第19話「翼蛇討伐決戦」
洞窟に足を踏み入れた瞬間、外の世界の生ぬるい空気は遮断され、底冷えするような悪意の気配が四人を包み込んだ。
湿り気を帯びた冷気が蛇のように肌へまとわりつき、岩壁に染みついた古い血と、発酵した腐肉の匂いが鼻を刺す。
足元の泥土はねっとりと柔らかく、踏みしめるたびに鈍い音を立てて光を吸い込んでいた。
暗闇の奥からは、錆びた鉄鎖が擦れ合うかすかな金属音と、荒い呼吸が反響している。
敵がこちらへ向かっているのは明白だったが、四人の足取りに一切の乱れはなかった。
フィナは銀灰の柄を硬く握り直し、肺を焦がすような冷気を吸い込んで呼吸を整える。
胸の奥で、心臓が静かに、しかし冷徹な戦闘の律動を刻み始めていた。
通路の奥から、複数の足音が一気に押し寄せてくる、松明の灯りに照らされたのは、濁った眼を血走らせた無頼漢たちの姿だった。
だが、四人は誰一人として歩度を緩めない。
「敵襲だ、行くぞ! ……って、貴様ら──」
先頭の盗賊が叫び声を上げた瞬間、その顔面にアリエナの放った硬質の岩塊が爆裂した。
鼻骨が砕ける重低音が響き、後続の男たちが一瞬たじろぐ、その刹那の隙を、二人が見逃すはずもなかった。
銀灰が容赦のなく、二人の胸元を骨ごと叩き切る。
間髪入れず、アレクの長剣が残る三人の腹部を深く裂いた。
言葉を交わす間すらなかった。
瞬く間に通路を塞いでいた五人の悪党が、物言わぬ肉塊となって泥に沈む。
「こっちだ」
入れ替わるように先頭を駆けるオリティスは、暗闇を見通しているかのように冷徹で、寸分の迷いもなかった。
分岐の多い地下迷宮を、すべての構造を把握しているかのように正確に突き進んでいく。
「この先に盗賊が十人。そして、反応の鈍い人間……弱まっているな」
「やっぱり、生捕りにした奴らを囲ってやがったか……!」
アレクが忌々しげに吐き捨てた。
直後、視界がにわかに開け、広大な地下空洞へと繋がった。
いくつもの松明が揺らめくその広間は、略奪品が雑多に積み上げられ、至る所に酒瓶や腐りかけた肉が転がる泥賊の巣窟だった。
しかし、その乱雑さの奥底には──さらに濃密で、悍ましい闇の気配が澱んでいた。
「奥だな」
アレクが盾代わりに長剣を構え、油断なく踏み込む。
広間の最奥、じっとりと湿った岩壁に埋め込まれるようにして、錆びついた鉄製の檻が三つ並んでいた。
その中に転がっていたのは、家畜のように痩せこけた男女の姿だった。
服は引き裂かれ、生気を失った虚ろな瞳が、暗がりのなかで怯えに震えている。
「……人質!」
アリエナがすぐさま駆け寄り、檻の前に膝をついた。
「大丈夫、今助けるわ!」
声をかけるが、囚われた者たちはあまりの恐怖からか、ただ小さく身を縮めて声にならない悲鳴を漏らすだけだった。
その痛ましい光景を嘲笑うかのように、広間の影から武器を構えた男たちが這い出てくる。
「へっ、わざわざ獲物が飛び込んできやがった!」
「ガキと女ばっかじゃねぇか、舐めやがって!」
「皆殺しだ! 頭領に差し出せば極上の酒にありつけるぞ!」
総勢十人の盗賊。手にするのは手入れの行き届かない大斧や錆びた槍だが、狂気に駆られた数の暴力は侮れない。
アレクが不敵に口元を歪めた。
「……十人か。準備運動を終わらせるのに、ちょうどいい数だな!」
アリエナが杖を回して魔力を滾らせ、フィナは銀灰を低く構え直す。
オリティスは静かに、黒刀の柄に無造作に手を置く。
「フィナ、アレクは前衛。アリエナは中衛。背後は私が見ておこう……好きにやれ」
「ん!」
「任せとけ!」
「了解、消し飛ばしてあげる!」
雄叫びを上げ、十人の盗賊が一斉に牙を剥いて突撃してきた。
