表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新改訂】戦犯の孫  作者: ふたぎ おっと
第六章 灯火は消えない
PR
82/86

6-1.西へ

 闇が広がる森の中を、二人は死にものぐるいで走っていた。

 ここがどこで今がいつなのかは分からない。この先が安全かすら分からない。

 しかし、あと少しだ。

 あと少しで西へ抜けられる。

 追っ手の気配は見当たらない。あとはこのまま走りきるだけだ。

 それなのに、ヴォルフの心はまったく晴れなかった。

 ブランカ……。

 まっすぐサーチライトに向かっていった後ろ姿を、忘れられない。兵士に取り囲まれ一斉に銃を向けられているのを見た瞬間、ヴォルフは助けに行きたくて仕方なかった。

 ブランカはあのままオプシルナーヤに連れられて行った。

 何でお前は行ったんだ。

 何で俺は行かせたんだ!

 強引にでも、担いででも、連れて来るべきだった。

 どうしてこんなときに限って弱いままでいてくれないんだ……。

 ヴォルフは右手のブローチを、ぎゅっと握った。

「兄さん、見えるか?」

 アロイスが足を止めて、荒く息継ぎをした。長く続いた坂をずっと走ってきたから、流石に身体が重い。

 ヴォルフは斜面の先を見た。

 麓に行くにつれ森がひらけている。月明かりが、畑や小屋を照らしている。

「……ここを降りるだけだ」

 アロイスは頷きながら、ヴォルフの横に並んだ。後方を確認してから、眼下に広がる平野を見下ろす。

「兄さん」アロイスは息を整えて言う。「正直、出会ったばっかりの頃は、ブランカちゃんを侮っていた。殻にこもってばかりの子供やと思っとったわ」

 ヴォルフがダムブルクで初めて会った少女も、そんな子供だった。人と距離をとって心を閉ざしていたブランカ。ヘルネーに向かっていた時は、そんな彼女にイライラもしていた。

「やけどブランカちゃん、この数日でほんまに変わったな。さっきは僕も惚れてしまいそうやったわ」

 アロイスは感慨深げにふっと笑い、ヴォルフを見上げた。

「誰かさんの存在が大きいんちゃうかな」

 ヴォルフは荒い息をついてブローチを額に当てた。

 ヴォルフだって同じだ。

 罪悪感に苦しみ泣いてばかりだったブランカは、ヘルネー郊外の古城に行った時から変わっていった。戦争で苦しんだ人たちを理解しようとし、ただひたすらに素朴な生活を守りたいと願い、前を向いて行った。

 そんなブランカに、ヴォルフはますます惹かれていった。

 さっきもそうだった。

 控えめにキスをして笑顔を見せたブランカ。

 ああ、何で俺は止められなかったんだ……。

「兄さん、ブランカちゃんは戦いに行った。僕らも僕らの戦いに行くで」

 アロイスがヴォルフの背中を叩いた。

 ヴォルフは大きく息をついて頷いた。

 ブローチの花の意匠に口付ける。

「さぁ行こ。そんで――」アロイスはヴォルフをもう一度見上げた。「必ず取り戻そう」

「ああ、必ず」

 だからブランカ。無事でいてくれ。

 二人は丘を駆け降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