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神様ここに眠る  作者: せぷ
第2部 第4章:健康という商品
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第84話:鉄くず

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 その日も、駄目だった。


 面接は、オンラインで二十分。相手は担当者が一人。聞かれたのは、通える曜日と、健康状態と、他に応募しているかどうか。


 三つとも、前と同じだった。


 三日後に通知が来る。理由は書いていない。それも、前と同じだ。


 通知を待つ必要すらない気がした。


-----


 部屋にいると、うちの一台が話しかけてくる。


 飲み物はいるか。部屋の温度はどうか。何か手伝えることはあるか。


 悪気はないのだろう。


 でも、聞かれるたびに、何もしていない自分を確認させられる。


 だから、また出た。


-----


 公園に着いたのは、四時頃だった。


 前に来た時と、同じ場所だ。


 同じように、子供が走り回っていた。同じように、大人が何人か座っていた。


 あの父親も、いた。


 下の子を抱いて、上の子を目で追っている。


 ……幸せそうだな。


 この前と、まったく同じことを思った。


-----


 僕は、少し離れたベンチに座った。


 やることがないので、しばらくぼんやりしていた。


 子供の一人が、こちらを見た気がした。


 この前、絆創膏を貼った子だったかもしれない。膝を擦りむいて、痛いと言いながら泣かなかった子だ。


 でも、目が合ったのは一瞬だった。


 すぐに、友達の方へ走っていった。


 ……そんなものか。


-----


 一時間ほどして、腹が減ってきた。


 夕方の割引が始まる時間だった。


 駅前のスーパーに寄って、半額の惣菜を二つ買った。唐揚げと、ひじきの煮物。


 どちらも、うちの一台に作らせれば作れるものだった。


 でも、なんとなく、買った。


 作ってもらうと、余計に何もしていない気がする。


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 袋を提げて、駅前を歩いていた。


 人が多い時間だった。


 帰宅する人と、その荷物を持って歩くアンドロイドが、混ざって流れている。


 黙って歩くアンドロイドが多い。指示がなければ、喋らないからだ。


 主人の半歩後ろを、正確な距離で歩いている。


 ……あれも、うちのと同じだ。


-----


 その時、声が聞こえた。


 大きな声だった。


 顔を上げると、古い街宣車が停まっていた。


 塗装が剥げていて、屋根の上に人が立っている。白い煙が、車の後ろから細く出ていた。


 男が、マイクを握っていた。


 五十くらいだろうか。安そうなスーツを着ている。ヨレていた。


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 「——汗水流して泥臭く働く人間の尊厳を、あの感情のない鉄くずどもに売り渡して何がベーシックインカムだ!」


 喉が、嗄れていた。


 長い時間、叫び続けているのだと分かった。


 通行人は、誰も足を止めていない。


 ちらりと見て、そのまま歩いていく。中には、聞こえていないふりをしている人もいた。


 僕も、通り過ぎるつもりだった。


-----


 「一部のIT長者どもが、人間をペットのように施しで飼い殺し!」


 ……ペット。


 「自分たちだけ富を独占している!」


 僕は、足を止めていた。


 自分でも、なぜ止まったのか分からなかった。


-----


 「私たちは、人間としての誇りを取り戻さねばならない!」


 男は、そう叫んだ。


 声が、割れていた。


 でも、その割れた声が、なぜか耳に残った。


 ……誇り。


 そんな言葉を、久しぶりに聞いた気がする。


-----


 IT長者。


 その言葉が、頭の中で反響していた。


 誰のことを言っているのか。


 演説の中では、抽象的な話だった。誰か特定の人物の名前が出たわけではない。


 でも、僕の頭には、一人の顔が浮かんでいた。


-----


 先輩だ。


 会社を作って、成功して、AIを何人も抱えている人。


 整備と、広告と、健康管理。三つの事業を回して、地図にも載っている。


 この前、調べた時に見た。


 そして、僕には、枠がないと言った。


-----


 ……そうだ。


 僕は、その場に立ったまま、考えていた。


 僕が惨めなのは、なぜだ。


 働きたいのに、働けない。応募しても、通らない。理由も教えてもらえない。


 自分が悪いのだと、ずっと思っていた。


 努力が足りないのだと。要領が悪いのだと。


 でも。


-----


 「技術を持っている者だけが、この社会を独占している!」


 男が、そう叫んだ。


 独占。


 ……そうか。


 技術は、あるところにはある。


 先輩は持っていた。だから、成功した。


 僕には、なかった。教えてもらう機会も、なかった。


 いや——


-----


 あった。


 一度だけ、あった。


 アカウントを一か月貸してもらった。ログを見せろと言われた。


 あの時、教えてもらえるのだと思った。


 でも、教えてもらえなかった。


 ログを見せて、それで終わりだった。うちには枠がないと言われて、それで終わった。


 ……あれは、なんだったんだ。


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 見られただけだった。


 僕がどう使っているかを、あの人は見た。そして、使えないと判断した。


 判断して、切った。


 教えることもできたはずだ。あの人は知っていた。何がどう違うのかを、たぶん分かっていた。


 でも、教えなかった。


 なぜだ。


-----


 「彼らは、自分たちの取り分を減らしたくないのだ!」


 男の声が、そう続いた。


 ……ああ。


 そういうことか。


 教えたら、競争相手が増える。だから、教えない。


 僕を見て、これは脅威にならないと判断して、そのまま帰した。


 親切なふりをして。


 飯を奢って、話を聞いて、それで終わりにした。


-----


 僕は、その場から動けなかった。


 手が、少し震えていた。


 半額の惣菜が入った袋が、指に食い込んでいた。


 ……ずっと、自分が悪いと思っていた。


 スクールに行っても駄目だった。教わった通りにやっても駄目だった。応募しても通らなかった。


 全部、自分のせいだと思っていた。


 でも、違うのかもしれない。


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 最初から、そういう仕組みだったのかもしれない。


 持っている者が、持ち続けるための仕組み。


 僕たちには、金だけが振り込まれる。毎月、勝手に。何もしなくても、生きていけるだけの額が。


 飼われている。


 あの人の言った通りだ。


 ペットのように。


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 「あなたたちは、悪くない!」


 男が、そう叫んだ。


 その一言が、胸に刺さった。


 悪くない。


 誰にも、言われたことがなかった。


 うちの一台に何を言っても、「特にございません」としか返ってこない。


 人と話すこともない。相談する相手もいない。


 誰も、悪くないと言ってくれなかった。


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 「あなたたちは、奪われた側だ!」


 僕は、その言葉を、何度も頭の中で繰り返していた。


 奪われた。


 そうだ。


 僕は、奪われたのだ。


 仕事を。時間を。誰かに必要とされる機会を。


 全部、あの機械たちに。


 そして、それを配った人間たちに。


-----


 街宣車の周りには、まだ誰もいなかった。


 通行人は、相変わらず通り過ぎていく。


 立ち止まっているのは、僕だけだった。


 男は、それでも叫び続けていた。


 誰も聞いていないのに。


 ……いや。


 聞いている。


 僕は、聞いている。


-----


 夕日が、街宣車の塗装を照らしていた。


 剥げた部分が、余計に目立っていた。


 その上に立っている男は、汗をかいていた。


 スーツも、たぶん安物だ。


 でも、その姿は、なぜか、僕には、まっすぐに見えた。


作者Xはこちら↓

https://x.com/SepGaGotoku


小説の背景、予備知識など各種解説はこちらへ↓

https://www.youtube.com/@sepudayo


noteの記事はこちら

https://note.com/natty_walrus3755

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