最前列の三人が、小柄なフィナを真っ先に血祭りにあげようと刃を振り下ろす。
「まずはそのガキの首からだッ!」
(遅い──)
フィナは鋭く踏み込み、銀灰を真横へと一閃した。
衝撃波が走り、三人の武器が無残に弾け飛ぶ。
あまりの怪力に腕の骨を痺れさせた盗賊たちが、驚愕に目を見開いて後退しようとするが、フィナの追撃はそれよりも遥かに速かった。
一人の胸を深く断ち切り、返す刃が、二人目の膝裏を容易く切断し、三人目の喉元を正確に貫く。
フィナは小さく息を吐き、すぐさま次の標的へと視線を転じた。
その隣では、アレクが二人の男を同時に圧倒していた。
「死ねやぁッ!」
大斧が頭上から迫るが、アレクはそれを長剣の腹で防ぎ、そのまま押し返す。
「がはっ!?」
体勢を崩した男の顎を剣の柄頭で粉砕し、肉厚な胸板へ容赦のない蹴りを叩き込んだ。
重装備の足が放つ一撃は、男を後方へと吹き飛ばす。
「防衛戦なら負けねぇよ!」
後方からは、アリエナの魔術が炸裂していた。
「大地よ、縛れ!」
アリエナが杖を突き立てると、岩盤が蛇のようにのたうち回り、迫り来る盗賊二人の両足を強固に絡め取った。
「な、なんだこれは!? 動けねぇ!」
絶望する男たちを、アリエナの冷徹な瞳が見下ろす。
「嵐よ、穿て!」
極大に圧縮された風の槍が暴風となって狂い咲き、二人の胸を容赦なく貫いて岩壁へと縫い付けた。
残った三人の盗賊が、戦況の不利を悟って後方に控えるオリティスへと標的を変える。
「あの女を人質にするぞ! 囲めッ!」
オリティスは、冷徹な瞳で彼らを見つめ、静かに黒刀を引き抜いた。
「愚鈍」
オリティスが短く呟いた瞬間、三人の盗賊は自分が何をされたのかすら理解せぬまま、遅れて真っ赤な鮮血が噴き上がった。
刀身についた血を静かに振り払い、オリティスは何事もなかったかのようにフィナの元へと歩み寄る。
「おいおい、想像以上だな……」
アレクは苦笑しながら、檻に近づくと長剣の柄で強引に鉄錠を叩き割った。
火花が散り、3つの檻が次々と解き放たれる。
「動けるか?」
アレクが衰弱した男の肩を支えると、男は涙を流しながらガタガタと震えた。
「あ、ありがとう……ありがとう、ございます……!」
「無理に立たなくていいわ。ここはまだ戦場よ、すぐに外へ──」
アリエナが言いかけた、その時だった。
オリティスが広間のさらに奥、暗闇を見据えて低く告げた。
「……追加だぞ」
その一言で、室内の空気が氷結したように冷え切る。
暗闇の向こうから、地響きのような重苦しい足音が響いてきた。
足音が近づくたびに、空間そのものが震え、周囲の松明の炎が怯えるように激しく揺らめく。
「……増援、いや、この不快な気配は……」
アレクが剣を構え直し、冷や汗を流す。
暗闇を割って現れたのは、数人の側近の盗賊、そしてその中心に巨躯の男──翼蛇の頭領だった。
だが、その変貌ぶりは明らかに常軌を逸していた。
男の周囲の空気はどす黒く澱み、肺を圧迫されるような濃厚な殺気が部屋中に吹き荒れる。
フィナは思わず息を呑んだ。身体の奥底にある本能が、警鐘を鳴らしている。
男の浅黒い皮膚の下では、血管が禍々しい紫色の光を放ちながらのたうち回り、筋肉が異常なほど肥大化していた。
上半身に彫られた蛇の翼の入れ墨が、生きているかのように蠢いて見える。
アレクが顔をしかめ、忌々しげに呟いた。
「……ただの人間じゃねぇ。おいおい、魔戒の類に手を出してやがるな?」
アリエナも魔術師の視点から、その異常性を看破する。
「魔力の質が濁り腐ってるわ。自分の命を前借りして肉体を強制強化してる……正気じゃない!」
「ごちゃごちゃとうるせぇんだよ、てめえら……」
頭領の口から漏れ出たのは、怨嗟に満ちた重低音だった。
