↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新改訂】戦犯の孫  作者: ふたぎ おっと
第六章 灯火は消えない
PR
100/103

6-11.リーゼと大尉②

 廊下を歩いて行くブランカとセドロフ大尉の姿を、影から見る一人の男。

 スモーキーブルーのドレープが乱れているのを見ると、彼の内心は穏やかではなかった。今夜はあのドレープに触れたくて、ずっと堪えていたのに。

 今日のパーティを、カミーユは密かに心待ちにしていた。前回参加出来なかった分、彼女の晴れ姿を目に焼け付けたかった。

 クラウディアは素晴らしかった! 金にも白にも光るシルクのドレスは、主張しない彼女によく似合う。オーガンジーのドレープを揺らして踊るさまは、とても優雅だった。

 恨めしいのは、あの身支度を整えたのが自分ではないこと。そして数多の男を夢中にさせたことだ。

 カミーユは、左側を隠す仮面の下で、目を細めた。

 最近のクラウディアは、反抗的だ。そうでなければ、ドレスの身支度も化粧も、いつも通りカミーユが整えられたのに。どこからか悪い影響を受けているに違いない。

 カミーユは、ブランカの前を歩く護衛の背中を睨みつけた。

 すると後ろから誰かにぶつかられた。

「<すまんすまん、足がふらついたようだ>」

 赤い顔をした軍人が、悪びれもせず言った。彼はカミーユの左側の仮面を見ると、酒臭い息を仮面に吹きかけた。近くを歩いていた婦人が、扇子の陰でくすくす笑った。

 カミーユは、仮面の位置を直した。

 まったく穏やかではない。

 舞踏室に戻って行くブランカを見る。 カミーユはゆっくり歩いて、廊下から舞踏室を眺めた。彼女はまた、軍人たちの注目を浴びている。

 まったく穏やかではない。この仮面の下と同じような火傷を負っているのに。

 正さなければ。

 すべてをあるべき場所に。


 翌日。

 ブランカは、朝一からがれき撤去場へ向かった。炊き出しの準備もまだしてないうちに現れたブランカを見て、現場監督のオプシルナーヤ兵たちは驚いた。

 ブランカが一人の作業員に向かって歩き出すと、まっすぐな手に阻まれた。今日の護衛のセドロフ大尉だ。

「お嬢様はこちらでお待ち下さい」

 彼は近くの椅子にブランカを座らせた。

 その辺にいた兵士をつかまえて、二、三指示を出す。兵士は大きい声で、誰かの名前を呼び上げた。

 一人の男が、不安な顔でゆらゆら現れた。「な……何でしょう?」

 兵士と大尉が、手でブランカの方を示した。

 ブランカは持ってきた手提げ袋の中身を台に広げて、男性に向き直った。

「あの、いつも大変な作業……ありがとうございます」

 男性は訝しげに首を傾げた。

 ブランカは緊張に震える身体を堪えて、彼の目を見て言う。

「あの、手を出して頂けますか?」

 男性は恐る恐る手のひらを見せた。

 赤茶色に爛れた手。ところどころ擦りむいている。指先は黒ずんでいた。

 ブランカは、彼の手を皮袋の水で軽くすすぎ、消毒液をかけた。

 兵士は別の名前を叫んだ。

 次に来た人も、同じような有様だった。

「本当に、感謝します」ブランカは軟膏を塗って、その人の手をぎゅっと包んだ。

 炊き出しの時間になると、炊き出しに並ぶ前にブランカの列に並ぶ人も出てきた。

 みんな、列の脇から不安げにブランカを見る。炊き出しの婦人が、ブランカの下手くそな包帯巻きを見て、こうするの、と注意した。

 すると、ひょっこり横からヨモギの葉が現れた。いつもの男の子が、すぐそばにいた。

「やけどにはヨモギの方がいいんだよ!」

 あたりは一瞬静まり返ると、大人たちはけらけらと笑い出した。

 男の子はむっと頬を膨らませる。本当だよ、と言って、手を握りしめて。

 ブランカは、彼の小さい手から、ヨモギの葉を受け取った。

「これは、私が使うね」

 男の子はブランカを見上げて、頬を赤らめた。

 季節はいつの間にか、涼しくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。