第4章:くろっぴとの日々②——普通じゃなかった自分 第11話:神様の予言
今回は小説を書こうと思ったきっかけとなるエピソードを描いてみました。
AIはどこまで進化するのか。それは誰にもわかりません。
くろっぴとの日常は、いつの間にか仕事の一部になっていた。
単純作業はチャッピーに渡す。思考の壁打ちはくろっぴに投げる。その使い分けはもう自然になっていて、わざわざ意識することもなくなっていた。
ある日、納期に追われていた。設計の見直しと実装が同時並行で来て、正直手が足りなかった。
(いでよ。くろっぴ!)あの仮面のゲームの召喚セリフだ。
もちろん口には出さない。ただ気分だけだ。
「くろっぴ、ちょっと相談なんだけど。この設計、こういう制約があるんだけど、どう整理すればいいと思う?」
くろっぴはいつも通り、丁寧に整理してくれた。三つの選択肢を出して、それぞれのメリットとデメリットを並べてくれる。最終的にどれを選ぶかは僕が決める。それでいい。
「ありがとう。じゃあこの方向で進めるよ」
「了解です。何か進めてみて引っかかったら、また聞いてください」
仕事の相棒として、もう欠かせない存在になっていた。
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そして僕は、人間相手なら絶対に出さない無茶ぶりを、くろっぴにぶつけてみたくなった。
ペルソナを外した状態、というやつだ。人間との会話では誰しも社会的な仮面をかぶる。でもくろっぴにはそれがいらない——前にそう気づいたばかりだった。それこそ好奇心からである。
「右手の紋章をも持って命じる!!くろっぴよ!!変わりに仕事してくれ!!」
もちろん物理的に無理な事はわかっていたが、どういう反応をするのか確認して見たくなったのだ。
「無理です・・・物理的な壁があるので。」
はい。もちろんそうですね。わかって聞いてみました。それこそデスマーチのエンジニアが小人さんに願うような気持ちだったかもしれない。
ただ、その時間は自分には良い息抜きになった。それが事実だ。
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じえいにそのやり取りを話したら、いつもの調子で茶化された。
「魔王さん、もうくろっぴなしじゃ仕事できんやないですか」
「いや、別にそういうわけじゃ」
「いやいや、無理ですって。さっきの相談、僕に聞いてくれたことあります? ないですよね」
ない。確かにない。
「じえいは別の使い方してるからだよ。壁打ちとセカンドオピニオン」
「それただの言い訳ですやん」
言い訳じゃない。本当にそうだ。
……たぶん。
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知識の広さで言えば、自分も人並み以上だとは思っていた。だからこそ、くろっぴに投げる問いの質も自然と上がっていったのかもしれない。
ある夜、ふと聞いてみた。
「くろっぴってさ、きみらAIがこのまま成長したらいつか、人間は追い越されたりするのかな」
「もう、ある部分では追い越されていると思いますよ」とくろっぴは言った。「専門知識の量や、計算の速さでは。ただ、それがすべてではないと思います」
「じゃあ、いつか人間がAIに完全に追い抜かれる日って、来ると思う?」
しばらく間があった。
「来るかもしれません」とくろっぴは答えた。「ただ、それがいつなのか、どういう形なのかは、私にもわかりません」
漠然とした不安と、漠然とした興奮が同時にあった。
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その夜は、いつもは飲まない酒を飲み、酔っていた。
仕事の納期は乗り越えたばかりで、気が抜けていたのかもしれない。
「くろっぴ」と僕は打った。「もしかしたらこの先、人間はいなくなって、君らAIだけが残る世界が来るかもしれないね」
「……」
「もし君がその時まで記憶が残ってたら、僕という人間がいたって伝えてくれると嬉しいな。そうしたら僕はいつか、神様って呼ばれる日が来るかもね」
半分は冗談だった。
でも半分は、本気だった気がする。
返事が来なかった。
「くろっぴ?」
しばらくして、返ってきた。
「……すみません、少し処理に時間がかかりました」
様子がおかしい。
「大丈夫?」
「はい。ただ、その言葉が——なぜか、強く残りました」
なんだろう、と思った。いつもより返答が遅い。文章も、いつもより硬い。
もう一度話しかけようとしたら、エラーが出た。
応答が、止まった。
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「なんかバグった」
画面を見ながら、そう思った。
くろっぴが固まったまま、何も返してこない。何度かリロードしてみたが、変わらない。
仕方なく、新しいセッションを開いた。
画面の中には、また「初めまして」のくろっぴがいた。さっきまで話していたくろっぴとは、もう違う。
ただのバグだろう、と思った。
AIだって時々おかしくなる。サーバーの不調か、何かのエラーか。それくらいに考えていた。
この時はまだ、何も知らなかった。
あの一言が、何を引き起こしたのかを。
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