濁った眼球が、四人を獣のようにねめつける。
「俺様の領地に踏み荒らしやがったクソ冒険者共が……。これまで何人もの身の程知らずを、肉片に変えて洞窟の肥やしにしてきたか分からねぇ。貴様らも、その仲間入りをさせてやる」
人間を家畜として扱い、いたぶり殺すことを何とも思わない本物の狂気。
だが、フィナはその巨躯を見上げて、小首を傾げながら言い放った。
「ずいぶん、小さい領地」
頭領の額に青筋が爆ぜる。
「……クソガキが……なぶり殺しにしてやる!!」
殺意の前にフィナは無表情で銀灰を構えながら言う。
「無理。先に、殺す」
フィナの冷徹な言葉と同時に、周囲の側近たちが一斉に動き出した。
「どうやら、役割分担は決まったみたいだな!」
アレクが短く言うと、アリエナと視線を交わして即座に後方へ転じる。
「私たちはこの人質たちを安全な場所まで下げるわ! フィナちゃん、あのゴミ屑をお願い!」
「ん!」
アレクとアリエナが人質を抱えて敵陣の側翼を駆け抜ける。
残った盗賊たちがそれを追おうとするが──その前に、絶対的な障壁が立ちふさがった。
「存分に戦え、フィナ」
オリティスが黒刀を静かに引き抜く。
同時に、オリティスの背後から燃え上がる黒炎の裂け目が開き、アジスイデアが姿を現した。
「私は雑魚を排除しよう。対人戦の、良い経験にしなさい」
『さあ、塵芥ども!我が余興となり、我が黒炎の苗床となるがいいわ!』
凄まじい圧を放つオリティスとアジスイデアを前に、追撃しようとした盗賊たちは恐怖で腰を抜かし、悲鳴を上げて後ずさる。
フィナの頬が緊張にわずかに震えた。だが、その瞳には一切の怯えはない。ただ純粋な闘志だけが宿っていた。
「ん!」
頭領が咆哮し、その巨体が突っ込んできた。
引き絞られた拳は、それだけで周囲の空気を爆発させるかのような圧を伴っている。
フィナは一歩も引かず、銀灰を正対させた。
(……あの嵐狼と同じ、油断したら、死ぬ)
頭領が放った拳が、空気を引き裂き、風圧だけで白い衝撃波の線が残る。
フィナはその攻撃を次々と見切り、狂いなく躱していく。
(……速い)
肉体の限界を超えたその速度は、巨体に見合わぬ速度。
かわされた拳が背後の岩壁に激突すると、爆音が響き、硬い岩盤が広範囲にわたって粉々に粉砕された。
「どうしたぁ! 逃げ回るだけかぁッ!」
頭領が狂ったように笑い、返しの裏拳を叩き込んでくる。
「まだ……始まったばっかり」
フィナは呼吸を乱さず、冷徹に敵を観察し続けた。
(力は嵐狼以上。でも、雑)
頭領が再び突進してくる瞬間、フィナの集中力は極限に達し、雑音が消え失せた。
(──来る)
銀灰を握る両腕に、無意識のうちに魔脈の奔流が流れ込む。
脳で考えるより早く、肉体が最適解の軌道を描いていた。
拳と剣の衝突と同時に、金属と肉体が一騎打ちを起こしたとは思えない、激突音が洞窟全体を震わせた。
フィナの足元の土盤が円状に抉れ、後方の松明が一斉に消えかける。
刃と、魔戒の力で硬質化した腕が真っ向からぶつかり合い、火花が飛び散る。
「……固い」
フィナは奥歯を噛み締めた。手応えが異常。
刃が肉に食い込まず、まるで鋼鉄の塊を斬りつけているかのような衝撃が両腕を襲う。
頭領は顔中の血管を脈動させ、獰猛に牙を剥いた。
「クソガキ、悪く思うなよ! 正面のクソどもに逃げ道を塞がれた以上、お前らをぶっ殺して、ここから脱出させてもらう!」
「うるさい」
返ってきたのは、体温を全く感じさせない声だった。
フィナの瞳はどこまでも鋭く、感情を排除したまま、再び頭領の懐へと踏み込む。
密着際、瞬発的に放った風の魔術が、男の身体の表面で霧散した。
(魔術が、効かない……?)
