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96.決断

私は朝からピザ生地を叩きつけている。

叩きつけてもっちもちにする。

クリスピーも好きだけどね。


ピザなんて作るつもりなかったんだけどね。

ちょっと精神統一をしたくて。


生地をいじり、気持ちが落ち着いた。

生地は冷たい場所でゆっくり発酵させておこう。


洋服を着替えて、髪の毛を三つ編みにしていると、馬車の音が聞こえてきた。

ジョセフィンさんと母親が馬車にやってきたようだ。



「こんにちは、こちらへどうぞ」

祖父が、裏庭へと案内する。

お天気がいいので、外でゆっくりお茶でも飲みましょう。


ケイトさんとエイミーがブレンドしてくれた、ゆったりとした気分になる紅茶を入れる。


「あら、おいしいわね。」

ジョセフィンさんが一口飲み、味を褒めてくれる。


「友達がわけてくれたんです」


「今日のお菓子もおいしいわ」

「あ、これも別の友達からです」


ジャムクッキーは最近おかし作りに目覚めたグレイスからのギフトだ。

ジャムクッキー作りが楽しいんだって。ジャムも様々な果物を使って手作りしているらしい。


「ノラには…ここでも友達がたくさんいるのね」

静かに紅茶を飲んでいた母親が、おずおずと話しかけてくる。


「うん!学校もすごく楽しいんだ。」

「そうなのね」

「お祖父さんもすごく優しいしね、アビィおばさんも遊びに来てくれるんだよ。」

「アビィも…」


叔母に迷惑をかけているのを思い出したようで、なんとも言えない表情をしている。


「近所の大人の人とも何か作ったりね、きのこ狩りに行ったり、みんな良くしてくれるんだ」

「そう…」


「だからね、お母さん」

「うん」


「お母さんの事愛してるよ。でも」

「うん」


「でも一緒には行かない」

「うん、わかってたよ。ごめんね」

母親がハンカチで目を抑えるのを見て、私も涙が出てしまった。


私たちは一しきり泣くと、落ち着いて話ができるようになった。

まだ少しぎこちないけど、以前のように話せていると思う。


ジョセフィンさんは先に帰ると言って馬車で帰ってしまった。

祖父も私たちを二人にしてくれている。



母親は明日の汽車で帰る事にしたようだ。長くいると未練が残ってしまうって。

また来てって言っちゃダメなのかな?


帰り際にきつく抱きしめられた。

「自分勝手な母親だったわね。ごめんねノラ。ノラの幸せを祈っているわ」

「うん」

私もきつく抱きしめ返す。



丘を下る母親の後ろ姿を祖父と見送る。


ルーメンさんの言葉が思い浮かぶ。

…どちらを選んでも何かを失うだろう…



ふいに、母親の後ろ姿が、誰かの後ろ姿と重なる。誰だろう?


あぁ、ダメ。行かせてはいけない。



「待って!!やっぱり!一緒に行くよ!!」

驚いた顔で立ち止まる母親に駆け寄って、しがみつく。


「一緒に行くよ。置いていかないで!!」

「ノラ…」

母親は少し困惑しているようだ。


「本当に…?」

「違う!やっぱり行けない!!でも置いていかないで!お母さんがここにいてよ!!」


泣き止まない私に、母親が困ってしまい、祖父に視線で助けを求める。


祖父は少し離れた所で立ち止まり様子を見守ってくれていた。


「いいんじゃないですか?」

「えぇ?」

「部屋も空いていますし。増築だってできるでしょう。」

「そんな…」

「とりあえず家に入りましょう」



祖父に促され、再び家に戻る。

「ジョンさんは私の事怒っていないんですか?」

母親がしゃっくりが止まらない私の背中を撫でながら言う。


「怒っては…いたと思います。…でも私の感情なんてどうでもいいんです」

「申し訳ありません。」

「もう、怒ってなんかない。ノラの今後の方が大事だ。それに愚息のせいでもありますしね。」

「私が来て、ご迷惑じゃないですか?」

「とんでもない。ノラが来てからもそうですがいつも新鮮な気持ちで生活ができますよ。」


「お、おじいさん、も、わがまま言って、ごめんなさい」

私は起き上がると母親から降りて、祖父にもしがみつく。


「ノラ、君はここに来てから一度も我儘なんて言った事ないじゃないか。甘えた事もないだろう。これからは存分にエマニエルさんに甘えるといい」

「お、お祖父さんにもいつも甘えてたよ」

「そうかい」

祖父も優しく抱きしめてくれる。



…こうして、母が村の仲間になった。


なんか、今は母親っていうよりも母って言いたい気分。



母は私のわがままを聞いてくれて、我が家に泊まる事になった。

祖父がジョセフィンさんにそれを伝えに行ってる間に、母といい感じに発酵していたピザ生地を伸ばして、トマトソースを塗って、ハムやら玉ねぎやら、具材をたっぷり乗せてチーズをふんだんにふりかける



祖父が帰って来たのを見計らって釜に入れ、焼きたてをみんなでいただく。


「すごく合理的な料理だね!」

「ノラ、すごいわね」

母は美味しさに感動したのか、また泣き出してしまった。


その後は東風を感じながら、露天風呂に浸かり、私の部屋のベットで二人で眠る。

「さすがに9歳だと二人で寝るのは狭いわね」

「狭いね」

そしてまた二人で泣いてしまう。


今日は泣いてばかりだけど、明日からは笑って過ごせるといいね。

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