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第46話 ゲーマー

天界の一室――本来なら静謐であるはずの神の領域に、不釣り合いな電子音が絶え間なく響いていた。


ピコピコピコピコピコピコピコ――。


「で?話があって来たんでしょ?」


間延びした声と同時に、指先は一切止まらない。画面に映る光を追うその目は真剣そのもので、まるで戦場に立っているかのような集中力を見せている。


「……あ、それなんだけど」


天空神は口を開くが、その声は無機質なゲーム音にかき消されていく。銀色の長い髪がわずかに揺れ、彼女の眉間にはうっすらと皺が寄っていた。


ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ――。


「……その、船のことで……」


言葉は届かない。いや、届いているのかもしれないが、相手の脳に処理される前に弾かれている。


ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコーー。


「……ごめんなんて言った?」


ようやく返ってきた言葉に、天空神のこめかみがぴくりと動いた。


完全に聞いていない。


そして当然のように、パンの声もまた、ゲーム音に紛れて天空神の耳には届いていなかった。


――うるさい。


ただひたすらに、ピコピコうるさい。


神の空間とは思えないほどの騒音が、会話という行為そのものを破壊していた。


「……あー、もう……」


小さく呟く。その声には、明確な苛立ちが滲んでいた。


「あー!!もー!!ピコピコうるっさいわね!!ゲームの電源切るぞ!!」


ついに爆発した。


普段は比較的温厚な天空神が、はっきりと“キレた”。


空気が一瞬で張り詰める。


パンの指がぴたりと止まった。


「えー、それはヤダ!」


子どものような即答。しかしその直後、さすがにまずいと思ったのか、しぶしぶとゲーム機の電源を落とす。


静寂が戻る。


それだけで、空気の重さが段違いに変わった。


パンはようやく顔を上げ、天空神と正面から向き合う。その顔色はやや青白く、目の下にはうっすらと隈が浮かんでいた。髪の色はまっキンキンな金色だが同じ金色の創造神と違ってくすんでいた。色々観察したが長時間のゲームによる不健康さが神でありながら隠しきれていない。


「で?なに?」


軽い調子で言うが、その姿はどう見ても“伐採神”というより“廃人ゲーマー”だった。


天空神は一度深く息を吐き、気持ちを落ち着ける。


「……ちなみになんのゲームやってたの?」


なぜか先にそっちを聞いてしまった。


「え?当ててみてよ」


唐突なクイズに、天空神の思考が一瞬止まる。


「……マリオス的なやつ?」


「違うよ〜スマッシュファイターズ」


「スマッシュファイターズ!?」


思わず声が裏返る。


その反応に満足したのか、パンはにやにやと笑っている。


――いや違う、違う。


今はそんな話をしに来たんじゃない。


天空神は小さく首を振り、意識を無理やり本題へ戻した。


「……では改めて。伐採神さん、相談があります」


呼び方を訂正するあたり、最低限の礼儀は守る。


パンは少しだけ目を細めた。


「それは僕の“仕事”の話かな?」


「そうですよ。その他に貴方に相談なんてありません」


ぴしゃりと言い切る。


容赦がない。


パンは露骨に肩を落とし、「ひどいなぁ……」と小さく呟いたが、それ以上茶化すことはしなかった。


「で、内容は?」


その声色は、ほんの少しだけ真面目だった。


天空神はゆっくりと言葉を選びながら、これまでの経緯――船の損傷、森での作業、翔の疲弊、そして箱舟の修復計画について、嘘を交えずにすべて話した。


話している最中、パンは顎に手を当て、いかにも「考えています」というポーズを取っている。だがその目はどこか上の空で、本当に考えているのかは微妙なところだった。


そして――


「んー、まぁ別にいいよ」


あっさりとした返答。


「そうだよね、やっぱりダメだよね……って、え!?」


予想外すぎて思考が一拍遅れる。


「いいの?」


「うん。別にそのくらいなら問題ないし」


軽い。


あまりにも軽い。


神の“仕事”というのは、本来そう簡単に譲っていいものではない。神力や役割、さらには存在意義にも関わる重大なものだ。


それを、この男は――


「でもジョーケンがあるよ」


にやりと笑う。


やっぱりそう来たか、と天空神は内心で小さく頷く。


「……どんな条件?」


パンは少しだけ体を乗り出し、声のトーンを落とした。


「視聴者さんにおすすめされてるゲームがあってさ」


「……視聴者?」


嫌な予感がする。


「それをやりたいんだよね」


「ゲーム?」


完全に話が見えない。


するとパンは、どこか誇らしげに胸を張った。


「あつまれ森の住民たちっていうゲームやってほしいってリクエストがあってさ」


「あつまれ森の住民たち!?え、なにそれ」


「……実は僕、YouTubeでゲーム配信してるんだ」


「ゆーちゅーぶ!?」


天空神の目が大きく見開かれる。


それは、つい最近まで人間界で翔と過ごす中で知った存在だった。膨大な情報と娯楽が詰まった、あの動画投稿サイト。


まさか目の前の神が、その発信者側だとは思ってもいなかった。


感情が追いつかない。


困惑、驚き、呆れ――すべてが一気に押し寄せる。


「……わかった。用意する」


最終的に出た言葉は、それだった。


「交渉♡成立」


満面の笑み。


完全にしてやられた。


天空神は小さくため息をつく。


(……なんで神の仕事をするのに、ゲーム機を調達しなきゃいけないのよ……)


理不尽さに頭が痛くなる。


だが、それでも――


翔の顔が浮かぶ。


汗だくで木を切っていた姿。

限界に近い表情。


それを思い出せば、この程度の条件は安いものだった。


「じゃあ、行ってくる」


踵を返し、浮世へ瞬間移動しようとしたその瞬間。


「あ、そうだ天空神さん」


背後から声が飛ぶ。


振り返ると、パンがにやりと笑っていた。


「その翔って子にさ、俺のチャンネル紹介しといてよ」


「……全く。現金なヤツ」


小さく呟く。


だが、その口元はほんのわずかに緩んでいた。


こうして交渉は成立し、天空神は再び人間界へと戻る。


その日のうちに、森の木々は大量に伐採され、船の修復に必要な材料は一気に揃えられることになる。


――そしてその裏で。


翔がいつも見ていた100万人越えの人気配信者が、“目の前の神だった”という事実は、まだ天空神自身は知らないままだった。


神々の豆知識

パン君は朝食べない、昼食べない、夜カップラーメンとかいう不健康生活をしています。

パンは髪を染めています。創造神の綺麗な金色自髪と違い、パン君はリタッチの部分が黒髪になっているプリンのような髪をしています。ブリーチしているところもくすみ金色です。

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