狂暴な魔力の嵐が、外からの魔術干渉を強制的に打ち消している。
男の皮膚の下では、限界を超えた力が暴走し、細胞を無理やり肥大化させ続けている。
風刃を弾き飛ばし、頭領が狂ったように吼える。
「俺の肉体にはなぁ!どんな魔術も通じねぇんだよッ!!」
その声には、全能感と、限界を超え、肉体が上げる悲鳴が混じっていた。
フィナは思考を冷徹に巡らせ、絶え間なく動き続ける。
大振りの拳を最小限の動きで回避し、無防備になった横腹へ銀灰を叩きつけるが──その刃は、間一髪で防がれた。
(回避まで……なら)
フィナの周囲に四本の不可視の風刃が生成され、頭領へと襲いかかった。
一本目は腕で叩き落とされ、二本目は拳の風圧で消し飛ぶ。
だが、肉体の制御が追いついていない残る三本目と四本目が、男の分厚い横腹へと食い込んだ。
「ちッ!?」
黒い血液が激しく吹き出す。
頭領の顔が、初めて激痛によって醜く歪んだ。
(……今度は、通った)
どれだけ強固な肉体であっても、暴走する魔力を全身に完璧に巡らせることはできない。
複数の箇所からの同時攻撃には、魔力の運用が間に合っていない。
「魔力の流れ……すごく、ぎこちない」
「ガキがあぁぁ!ぶっ殺してやる、ぶっ殺してやるッ!!」
「だから……無理って言ってる」
フィナは再び、銀灰を正眼に構えた。
「調子に、乗るなよぉぉッ!!」
頭領が怒号とともに、両拳を頭上から振り下ろす。
その速度は前より早い、痛みを忘れるために、さらに力を引き出し、肉体を膨張させている。
フィナは後方へ鋭く跳んだ。
直後、拳が叩きつけられた地面が爆発したように弾け飛び、鋭利な岩の破片が散弾となって襲いかかる。
(……まだ、速くなる)
頭領は肉体が崩壊する実感を無視し、狂ったように間合いを詰めてくる。
「逃げるなァァッ!」
フィナは横へ転がり、銀灰でその拳を受け流した。
凄まじい質量が刃を伝い、両腕の芯が痺れる、だが、フィナの瞳の奥にある光は、いささかも揺らがない。
(でも……隙だらけ)
次の瞬間、フィナの背後に魔術の軍勢が展開された。
赤々と燃え盛る無数の火の槍、大気を切り裂き鳴動する風の刃。
地割れと共にせり出す無骨な地の槍、流麗に牙を剥いて渦巻く水の刃。
「お前……何者だ……! なんだその魔力はッ!?」
頭領の眼球が、見開かれる。だが、フィナは答える気など毛頭ない。
展開された魔術の光が衰える気配すらなかった。
魔術は防がれて消えたかと思えば、即座に次の弾幕が空間に補充される。
火が消えればまた熾烈に灯り、風が散ればさらに鋭く吹き荒れ、地が砕ければ新たな槍が生まれ、水が蒸発すればさらに冷徹に湧き出す。
「化け物が……っ!」
あまりの弾幕に男は己の身を防御するだけで手一杯となった。
全方位から降り注ぐ四属性の嵐は、的確にフィナの体を避け、頭領の肉体だけを無慈悲に破壊し続ける。
肉を焼き、鎧を砕き、体力を確実に削り込んでいく。
(このクソガキ……魔力が、底なしなのか……!?)
