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第55話 体力勝負

「でも敵が私だけとは言ってないわ」


「二人同時か。腕が鳴るよ」


天空神の言葉に、メネシスは口元を吊り上げてニヤリと笑った。


二人目はどこだろう。


天空神は周囲へ視線を走らせる。


いない。


どこにもいない。


空気の揺らぎもなければ、気配も感じない。


まるで最初から誰も存在していないかのようだった。


あれ?


なんだ、この違和感は。


目の前にいるメネシスは、この牢獄の管理人だ。


つまり、この場所のことは何でも知っているはずである。


じゃあなんだ?


どうして私の前に敵が現れない?


管理人なら、私以外に侵入者が二人いることも知っているよね。


ん?


知っている……?


その瞬間、天空神の脳裏に最悪の可能性がよぎった。


青い瞳が大きく見開かれる。


そうか。


この女は一度も「私に敵が二人いる」とは言っていない。


管理人として侵入者が三人いることを把握しているだけだ。


つまり――。


「っ……!」


天空神の顔色が変わる。


翔とミスジェロだ。


敵は最初から、自分だけをここで足止めするつもりだったのかもしれない。


胸の奥を嫌な予感が駆け抜け、背筋が冷たくなる。


まずい。


このままだと翔とミスジェロが危ない。


そう直感した天空神は、一刻も早くこの部屋を抜け出そうと考えた。


だが――。


「ダメよ。貴方は私の獲物なんだから」


そう言ってメネシスは指を鳴らす。


「カモォーン!」


甲高い声が響いた瞬間、無数の鎌がさらに増殖した。


そんなメネシスを天空神はじっと見つめる。


そして小さくため息を吐いた。


「私がお前の獲物? 今の天界の人間は、私たち五大神をそこまで舐めているのか?」


静かな声だった。


しかしその声には、普段の軽さは一切なかった。


次の瞬間。


天空神の周囲に巨大な魔法陣が展開される。


「来て」


空を裂くような咆哮とともに、スカイドラゴンが姿を現した。


さらに蒼く輝く空の精霊が天空神の傍らへ降り立つ。


「こっちの状況が変わった。君は管理人だから死なせはしない。安心してね」


その声は穏やかだった。


だが、その顔は違う。


いつもの飄々とした笑みは消えていた。


大きく見開かれた瞳には光がなく、底知れない冷たさだけが宿っている。


まるで感情そのものを切り捨てたような表情だった。


その姿に、メネシスの背筋がぞくりと震える。


恐怖ではない。


歓喜だった。


わかっているのだ。


自分が天空神に敵わないことなど。


五大神の中でも最高峰の力を持つ天空神を倒せるはずがない。


それでも戦う。


圧倒的な格上へ挑む。


その極限の興奮こそが、戦闘狂であるメネシスにとって何よりの快楽だった。


「女神を召喚ね……ゾクゾクする」


空の精霊。


それは天空神の力そのものを形にした存在。


言うなれば神の代行者だ。


広範囲へ神力による攻撃を放ち続けることができる。


天空神は増殖する鎌の迎撃を精霊とスカイドラゴンへ任せ、自らはメネシスへ向かうことを選んだ。


亜空間が開く。


そこから武器を取り出し、天空神は地面を蹴った。


「本気なのね……その精霊と使者は、貴方自身の力を削るものでしょ?」


メネシスは余裕を崩さない。


まるで「いつまで持つのかしら」と言いたげな笑みを浮かべている。


その表情に、天空神は口元を歪めた。


「確かに精霊と使者を出し続ければ、私はいずれ耐えられなくなる」


そう言いながら亜空間へ手を伸ばす。


現れたのは一振りの薙刀。


鋭い刃が冷たく光を反射した。


「だからその前に――」


薙刀を構える。


「貴方を負かす。あんまり舐められては五大神として悔しいからね」


「楽しみにしてるわ」


メネシスの瞳が愉悦に細められる。


翔たちのところへ行かなければならない。


一秒でも早く。


この牢獄には必ず何かあるはずだ。


隠された通路か。


転移陣か。


管理人がいる以上、出入口が存在しないはずがない。


天空神の思考は高速で回転し続ける。


その一方で、身体は止まらない。


薙刀を振るいながら、精霊とスカイドラゴンへ指示を出す。


集中力も体力も大量に消費する戦いだった。


絶対に負けられない。


戦いながら天空神は脳をフル回転させる。


よく考えろ。


メネシスは武器を操るタイプだと思っていた。


だが違う。


近距離戦もこなせる。


薙刀の連撃を小さなナイフだけで捌き続けている。


普通ではない。


遠距離型の神は近距離戦を鍛えないことが多い。


強くなるために必要ないからだ。


しかしこの女は違う。


なにかある。


よく見ろ。


よく観察しろ。


目線。


仕草。


癖。


どんな小さな違和感でも見逃すな。


その時だった。


天空神はメネシスの視線が一瞬だけ横へ逸れたことに気づく。


「ん?」


天空神の眉がわずかに動く。


「今なんで右に目をずらしたんだ?」


次の瞬間。


右側から猛烈な殺気が迫った。


鎌だ。


巨大な刃が天空神の顔めがけて高速で突っ込んでくる。


しかし天空神は慌てない。


空気を割くほどの凄まじい速さで鎌が迫る。


しかし、天空神は飛来した鎌の刃の上に乗り、そのままメネシスの頭上を一回転する。


「えっ!? 嘘でしょ!?」


さすがのメネシスも目を見開く。


そしてメネシスの背後に着地し、また攻撃をする。


近距離戦をしながら精霊と使者を操作し、それでもなお余裕を残している。


その異常な天空神の実力にさすがの戦闘狂も少し引いていた。


だが天空神自身も必死だった。


メネシスの能力の正体を見抜かなければならない。


(今、目を逸らした……いや、ずらした? なんのために?)


思考を止めるな。


もっと見ろ。


絶対に何かある。


考えろ。


頭を動かせ。


この戦いはどちらかが倒れるまで終わらない。


目線で武器を操っているのか?


でも、さっき攻撃された時は手も動いていた。


フェイク?


それとも両方?


なにが嘘で、なにが本当なんだ。


見極めろ。


まだ確認するべきことは山ほどある。


だったら――。


とりあえずこのまま近距離で攻める。


ボロを出させる。


そう脳を高速で回転させながら、天空神は鋭く薙刀を構え直し、メネシスへ向けるのだった。

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