第61話 分岐点
「あとのことは全部私が片づけるから、2人はここで待ってて」
そう言って天空神は翔と気絶しているミスジェロを島の浜辺で寝かせた。
翔は頭からの出血が酷かったが天空神の治癒技術で傷もなく治すことができた。ミスジェロの方は全身に打撲、出血が酷く治すのに時間がかかった。
神は自分の持つ仕事以外を人間に使ってはいけない。瞬間移動のような神力でしか扱えないものは除く天界の掟だ。人間に自己治癒力を与えている神アスクレーピオスの仕事を既に天空神が奪ってしまったのだ。
これは立派な神の規則違反である。
なんて言って謝ろうか。創造神になんていえばいいんだろう。五大神がこんな失敗起こすなんて申し訳ないな。
そんな言葉が脳に浮かび上がる。その時翔が天空神の後ろから声をかける。
「でも、俺ら共犯だろ?みんなで行こう」
そう言って翔が天空神の手を引っ張る。
そして天空神が振り返る。
「私のせいで翔達が怪我したんだよ!その後始末は私がやるべきだ!」
天空神が翔に怒鳴った。そして下を向き、翔の手を追い払う。
そんな天空神に翔がもう一度手を掴む。
「だから、そんなことないって言ってんだろ!」
「私が天界の監獄にいるかもって言わなきゃ行かなかったでしょ!!」
その天空神の言葉に翔は食い気味に言い返す。
今まで聞いた事無いくらいの大きい声だった。
「だけど監獄に行こうって言ったのは俺だ!最終的な判断は俺がした!神様だけ責任があるとかじゃねぇんだよ!」
その言葉に天空神はハッとする。
(そうだ。みんなで決めたんだ、、私はこの翔の想いを踏みにじっている。こんな態度は翔に失礼だ。話そう。私の本当の気持ちを)
そう思った天空神は翔を真っ直ぐ見る。そして震えた声で喋りだした。
「っ、、」
しかし言い訳しか出てこない。言いたいのに言えない。「翔だから大丈夫」だと思ってしまったせいで翔を危険な目に合わせた。その言葉が喉に引っかかり、言葉が出てこない。綿が喉に詰まっているような感覚だ。
この言葉を言ってしまったら最後な気がしてしまうから。
信用していないと捉えられてしまったらどうしよう。
私は翔を信頼していた。
でもそれは「翔だから大丈夫」とはまた別な気もする。
なんとも自分勝手な思考回路を上手く言語化出来ない。ただ、そう思ってしまったのだ。あの時咄嗟に。
天空神が大粒の涙を流す。
翔は運動神経がいい。
判断力もある。
ミスジェロも一緒にいる。
自分自身も五大神。
今まで何度も無茶を乗り越えてきた。
その積み重ねた成功体験によって天空神は考えが揺らいでしまったのだ。ほんの一瞬の出来事で未来は変わる。
結果翔を危険な目に合わせてしまった。
しかしこれは仕方の無いこと。神と人間は種族が違う。いくら完璧な人間でも天界ではその力は通用しない。天空神は翔が天界に行けたことによって翔が特別、だから大丈夫。と過信しすぎてしまったのだ。
過信と信頼は別物である。
過信とはリスクや限界を考えず、必要以上に相手を信じてしまっていること。
信頼とは相手の能力や実績を踏まえて、冷静に信じるということ。
つまり、天空神が見ていたのは翔自身ではなく五大神の自分と天界に行ける特別な人間の翔と元使者という特別な地位だったミスジェロというレッテルだった。
天空神は頭にその考えがあっても言葉に詰まり、上手く発音できない。
天空神が「う、うう、ごべんなざぃ、、」そんなことを繰り返し言いながらヒックヒック泣いている。正直こんなに天空神は初めてで翔も困惑している。
一呼吸して天空神は慎重に言葉を選ぶ。
「私は翔、、を、、過信しすぎてたの。ごめんなさい。これは私の甘い考えが引き寄せた事だったの。私はバカだったの」
そんな天空神に翔はキョトンとしている。
「じゃあ神様は俺の事信用してなかった?」
あぁやっぱり。そう思わせてしまった。私はバカだ。
そう心に嘆く天空神に翔は座り込んで天空神の顔を下から覗く。
「ちなみに俺は信じてるよ。これからもこの先も。神様がそう思わせてくれたんだろ?」
その翔の言葉に天空神は目を見開いた。
てっきりもう信用されてないのかと思ってた。傷つけてしまったと思っていた。
「なんで?酷いこと言ったのになんで信用してくれるの?」
「俺もミスジェロも神様を信じてたからだよ!俺もうダメかと思ったけど結局助けてくれただろ?だから俺達は神様を信じてる!な!ミスジェロ!」
その翔の言葉にビクッとなるミスジェロ。
実は少し前から意識が戻っていたが立ち上がろうとしようとしたところ、天空神が「私のせいで!」と言い、泣き始めたため、起き上がれずにいた。割と話の最初の方から意識があったようだ。
「なんでわかったんだよ、、」
「勘だよ!俺昔から運がいいんだよね!」
「あの雰囲気じゃ俺邪魔じゃんどうして読んだんだよ、、バカなのか?」
ミスジェロからすれば気まずいの一言に尽きる
しかし翔は1人が説得させるより2人で説得させた方が良いと思っているらしい。
しかし、これ以上翔とミスジェロを巻き込めないと思った天空神が口を開く。
「でも、翔だから大丈夫って思う事が危険な考えだったの。だからもういい、、」
そんな天空神に翔が食い気味で口を開いた。
「言っただろ?俺達で協力して越えられない困難を乗り越えて行くんだよ!だからこれからは困ったら皆に相談しよう!もう二度とこういう事が起こらないために念入りに計画をたてて、実行するんだよ!過信しなくていい。だけど俺は神様を信じてる。これは過信じゃなくて今までを見てきてそう思ってる。神様は?」
翔の今までを見て。
翔の今までを、、、。
4月1日私は突然創造神に空から落とされた。
そしてなんだかんだ学校行事にも参加して、仲がいい友達も出来た。翔の家に住むことを許してくれたのも翔。森の事も島の事もいっぱいいっぱい迷惑かけた。
私はバカか。今までの半年間翔の何を見てきたんだ。私はずっと信じたい。これからも。翔を信じたい。いや、信じてる。
「私も、、翔を信じてる!」
そう天空神が笑いながら答える。
「そっかじゃあ、これからは困った事はお互い相談すること!約束な!」
翔が小指を出す。そんな翔に天空神は首を傾げる。
「人間は約束する時小指を結ぶんだぜ」
翔は天空神の小指と翔の小指を結ひ「指切りげんまん」と言った。
天空神は初めて感じた。今まで感じたことの無い安心感と温もり。
(よし決めた!)
天空神は心の中である決意をする。
恩返しをしていこう。私を守ってくれた人、助けてくれた人達全員。もれなく幸せな人生にさせてみせる。
そう決意した彼女の顔は自信に満ち溢れていた。




