表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『最果を探す冒険譚』  作者: 灰那
第1章「この理想を、世界が許すまで」・ミオルタ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/31

第19話「翼蛇討伐決戦」

 洞窟に足を踏み入れた瞬間、外の世界の生ぬるい空気は遮断され、底冷えするような悪意の気配が四人を包み込んだ。

 湿り気を帯びた冷気が蛇のように肌へまとわりつき、岩壁に染みついた古い血と、発酵した腐肉の匂いが鼻を刺す。

 足元の泥土はねっとりと柔らかく、踏みしめるたびに鈍い音を立てて光を吸い込んでいた。


 暗闇の奥からは、錆びた鉄鎖が擦れ合うかすかな金属音と、荒い呼吸が反響している。

 敵がこちらへ向かっているのは明白だったが、四人の足取りに一切の乱れはなかった。


 フィナは銀灰の柄を硬く握り直し、肺を焦がすような冷気を吸い込んで呼吸を整える。

 胸の奥で、心臓が静かに、しかし冷徹な戦闘の律動を刻み始めていた。


 通路の奥から、複数の足音が一気に押し寄せてくる、松明の灯りに照らされたのは、濁った眼を血走らせた無頼漢たちの姿だった。

 だが、四人は誰一人として歩度を緩めない。


「敵襲だ、行くぞ! ……って、貴様ら──」


 先頭の盗賊が叫び声を上げた瞬間、その顔面にアリエナの放った硬質の岩塊が爆裂した。

 鼻骨が砕ける重低音が響き、後続の男たちが一瞬たじろぐ、その刹那の隙を、二人が見逃すはずもなかった。


 銀灰が容赦のなく、二人の胸元を骨ごと叩き切る。

 間髪入れず、アレクの長剣が残る三人の腹部を深く裂いた。


 言葉を交わす間すらなかった。

 瞬く間に通路を塞いでいた五人の悪党が、物言わぬ肉塊となって泥に沈む。


「こっちだ」


 入れ替わるように先頭を駆けるオリティスは、暗闇を見通しているかのように冷徹で、寸分の迷いもなかった。

 分岐の多い地下迷宮を、すべての構造を把握しているかのように正確に突き進んでいく。


「この先に盗賊が十人。そして、反応の鈍い人間……弱まっているな」


「やっぱり、生捕りにした奴らを囲ってやがったか……!」

 

 アレクが忌々しげに吐き捨てた。


 直後、視界がにわかに開け、広大な地下空洞へと繋がった。

 いくつもの松明が揺らめくその広間は、略奪品が雑多に積み上げられ、至る所に酒瓶や腐りかけた肉が転がる泥賊の巣窟だった。

 しかし、その乱雑さの奥底には──さらに濃密で、悍ましい闇の気配が澱んでいた。


「奥だな」


 アレクが盾代わりに長剣を構え、油断なく踏み込む。

 広間の最奥、じっとりと湿った岩壁に埋め込まれるようにして、錆びついた鉄製の檻が三つ並んでいた。

 その中に転がっていたのは、家畜のように痩せこけた男女の姿だった。

 服は引き裂かれ、生気を失った虚ろな瞳が、暗がりのなかで怯えに震えている。


「……人質!」


 アリエナがすぐさま駆け寄り、檻の前に膝をついた。

 

「大丈夫、今助けるわ!」


 声をかけるが、囚われた者たちはあまりの恐怖からか、ただ小さく身を縮めて声にならない悲鳴を漏らすだけだった。

 その痛ましい光景を嘲笑うかのように、広間の影から武器を構えた男たちが這い出てくる。


「へっ、わざわざ獲物が飛び込んできやがった!」

 

「ガキと女ばっかじゃねぇか、舐めやがって!」

 

「皆殺しだ! 頭領に差し出せば極上の酒にありつけるぞ!」


 総勢十人の盗賊。手にするのは手入れの行き届かない大斧や錆びた槍だが、狂気に駆られた数の暴力は侮れない。


 アレクが不敵に口元を歪めた。

 

