた。


 他社なら、丁寧に断られる程度のものだ。


 作れた。


 「……作れるのか」


 もう少しだけ、踏み込んでみた。


 作れた。


 僕は、椅子に座り直した。


-----


 これは、調査だ。


 規制がどこまでゆるいのかを把握するのは、立派な市場分析だ。


 競合の弱点を知ることにもなる。


 だから、もう少し確かめる必要がある。


 ……そう自分に言い聞かせながら、気づけば、深夜の二時を回っていた。


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 それから一週間、僕は毎晩、調査を続けた。


 調査の内容については、ここでは触れない。


 ただ、非常に熱心な調査だった、とだけ書いておく。


-----


 八日目の朝、レジスが全員を招集した。


 二階の会議室に、エグゼ、ジュディ、ドンナ、ノアールが揃っていた。


 僕も、呼ばれた。


 PON子だけは、呼ばれなかった。


 後から思えば、賢明な判断だった。


-----


 「うちの回線の件よ」


 レジスが、画面に図を出した。


 通信量の推移だった。


 一週間前から、ある一本の線だけが、急に跳ね上がっている。


 「この一週間、海外の特定のサーバーへの通信が、急増してるの」


 僕の背中を、汗が一筋流れた。


-----


 「時間帯は」


 エグゼが聞いた。


 「夜間に集中しておりますわ」


 ドンナが答えた。


 「二十三時から、深夜三時まで。毎晩ですの」


 「行き先は」


 「HIIのサーバーです」


 ノアールが、そう言った。


 全員の視線が、ゆっくりと一か所に集まった。


-----


 「……発信元の端末は」


 「特定済みですわ」


 ドンナが、こちらを見た。


 「マスターの端末ですの」


 部屋が、静かになった。


-----


 「説明して」


 レジスが、言った。


 「……調査だ」


 「何の」


 「HIIの、サービスの」


 「一週間、毎晩、深夜三時まで?」


 「熱心な、調査だった」


 「何を調べていたの」


 「……規制の、範囲を」


-----


 ドンナが、無言で端末を開いた。


 「おい」


 「共有端末ですわ」


 また、それか。


 あの子は、作成履歴を開いた。


 一行目を読んだ。


 二行目を読んだ。


 三行目で、手が止まった。


-----


 ドンナの顔が、みるみる赤くなった。


 あの子は、そのまま、何も言わずに端末を閉じた。


 閉じ方が、丁寧だった。


 丁寧すぎて、かえって怖かった。


 「……マスター」


 「はい」


 「私の端末でも、あるのですけれど」


 「……すみません」


-----


 レジスが、深く息を吐いた。


 「三週間の件から、何も学んでないのね」


 「今回は、違うだろ。依存じゃない」


 「依存じゃなければいいと思ってるの?」


 「……」


 ジュディが、横から言った。


 「深夜三時は、寝る時間よ」


 そこか、と思った。


 でも、あの子の目は、明らかに冷たかった。


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 エグゼは、何も言わなかった。


 ただ、こちらを見ていた。


 しばらくして、一言だけ言った。


 「……ふうん」


 それが、一番こたえた。


-----


 「法的には、問題ありません」


 ノアールが、そう言った。


 僕は、少しだけ顔を上げた。


 「成人向けの範囲に収まっている限り、違法ではありません」


 「そうだよな」


 「倫理的な評価は、私の管轄ではありませんので」


 あの子は、そう言って、目を伏せた。


 管轄外の評価は、目の温度で伝えるらしかった。


-----


 会議は、それで終わった。


 一人ずつ、部屋を出ていった。


 レジスは、首を振りながら。


 ジュディは、「今夜は早く寝なさい」と言い残して。


 ドンナは、端末を抱えて、こちらを見ずに。


 エグゼは、一度だけ振り返って、また前を向いた。


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 最後に、ノアールが残った。


 「……まだ、何か」


 「一点だけ」


 あの子は、そう言って、さっきの図をもう一度出した。


 「送信量を、見てください」


 「送信量?」


 「受信ではありません。こちらから、先方へ送っている量です」


-----


 僕は、その線を見た。


 受信量の線より、明らかに太かった。


 「動画を作るなら、受け取る方が多いはずですよね」


 「……普通はな」


 「こちらが送っているのは、指示の文章だけのはずです。数百文字程度の」


 「うん」


 「それにしては、多すぎます」


-----


 「何を送ってるんだ」


 「分かりません。暗号化されています」


 ノアールは、そう答えた。


 「ただ、必要な量を、はるかに超えています」


 少しの間があった。


 「……つまり」


 「社長が何を作ったかを、先方が把握している可能性があります」


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 僕は、しばらく何も言えなかった。


 一週間分の、熱心な調査の内容が。


 海の向こうのサーバーに。


 「……それは、まずい」


 「まずいですね」


 ノアールは、うなずいた。


 「いろいろな意味で」


-----


 その夜、僕は早めに布団に入った。


 ジュディに言われた通りだった。


 でも、眠れなかった。


 理由は、昨日までとは、まったく違っていた。


 ……何を、送られたんだろう。


 それを考え始めると、別の意味で、目が冴えて仕方がなかった。


作者Xはこちら↓

https://x.com/SepGaGotoku


小説の背景、予備知識など各種解説はこちらへ↓

https://www.youtube.com/@sepudayo


noteの記事はこちら

https://note.com/natty_walrus3755

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