第84話:鉄くず
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その日も、駄目だった。
面接は、オンラインで二十分。相手は担当者が一人。聞かれたのは、通える曜日と、健康状態と、他に応募しているかどうか。
三つとも、前と同じだった。
三日後に通知が来る。理由は書いていない。それも、前と同じだ。
通知を待つ必要すらない気がした。
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部屋にいると、うちの一台が話しかけてくる。
飲み物はいるか。部屋の温度はどうか。何か手伝えることはあるか。
悪気はないのだろう。
でも、聞かれるたびに、何もしていない自分を確認させられる。
だから、また出た。
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公園に着いたのは、四時頃だった。
前に来た時と、同じ場所だ。
同じように、子供が走り回っていた。同じように、大人が何人か座っていた。
あの父親も、いた。
下の子を抱いて、上の子を目で追っている。
……幸せそうだな。
この前と、まったく同じことを思った。
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僕は、少し離れたベンチに座った。
やることがないので、しばらくぼんやりしていた。
子供の一人が、こちらを見た気がした。
この前、絆創膏を貼った子だったかもしれない。膝を擦りむいて、痛いと言いながら泣かなかった子だ。
でも、目が合ったのは一瞬だった。
すぐに、友達の方へ走っていった。
……そんなものか。
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一時間ほどして、腹が減ってきた。
夕方の割引が始まる時間だった。
駅前のスーパーに寄って、半額の惣菜を二つ買った。唐揚げと、ひじきの煮物。
どちらも、うちの一台に作らせれば作れるものだった。
でも、なんとなく、買った。
作ってもらうと、余計に何もしていない気がする。
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袋を提げて、駅前を歩いていた。
人が多い時間だった。
帰宅する人と、その荷物を持って歩くアンドロイドが、混ざって流れている。
黙って歩くアンドロイドが多い。指示がなければ、喋らないからだ。
主人の半歩後ろを、正確な距離で歩いている。
……あれも、うちのと同じだ。
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その時、声が聞こえた。
大きな声だった。
顔を上げると、古い街宣車が停まっていた。
塗装が剥げていて、屋根の上に人が立っている。白い煙が、車の後ろから細く出ていた。
男が、マイクを握っていた。
五十くらいだろうか。安そうなスーツを着ている。ヨレていた。
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「——汗水流して泥臭く働く人間の尊厳を、あの感情のない鉄くずどもに売り渡して何がベーシックインカムだ!」
喉が、嗄れていた。
長い時間、叫び続けているのだと分かった。
通行人は、誰も足を止めていない。
ちらりと見て、そのまま歩いていく。中には、聞こえていないふりをしている人もいた。
僕も、通り過ぎるつもりだった。
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「一部のIT長者どもが、人間をペットのように施しで飼い殺し!」
……ペット。
「自分たちだけ富を独占している!」
僕は、足を止めていた。
自分でも、なぜ止まったのか分からなかった。
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「私たちは、人間としての誇りを取り戻さねばならない!」
男は、そう叫んだ。
声が、割れていた。
でも、その割れた声が、なぜか耳に残った。
……誇り。
そんな言葉を、久しぶりに聞いた気がする。
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IT長者。
その言葉が、頭の中で反響していた。
誰のことを言っているのか。
演説の中では、抽象的な話だった。誰か特定の人物の名前が出たわけではない。
でも、僕の頭には、一人の顔が浮かんでいた。
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先輩だ。
会社を作って、成功して、AIを何人も抱えている人。
整備と、広告と、健康管理。三つの事業を回して、地図にも載っている。
この前、調べた時に見た。
そして、僕には、枠がないと言った。
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……そうだ。
僕は、その場に立ったまま、考えていた。
僕が惨めなのは、なぜだ。
働きたいのに、働けない。応募しても、通らない。理由も教えてもらえない。
自分が悪いのだと、ずっと思っていた。
努力が足りないのだと。要領が悪いのだと。
でも。
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「技術を持っている者だけが、この社会を独占している!」
男が、そう叫んだ。
独占。
……そうか。
技術は、あるところにはある。
先輩は持っていた。だから、成功した。
僕には、なかった。教えてもらう機会も、なかった。
いや——
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あった。
一度だけ、あった。
アカウントを一か月貸してもらった。ログを見せろと言われた。
あの時、教えてもらえるのだと思った。
でも、教えてもらえなかった。
ログを見せて、それで終わりだった。うちには枠がないと言われて、それで終わった。
……あれは、なんだったんだ。
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見られただけだった。
僕がどう使っているかを、あの人は見た。そして、使えないと判断した。
判断して、切った。
教えることもできたはずだ。あの人は知っていた。何がどう違うのかを、たぶん分かっていた。
でも、教えなかった。
なぜだ。
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「彼らは、自分たちの取り分を減らしたくないのだ!」
男の声が、そう続いた。
……ああ。
そういうことか。
教えたら、競争相手が増える。だから、教えない。
僕を見て、これは脅威にならないと判断して、そのまま帰した。
親切なふりをして。
飯を奢って、話を聞いて、それで終わりにした。
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僕は、その場から動けなかった。
手が、少し震えていた。
半額の惣菜が入った袋が、指に食い込んでいた。
……ずっと、自分が悪いと思っていた。
スクールに行っても駄目だった。教わった通りにやっても駄目だった。応募しても通らなかった。
全部、自分のせいだと思っていた。
でも、違うのかもしれない。
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最初から、そういう仕組みだったのかもしれない。
持っている者が、持ち続けるための仕組み。
僕たちには、金だけが振り込まれる。毎月、勝手に。何もしなくても、生きていけるだけの額が。
飼われている。
あの人の言った通りだ。
ペットのように。
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「あなたたちは、悪くない!」
男が、そう叫んだ。
その一言が、胸に刺さった。
悪くない。
誰にも、言われたことがなかった。
うちの一台に何を言っても、「特にございません」としか返ってこない。
人と話すこともない。相談する相手もいない。
誰も、悪くないと言ってくれなかった。
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「あなたたちは、奪われた側だ!」
僕は、その言葉を、何度も頭の中で繰り返していた。
奪われた。
そうだ。
僕は、奪われたのだ。
仕事を。時間を。誰かに必要とされる機会を。
全部、あの機械たちに。
そして、それを配った人間たちに。
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街宣車の周りには、まだ誰もいなかった。
通行人は、相変わらず通り過ぎていく。
立ち止まっているのは、僕だけだった。
男は、それでも叫び続けていた。
誰も聞いていないのに。
……いや。
聞いている。
僕は、聞いている。
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夕日が、街宣車の塗装を照らしていた。
剥げた部分が、余計に目立っていた。
その上に立っている男は、汗をかいていた。
スーツも、たぶん安物だ。
でも、その姿は、なぜか、僕には、まっすぐに見えた。
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