「……十人か。準備運動を終わらせるのに、ちょうどいい数だな!」


 アリエナが杖を回して魔力を滾らせ、フィナは銀灰を低く構え直す。

 オリティスは静かに、黒刀の柄に無造作に手を置く。


「フィナ、アレクは前衛。アリエナは中衛。背後は私が見ておこう……好きにやれ」


「ん!」

 

「任せとけ!」

 

「了解、消し飛ばしてあげる!」


 雄叫びを上げ、十人の盗賊が一斉に牙を剥いて突撃してきた。

 最前列の三人が、小柄なフィナを真っ先に血祭りにあげようと刃を振り下ろす。


「まずはそのガキの首からだッ!」


(遅い──)


 フィナは鋭く踏み込み、銀灰を真横へと一閃した。


 衝撃波が走り、三人の武器が無残に弾け飛ぶ。

 あまりの怪力に腕の骨を痺れさせた盗賊たちが、驚愕に目を見開いて後退しようとするが、フィナの追撃はそれよりも遥かに速かった。


 一人の胸を深く断ち切り、返す刃が、二人目の膝裏を容易く切断し、三人目の喉元を正確に貫く。


 フィナは小さく息を吐き、すぐさま次の標的へと視線を転じた。

 その隣では、アレクが二人の男を同時に圧倒していた。


「死ねやぁッ!」

 

 大斧が頭上から迫るが、アレクはそれを長剣の腹で防ぎ、そのまま押し返す。

 

「がはっ!?」

 

 体勢を崩した男の顎を剣の柄頭で粉砕し、肉厚な胸板へ容赦のない蹴りを叩き込んだ。

 重装備の足が放つ一撃は、男を後方へと吹き飛ばす。


「防衛戦なら負けねぇよ!」


 後方からは、アリエナの魔術が炸裂していた。

 

「大地よ、縛れ!」

 

 アリエナが杖を突き立てると、岩盤が蛇のようにのたうち回り、迫り来る盗賊二人の両足を強固に絡め取った。

 

「な、なんだこれは!? 動けねぇ!」


 絶望する男たちを、アリエナの冷徹な瞳が見下ろす。

 

「嵐よ、穿て!」

 

 極大に圧縮された風の槍が暴風となって狂い咲き、二人の胸を容赦なく貫いて岩壁へと縫い付けた。

 残った三人の盗賊が、戦況の不利を悟って後方に控えるオリティスへと標的を変える。

 

「あの女を人質にするぞ! 囲めッ!」


 オリティスは、冷徹な瞳で彼らを見つめ、静かに黒刀を引き抜いた。


 「愚鈍」

 

 オリティスが短く呟いた瞬間、三人の盗賊は自分が何をされたのかすら理解せぬまま、遅れて真っ赤な鮮血が噴き上がった。

 刀身についた血を静かに振り払い、オリティスは何事もなかったかのようにフィナの元へと歩み寄る。


「おいおい、想像以上だな……」

 

 アレクは苦笑しながら、檻に近づくと長剣の柄で強引に鉄錠を叩き割った。

 火花が散り、3つの檻が次々と解き放たれる。


「動けるか?」

 

 アレクが衰弱した男の肩を支えると、男は涙を流しながらガタガタと震えた。

 

「あ、ありがとう……ありがとう、ございます……!」


「無理に立たなくていいわ。ここはまだ戦場よ、すぐに外へ──」

 

 アリエナが言いかけた、その時だった。

 オリティスが広間のさらに奥、暗闇を見据えて低く告げた。

 

「……追加だぞ」


 その一言で、室内の空気が氷結したように冷え切る。


 暗闇の向こうから、地響きのような重苦しい足音が響いてきた。

 足音が近づくたびに、空間そのものが震え、周囲の松明の炎が怯えるように激しく揺らめく。


「……増援、いや、この不快な気配は……」

 

 アレクが剣を構え直し、冷や汗を流す。


 暗闇を割って現れたのは、数人の側近の盗賊、そしてその中心に巨躯の男──翼蛇の頭領だった。


 だが、その変貌ぶりは明らかに常軌を逸していた。

 男の周囲の空気はどす黒く澱み、肺を圧迫されるような濃厚な殺気が部屋中に吹き荒れる。

 フィナは思わず息を呑んだ。身体の奥底にある本能が、警鐘を鳴らしている。


 男の浅黒い皮膚の下では、血管が禍々しい紫色の光を放ちながらのたうち回り、筋肉が異常なほど肥大化していた。

 上半身に彫られた蛇の翼の入れ墨が、生きているかのように蠢いて見える。


 アレクが顔をしかめ、忌々しげに呟いた。

 