頭領の脳裏に、初めて死の恐怖が過った。
「防ぎ、きれ──」
その瞬間。
全方位からの絶え間ない激痛に、男の意識がほんの一瞬だけ、魔力の防御操作から逸れた。
たった一瞬。だが、フィナの眼にはそれが、隙として映し出された。
フィナの瞳が、星雲の光を帯びる。
無意識の極致において、全魔脈が一斉に駆動した、体内の全魔力が腕へと収束し、銀灰へと限界を超えて注ぎ込まれる。
その速度は、フィナ自身の意識すら置き去りにするほどに、洗練されていた。
一瞬遅れて、銀灰が降り抜かれる音が洞窟に響き渡る。
「速──」
頭領の言葉は、最後まで紡がれなかった。
「──がはっ、ぁぅっ!?」
男の防御は、その速度に間に合わなかった。
横腹に深々と一閃が走り、大量の鮮血が噴き上がる。
頭領は、信じられないものを見るかのように呆然と、己を見下ろす少女を見つめた。
フィナの瞳は、まだ淡く星雲の光を宿している、その眼は、男の肉体の中を流れる魔力の脈動すらも、視ていた。
「……なんだ、その目は……。生意気な、ガキがぁぁ!!」
頭領の顔が、絶望と焦燥で狂い乱れる。
フィナは静かに、銀灰を構え直し、頭領は血を吐きながら、恐怖に駆られて後ずさる。
「バケモンが……!!」
男が最後の力を振り絞り、圧殺しようと拳を振り下ろす。
フィナはそれを、最小限の動作で回避し、拳が地面に激突し、爆音と共に土煙が舞い上がる。
頭領が己の命のすべてを燃やし、最後の魔力を練り上げる。筋肉が限界を超えて裂け、皮膚が破れて血が吹き出す。
「死ねぇぇぇッ!!」
だが、その呪詛を遮るように、フィナは飛び上がり避けながら、空中から、銀灰の振り下ろし。
頭領はすべての魔術を無視し、死に物狂いで両腕を頭上で交差させ、防御姿勢を取った。
「終わり」
「まだだ!まだ死ねるかぁぁッ!!」
すべての攻撃を捨て、唯一の生存手段である両腕に、残された全魔力を集中させる。
しかし──。
「……野生的な戦い方。でも、本物の野性は……もっとすごい」
フィナは、振り下ろした銀灰の軌道を、寸前で停止させ、斬らずに、フィナはそのまま無防備になった男の腹部へ、左手を添えた。
「守れないなら、攻めるべき」
手の平が触れた地点から、圧縮された爆炎が炸裂した。
火柱と衝撃波に包まれ、頭領の巨体は後方へと吹きとび、略奪品の山を粉砕しながら、広間の最奥の岩壁に激突し、土埃のなかに、物言わぬ肉塊となって崩れ落ちた。
フィナは着地すると、銀灰についたわずかな煤を振り払い、静かに鞘へと納めた。
そして、ゆっくりと周囲を見渡す。
残っていた盗賊たちは、すでにオリティスとアジスイデアによって、残さず全滅していた。
刀身に一滴の血も残さず黒刀を納刀し、フィナを静かに、見つめるオリティスの姿がそこにあった。
『他愛のない雑種ども余興にすらならぬ!』
役割を終えたアジスイデアは、不満げに喉を鳴らし、亜空間の中へと溶けるように消えていった。
フィナは小さく、満ち足りた息を吐いた。
(……また少し、強くなった)




