95.持ち帰らせていただきます
正直、まだ話の整理もできていない。
母親も前世の記憶を持っていたって事だよね。
私もぼんやりとしか思い出せてないんだけど、母親の方がもっとぼんやりとしているようだね。
世の中に前世の記憶を持っているのが私だけって事はないと思っていたけど、まさか身内にいたなんて。
少しの間、息をするのを忘れていたようで、苦しくなり慌てて息を吐き出した。
私、私は父親の顔なんて覚えていない。
記憶もぼんやりとだけしかない。
でも、母親は別だ。
私の心の中に母親への後悔が抜けない棘のように突き刺さっている。
皆が困惑している中、祖父が沈黙を破る。
「帰るって、マイタキにかい?コールと三人で?」
「ノラが望むならコールさんを説得して三人で暮らせるようにします。私にはノラと暮らしていけるだけのお金はありますので二人でもやっていけます。」
「コールはなんて言っているんだ?どうして一緒に来なかったんだい?」
「コールさんは…ジョセフィンさんと話してからは、ノラの事を気にかけ始めたようではあります…」
「ふんっ」
ジョセフィンさんが鼻を鳴らす。
「今更気にかけるとはね!父親なのに!…ノラ、今日は呼び出して悪かったわね。エマニエルと二人で話したい?」
「…わたしは……」
話したい。話したいけど何を話したらいいのかと考えると言葉が出なくなってしまった。
母親は少し傷ついたような顔をした。
祖父が私の肩にそっと手をかける。
「ごめんなさいね。ノラも考える時間が必要でしょう。また三日後にこちらから訪ねるわ。」
ジョセフィンさんが優しく声をかけてくれる。
「はい…ありがとう。約束を守ってくれて。ジョセフィンさん」
「ノラ、またね…」
「お母さん…」
祖父に優しく導かれ、ゴードン家を出る。
歩きながら祖父が話しかけてきた。
「私はまたジョセフィンに怒ってしまう所だったよ。」
「なんで?」
「急にこんな事をするなんて…と思ったけど、ノラが望んだんだね。」
「確かに、先に言っておいて欲しいよね。」
「先に言っていたら私が会わせないとでも思ったのかね。」
そんな事しないのに…と祖父が肩を落とす。
「ノラ、私の事を気にしているなら、ノラがエマニエルさんと一緒に帰ってもいいと思うよ」
「…」
「一緒にいても、離れていても私たちは家族である事に変わりはないからね」
「…うん」
帰宅後、静かに夕食をとり部屋に戻る。
何を今更。
と思ってしまうが、私は今ほっとしている。
思いの外母親に会えた事に安心したようだ。
それでも私は母親にはついて行かないだろう。