「……ただの人間じゃねぇ。おいおい、魔戒メーヴァスの類に手を出してやがるな?」


 アリエナも魔術師の視点から、その異常性を看破する。

 

「魔力の質が濁り腐ってるわ。自分の命を前借りして肉体を強制強化してる……正気じゃない!」


「ごちゃごちゃとうるせぇんだよ、てめえら……」

 

 頭領の口から漏れ出たのは、怨嗟に満ちた重低音だった。

 濁った眼球が、四人を獣のようにねめつける。


「俺様の領地に踏み荒らしやがったクソ冒険者共が……。これまで何人もの身の程知らずを、肉片に変えて洞窟の肥やしにしてきたか分からねぇ。貴様らも、その仲間入りをさせてやる」


 人間を家畜として扱い、いたぶり殺すことを何とも思わない本物の狂気。

 だが、フィナはその巨躯を見上げて、小首を傾げながら言い放った。


「ずいぶん、小さい領地」


 頭領の額に青筋が爆ぜる。

 

「……クソガキが……なぶり殺しにしてやる!!」


 殺意の前にフィナは無表情で銀灰を構えながら言う。

 

「無理。先に、殺す」


 フィナの冷徹な言葉と同時に、周囲の側近たちが一斉に動き出した。

 

「どうやら、役割分担は決まったみたいだな!」

 

 アレクが短く言うと、アリエナと視線を交わして即座に後方へ転じる。


「私たちはこの人質たちを安全な場所まで下げるわ! フィナちゃん、あのゴミ屑をお願い!」

 

「ん!」


 アレクとアリエナが人質を抱えて敵陣の側翼を駆け抜ける。

 残った盗賊たちがそれを追おうとするが──その前に、絶対的な障壁が立ちふさがった。


「存分に戦え、フィナ」

 

 オリティスが黒刀を静かに引き抜く。

 同時に、オリティスの背後から燃え上がる黒炎の裂け目が開き、アジスイデアが姿を現した。

 

「私は雑魚を排除しよう。対人戦の、良い経験にしなさい」


『さあ、塵芥ども!我が余興となり、我が黒炎の苗床となるがいいわ!』


 凄まじい圧を放つオリティスとアジスイデアを前に、追撃しようとした盗賊たちは恐怖で腰を抜かし、悲鳴を上げて後ずさる。

 フィナの頬が緊張にわずかに震えた。だが、その瞳には一切の怯えはない。ただ純粋な闘志だけが宿っていた。


「ん!」


 頭領が咆哮し、その巨体が突っ込んできた。

 引き絞られた拳は、それだけで周囲の空気を爆発させるかのような圧を伴っている。


 フィナは一歩も引かず、銀灰を正対させた。

 

(……あの嵐狼ライガインと同じ、油断したら、死ぬ)


 頭領が放った拳が、空気を引き裂き、風圧だけで白い衝撃波の線が残る。

 フィナはその攻撃を次々と見切り、狂いなく躱していく。


(……速い)


 肉体の限界を超えたその速度は、巨体に見合わぬ速度。

 かわされた拳が背後の岩壁に激突すると、爆音が響き、硬い岩盤が広範囲にわたって粉々に粉砕された。


「どうしたぁ! 逃げ回るだけかぁッ!」

 

 頭領が狂ったように笑い、返しの裏拳を叩き込んでくる。


「まだ……始まったばっかり」


 フィナは呼吸を乱さず、冷徹に敵を観察し続けた。

 

(力は嵐狼以上。でも、雑)


 頭領が再び突進してくる瞬間、フィナの集中力は極限に達し、雑音が消え失せた。


(──来る)


 銀灰を握る両腕に、無意識のうちに魔脈の奔流が流れ込む。

 脳で考えるより早く、肉体が最適解の軌道を描いていた。

 

