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【新改訂】戦犯の孫  作者: ふたぎ おっと
第一章 ブラッドローから来たアジェンダ人
11/16

1-7.川②

 それからどれくらい時間が経ったのだろう。

 ブランカは身体を起こした。

「すみません、服を汚してしまいました」

 ヴォルフはニッと笑った。「スッキリしたか?」

 ブランカは曖昧に頷いた。

 これで何かが変わるわけではないけど、少なくともぐちゃぐちゃに混乱していた頭は冷静さを取り戻した。

「恥ずかしいところを見せてしまいました。失礼な言葉も」

「気にしてない。泣きたいときは泣いたらいい。特にきみくらいの年頃は」

 ブランカは目を閉じて首を横に振った。感情的になったところで何がどうなるものでもない。

 手の中のブローチと封筒に視線を落とした。

 花の装飾の付いたゴールドのブローチと焼け焦げの残る薄萌葱色の手紙。

 それは、ブランカの正体そのものだった。

 わたしはこれを残して、どうしていくのだろう。

 ……どうするつもりなのかしら。

 捨てるべきだと分かっている。けれども捨てられない。

――じゃあ、このまま進めばいい。

 ……それも無理だ。

 過去の罪が、立ちはだかる。

 正体を明かすのは――とてもできない。

 ロマンやレオナたちに知られたら。館長に知られたら……どうなるのか、考えたくもない。

 結局、何者にもなれない。ただみんなを騙すだけ。

 何も変わらない。いつもと同じ。 

 ゆっくり深呼吸して目を開く。

 すると、視界の端に、白いものが差し出された。

 視線を上げると、ヴォルフは苦笑した。「全然スッキリしてないな。ほら使えよ」

 ヴォルフは、ブランカの手に白いハンカチを押し付けた。

 ブランカはブローチと手紙を布袋に戻すと、ハンカチを借りた。

「いつもは……こんな風にはならないんです」

 ヴォルフは首を傾けた。「そうなんだろうな」

「今日は……おかしかったんです」ブランカはハンカチに顔を埋めて言った。「……わたし、壊れてるから……」

 横から、ため息が降ってきた。

 大きな手が、背中に当てられる。

「君は壊れてなんかない」ヴォルフは静かに言った。「人形でもない」

 ブランカは首を横に振った。

 けれども彼は、更に低く穏やかな声で言った。

「ただの普通の子だよ」

 川のせせらぎに、言葉が溶けた。

 ブランカは、ハンカチから顔を上げた。まっすぐこちらを見る薄鳶色の瞳と目が合う。

 ヴォルフは、何でもないような顔で、こちらを見下ろしている。

 ブランカは、またハンカチに顔を伏せた。

 カエルの鳴き声が、響き渡った。


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