66.乗船です
広葉樹は落葉し、季節はすっかり冬になった。
祖父の腰痛は身体が硬くなっている部分が原因で発症したようなので、祖父の腰が良くなると、毎朝私たちは三人で体操をする事にした。
それが功を奏したのか祖父は今まで以上に精力的に働いているので、ひとまず安心。
「出発前に完治して良かったよ。」
「痛いと楽しめないですものね」
「すごく楽しみだなぁ」
そんな会話を繰り広げながら、私たちはドーリングの港に来ている。計画していた船旅をする為だ。
ドーリング港を出発して北東に進み、島の90%が雪と氷で覆われているというポンポンシーランドに向かう。
途中の島々に寄りながらの航海なので二週間ほどの日程になる。
ポンポンシーランドはなんといっても広大で美しい自然で知られていて、ひと昔前までは、その過酷な航路は探検家の夢と言われていたらしい。
ポンポンシーランドが目的というよりは、そこまでに向かう為の航路に意味があるようだ。
蒸気船ができてからは、船旅が容易になり今では観光に沢山の人たちが訪れるみたい。
途中の島々でうまくいけばオーロラや、アザラシやクジラに会えるかもしれない。
でもね、とーても寒いらしい。
波止場に着くと、大きな船が止まっている。
「あの船にのるからね」
と、祖父がその大きな船を指で示す。
「まぁ!シレーヌ号ですね。この船に乗るのもやってみたい事の一つでしたの」
叔母が両手で口を抑えながら感動している。
乗船口には一列に並んだ上品な乗務員一同がお出迎えしてくれている。
乗務員たちの挨拶の花道を抜けると、列の最後に祖父に負けず劣らずイケてるお爺さんが笑顔で立っている。
「ようこそ、シレーヌ号へ。本航海の船長を務めるフランツです。船の旅をお楽しみください」
はぁ、お嬢さまにでもなった気分だわね。
乗務員に客室に案内してもらい、荷物を置く為に別室の祖父とはしばらくお別れする。
私と叔母の部屋は、バラ柄の壁紙が貼られ、重厚なキャビネットや布張りのソファ、ベットが二つ設置されたバルコニー付きの素敵な部屋だった。
「素敵ねぇ」
ソファに置かれた緑色のクッションを手で触りながら叔母はため息をつく。
「本当に素敵」
私も、ベットの上にかけられた緑色のベッドスローに触れてみる。
ツヤツヤです。
しばらくすると、コンコンとノックの音がする。
扉をあけると祖父が立っていた。
「おぉ、素敵な部屋だね。海が綺麗に見えるだろうね」
「お祖父さんの部屋はどんなお部屋なの?行ってみたいな」
「私の部屋は相部屋だから、騒いだらご迷惑かもしれないね。落ち着いた素敵な部屋だよ。」
「ジョンさん、感動して涙がでそうです。こんなに素敵なお部屋で旅ができるなんて」
確かに素敵なお部屋だけど、涙まで流すなんて叔母ったら感受性が強いんだね。
と思っていましたが、数年後に船旅の金額を知った私も涙を流しそうでした。
「もう少ししたらデッキで出発のセレモニーをやるみたいだから行ってみよう」
と祖父が言うので、荷物を簡単に片付けてデッキに向かう。
デッキから港をみると、大勢の少年少女が揃いの服を着て楽器を演奏している。
その後ろには色とりどりの旗を振りながら、大勢の人が船を見送る。
蒸気の音と共に動き始めた船の上からみんなで大きく手を振った。
紙テープ投げたかったな。シュルル
出航のセレモニーの後は、まずは昼食を取ろうという事で、船内の案内板を見にいくと乗務員さんが簡単に説明してくれた。
レストランは4つほどあり、そのうちの一つのバッフェ形式のレストランを覗く全てのレストランはルームサービスも可能で全く同じメニューを提供してくれるみたい。
レストランはランチの時間が終わると、アフターヌーンのお茶のセットになるとのこと。
他にも軽食と飲み物を売っているスナックスタンドもあるようなので、いつなんどきお腹が空いても大丈夫だね。
叔母はバッフェのレストランに行きたそうにしていたが、乗務員さんから「朝のパンは種類が豊富で焼きたてで美味しいですよ」とのアドバイスをいただいたので、明日の朝食は絶対にバッフェレストランに行きましょうね!!と言っていた。
結局、世界の料理が食べられるレストランで、海が見える素敵な席に座り、食事を取ることにした。
本日のコースは西の国風ですって。
私はシュベック国の味も西風の味も同じ風に感じるから何が違うか解らないんだけどね。
叔母に言わせると、繊細さが違うんだって。
一品目は旬の野菜をふんだんに使用したオードブルサラダ。
リーフやトマト、豆やシャキシャキした謎の野菜が綺麗に盛り付けられている。野菜で作ったというドレッシングが美味しい。
「口に入れた瞬間に弾ける瑞々しさですね!人参のドレッシングかしら?」
二品目は旬野菜のポタージュ。ネギ科のお野菜の甘みが感じられる。
「ネギのポタージュかな?」
「そうだね、ポロネギかな」
三品目はハーブでマリネしたツナの野菜のグリル添え。
「オリーブとレモンの香りのソースがいいですね。」
「なんか、身体によさそうだよね。」
「昼食に丁度良いね。」
デザートには果物とミルクグラースのパルフェですって。
バニラアイスとコンポートしたリンゴのパフェだった。
「…私はアイスクリームに目がないみたいだ」
「美味しいですわね」
最後はお茶やコーヒーが出てきて昼食が終わる。
確かにシュベック国の料理よりも目で満足するような気がする。
どちらも美味しいので幸せです。