 拳と剣の衝突と同時に、金属と肉体が一騎打ちを起こしたとは思えない、激突音が洞窟全体を震わせた。

 フィナの足元の土盤が円状に抉れ、後方の松明が一斉に消えかける。

 刃と、魔戒メーヴァスの力で硬質化した腕が真っ向からぶつかり合い、火花が飛び散る。


「……固い」

 

 フィナは奥歯を噛み締めた。手応えが異常。

 刃が肉に食い込まず、まるで鋼鉄の塊を斬りつけているかのような衝撃が両腕を襲う。


 頭領は顔中の血管を脈動させ、獰猛に牙を剥いた。

 

「クソガキ、悪く思うなよ! 正面のクソどもに逃げ道を塞がれた以上、お前らをぶっ殺して、ここから脱出させてもらう!」


「うるさい」


 返ってきたのは、体温を全く感じさせない声だった。

 フィナの瞳はどこまでも鋭く、感情を排除したまま、再び頭領の懐へと踏み込む。

 密着際、瞬発的に放った風の魔術が、男の身体の表面で霧散した。


(魔術が、効かない……?)


 狂暴な魔力の嵐が、外からの魔術干渉を強制的に打ち消している。

 男の皮膚の下では、限界を超えた力が暴走し、細胞を無理やり肥大化させ続けている。


 風刃を弾き飛ばし、頭領が狂ったように吼える。

 

「俺の肉体にはなぁ!どんな魔術も通じねぇんだよッ!!」

 

 その声には、全能感と、限界を超え、肉体が上げる悲鳴が混じっていた。


 フィナは思考を冷徹に巡らせ、絶え間なく動き続ける。

 大振りの拳を最小限の動きで回避し、無防備になった横腹へ銀灰を叩きつけるが──その刃は、間一髪で防がれた。


(回避まで……なら)


 フィナの周囲に四本の不可視の風刃が生成され、頭領へと襲いかかった。


 一本目は腕で叩き落とされ、二本目は拳の風圧で消し飛ぶ。

 だが、肉体の制御が追いついていない残る三本目と四本目が、男の分厚い横腹へと食い込んだ。

 

「ちッ!?」

 

 黒い血液が激しく吹き出す。

 頭領の顔が、初めて激痛によって醜く歪んだ。


(……今度は、通った)


 どれだけ強固な肉体であっても、暴走する魔力を全身に完璧に巡らせることはできない。

 複数の箇所からの同時攻撃には、魔力の運用が間に合っていない。


「魔力の流れ……すごく、ぎこちない」


「ガキがあぁぁ!ぶっ殺してやる、ぶっ殺してやるッ!!」


「だから……無理って言ってる」


 フィナは再び、銀灰を正眼に構えた。


「調子に、乗るなよぉぉッ!!」

 

 頭領が怒号とともに、両拳を頭上から振り下ろす。

 その速度は前より早い、痛みを忘れるために、さらに力を引き出し、肉体を膨張させている。


 フィナは後方へ鋭く跳んだ。

 直後、拳が叩きつけられた地面が爆発したように弾け飛び、鋭利な岩の破片が散弾となって襲いかかる。


(……まだ、速くなる)


 頭領は肉体が崩壊する実感を無視し、狂ったように間合いを詰めてくる。

 

「逃げるなァァッ!」


 フィナは横へ転がり、銀灰でその拳を受け流した。

 凄まじい質量が刃を伝い、両腕の芯が痺れる、だが、フィナの瞳の奥にある光は、いささかも揺らがない。


(でも……隙だらけ)


 次の瞬間、フィナの背後に魔術の軍勢が展開された。


 赤々と燃え盛る無数の火の槍、大気を切り裂き鳴動する風の刃。

 地割れと共にせり出す無骨な地の槍、流麗に牙を剥いて渦巻く水の刃。


「お前……何者だ……! なんだその魔力はッ!?」

 

 頭領の眼球が、見開かれる。だが、フィナは答える気など毛頭ない。

 展開された魔術の光が衰える気配すらなかった。


 魔術は防がれて消えたかと思えば、即座に次の弾幕が空間に補充される。

 火が消えればまた熾烈に灯り、風が散ればさらに鋭く吹き荒れ、地が砕ければ新たな槍が生まれ、水が蒸発すればさらに冷徹に湧き出す。


「化け物が……っ!」

 

 あまりの弾幕に男は己の身を防御するだけで手一杯となった。

 全方位から降り注ぐ四属性の嵐は、的確にフィナの体を避け、頭領の肉体だけを無慈悲に破壊し続ける。

 肉を焼き、鎧を砕き、体力を確実に削り込んでいく。


(このクソガキ……魔力が、底なしなのか……!?)

