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第52話 行くぜ!牢屋

「ごめんね……。どうせ死ぬのなら、この文明を完成させてから死にたかったよね。ごめんね……ほんとうに、ごめんね」


か細い声だった。


月明かりのように白かったアイテールの肌は、今や血の気を失い、透き通るほど青白い。長く美しかった銀髪も力なく床へと広がり、その瞳からは徐々に光が失われていく。


声は震え、霞み、今にも消えてしまいそうだった。


「……あんな人間なんか信じたから!!」


泣き叫ぶような声が響く。


「貴方が死ぬ必要などなかった!!」


叫んだのはティーターンだった。


まだ幼さの残る顔立ち。だがその瞳には深い怒りと悲しみが宿っている。頬を涙で濡らしながら、震える拳を握り締めていた。


アイテールを囲むように、従者たちも膝をついている。


誰もが涙を流し、誰もがその死を受け入れられずにいた。


「ティーターン……人間を憎んではいけません」


アイテールは苦しげに息を吐きながらも、優しく微笑んだ。


「私が、この星に適応できなかっただけなのです」


「どうして……!」


ティーターンは声を震わせる。


「どうして貴方がそれを言うのですか!? 裏切られたのは貴方なのに……アイテール様が……!」


その言葉に、場の空気がさらに重く沈んだ。


だがアイテールは怒らない。


責めもしない。


ただ、穏やかに皆を見つめていた。


「皆、よく聞きなさい」


弱々しくも、確かな意志を宿した声だった。


「これが……私からの、最後のお願いです」


その場にいた全員が息を呑む。


「この先……私の力を受け継いだ生まれ変わりが現れるでしょう」


「……っ」


「それがいつになるかは分かりません。けれど、その子ならきっと……私が完成させられなかった世界を、完成へ導いてくれる」


ティーターンは首を横に振った。


大粒の涙が次々と零れ落ち、アイテールの細い指先へと落ちていく。


「嫌です……」


声は幼い子どものように震えていた。


「貴方がいないのに、文明なんて完成しても意味がないじゃないですか……!」


その言葉に、アイテールは少しだけ困ったように笑った。


「……人の話は、最後まで聞きなさい」


「……はい」


ティーターンはしゃくり上げながら、静かに俯く。


そして――


アイテールは最後の力を振り絞るように、優しく口を開いた。


「幸せになってね」


その笑顔は、どこまでも穏やかだった。


次の瞬間。


原初神アイテールは静かに目を閉じ、そのまま二度と開くことはなかった。


部屋には嗚咽だけが響いた。


やがて、彼女の魂は淡い光となって空へ溶けていく。


その光は無数に分かれ、この星に散らばっていった。


後にそれは、多くの神々の始まりとなる。


ティーターンは涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。


幼い顔から感情を消し、強い意志だけを宿した瞳で空を見る。


「作りましょう」


その声に従者たちが顔を上げる。


「この二十三人の代で必ず……アイテール様の生まれ変わりを迎えるのです


私たちで完成させましょう。この星を」


⸻天界と浮世を繋ぐ狭間には、亜空間とは別に薄く張られた領域が存在する。


記憶の保管庫。


魂に刻まれた過去の記憶が眠る場所だ。


そこを通り過ぎた瞬間から、天空神の頭には激しい痛みが走っていた。


「うぅ……」


端正な顔をしかめ、こめかみを押さえる。


普段は余裕に満ちた彼女の表情が珍しく曇っていた。


「どうしたんだよ、神様」


翔が心配そうに覗き込む。


「ちょっと……痛いっていうか、頭がグラグラする……こんなとこ行ったことあったっけ?」


「休めば?」


「いや……大丈夫」


無理に笑う天空神の顔色はわずかに悪い。


それでも彼女は足を止めなかった。


そんな二人の前で、ミスジェロが腕を組む。


「まず、あれが欲しい」


「あれ?」


翔と天空神は同時に首を傾げた。


ミスジェロは真面目な顔で言う。


「ノアは本のような物を持っていた。そこに俺のことなんかメモみたいなのしてたんだ」


「あー、例の牢屋での出来事か」


翔が納得したように頷く。


「でも、そんなのどこにあるんだ?」


現在、天界の牢獄は大規模に拡張されている。


数万人規模の看守。罪を犯した神々も多数収監されていた。


簡単に侵入できる場所ではない。


「とりあえず牢屋だ」


天空神が真剣な顔になる。


「ルールの代理人がいなくても、何か情報は手に入るかもしれない」


そして少し考え、


「まず罪人のデータがある管理室に行かないといけない。だから天井から入ろう」


天空神が案を出すがミスジェロは納得してない様子だった。


「でもまだ看守の人数や配置場所を理解していないよ。このままいくのは成功する確率が低い」


「……それなら、いい案があるぜ!」


突然、翔がぱちんと手を合わせた。


目を輝かせ、満面の笑みで二人を見る。


「予め牢屋の中のことを神様たちに伝えて、計画的に犯行するんだ!」


「……は?」


天空神とミスジェロかハモった。


「つまり俺が牢屋に入るんだよ!!」


「??????」


その場の2人の思考が止まった。


「えー!?!?」


次の瞬間2人の叫び声が重なった。

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