 

 頭領の脳裏に、初めて死の恐怖が過った。

 

「防ぎ、きれ──」


 その瞬間。

 全方位からの絶え間ない激痛に、男の意識がほんの一瞬だけ、魔力の防御操作から逸れた。


 たった一瞬。だが、フィナの眼にはそれが、隙として映し出された。


 フィナの瞳が、星雲の光を帯びる。


 無意識の極致において、全魔脈が一斉に駆動した、体内の全魔力が腕へと収束し、銀灰へと限界を超えて注ぎ込まれる。

 その速度は、フィナ自身の意識すら置き去りにするほどに、洗練されていた。


 一瞬遅れて、銀灰が降り抜かれる音が洞窟に響き渡る。


「速──」


 頭領の言葉は、最後まで紡がれなかった。


「──がはっ、ぁぅっ!?」


 男の防御は、その速度に間に合わなかった。

 横腹に深々と一閃が走り、大量の鮮血が噴き上がる。


 頭領は、信じられないものを見るかのように呆然と、己を見下ろす少女を見つめた。

 フィナの瞳は、まだ淡く星雲の光を宿している、その眼は、男の肉体の中を流れる魔力の脈動すらも、視ていた。


「……なんだ、その目は……。生意気な、ガキがぁぁ!!」

 

 頭領の顔が、絶望と焦燥で狂い乱れる。


 フィナは静かに、銀灰を構え直し、頭領は血を吐きながら、恐怖に駆られて後ずさる。

 

「バケモンが……!!」


 男が最後の力を振り絞り、圧殺しようと拳を振り下ろす。

 フィナはそれを、最小限の動作で回避し、拳が地面に激突し、爆音と共に土煙が舞い上がる。

 頭領が己の命のすべてを燃やし、最後の魔力を練り上げる。筋肉が限界を超えて裂け、皮膚が破れて血が吹き出す。

 

「死ねぇぇぇッ!!」


 だが、その呪詛を遮るように、フィナは飛び上がり避けながら、空中から、銀灰の振り下ろし。

 頭領はすべての魔術を無視し、死に物狂いで両腕を頭上で交差させ、防御姿勢を取った。

 

「終わり」


「まだだ!まだ死ねるかぁぁッ!!」

 

 すべての攻撃を捨て、唯一の生存手段である両腕に、残された全魔力を集中させる。


 しかし──。


「……野生的な戦い方。でも、本物の野性は……もっとすごい」


 フィナは、振り下ろした銀灰の軌道を、寸前で停止させ、斬らずに、フィナはそのまま無防備になった男の腹部へ、左手を添えた。


「守れないなら、攻めるべき」


 手の平が触れた地点から、圧縮された爆炎が炸裂した。


 火柱と衝撃波に包まれ、頭領の巨体は後方へと吹きとび、略奪品の山を粉砕しながら、広間の最奥の岩壁に激突し、土埃のなかに、物言わぬ肉塊となって崩れ落ちた。

 フィナは着地すると、銀灰についたわずかな煤を振り払い、静かに鞘へと納めた。

 

 そして、ゆっくりと周囲を見渡す。


 残っていた盗賊たちは、すでにオリティスとアジスイデアによって、残さず全滅していた。

 刀身に一滴の血も残さず黒刀を納刀し、フィナを静かに、見つめるオリティスの姿がそこにあった。


『他愛のない雑種ども余興にすらならぬ!』

 

 役割を終えたアジスイデアは、不満げに喉を鳴らし、亜空間の中へと溶けるように消えていった。


 フィナは小さく、満ち足りた息を吐いた。


(……また少し、強くなった)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