58.甘さと、歯ごたえと、怪しさと
お茶が終わったらルーメンさんの仕事部屋で私の占いをすると言うので、今はお茶を楽しむ事にした。
取り分けてもらったケーキのような見た目のお菓子は三つ。
まずは左端の何も乗っていないお菓子にフォークをいれる。
黒い粒が練りこまれているようだ。
おや、これはケーキじゃない。
ジャクっという音と共にお菓子がホロホロと崩れてくる。
崩れた欠片を口に入れてみると、ゴマの風味がすごい。
あと、この食感、また覚えがある。甘納豆を思い出した時と同じだ。
これは落雁!!ゴマ風味の落雁!
ふむ、興味深い。一口食べて紅茶を飲む。紅茶が甘さを流してくれる。
次は、赤い実が乗っているお菓子にフォークを入れる。
ん?プルンとした感じ。
今度はシナモンの香りがするけど、これは、ういろうの食感です。
赤い実にみえたのはアーモンドだった。
ここに来て、日本のお菓子の食感に似ているお菓子が二つも来るなんて予想外だ。
最後はどんな味だろう。お口直しの為に、また紅茶を飲む。
今度は力をいれないとフォークがささらない。
口にいれると、粘着性がある。ソフトキャンディーの様な食感だ。
味はまたゴマの風味だったけど棗椰子の濃ゆい味を感じる。
これが一番好きかもしれない。
ミリーも美味しそうにジャリジャリ音をさせている。
「どうだい?お味は。」
「美味しかったです。初めて食べたけど、懐かしい味がしました。」
「そうか。お口にあって良かった。お腹いっぱいになったなら行こうか」
ルーメンさんは私が食べ終わると、ルーメンさんの仕事部屋に案内してくれる。
その部屋は、山積みの本、読めない言葉が書かれた紙、魔法陣の様な物、怪しげな鏡や、水晶などがおかれていて魔法使いの部屋みたいだ。
ルーメンさんは私に安楽椅子に座るように促すと、蝋燭に火を灯し、部屋のカーテンを閉めた。
「君の気は、 霧がかかったように朧げに見えるんだ。わざと隠されている様な感じ。思い当たる事があるだろう。いや、言わなくていいんだ。そんな人も幾人かいる。珍しくはあるけどね」
「え…」
「それよりも、気になるのが触れるだけで流れてくる深い悲しみだ。激流のように伝わる後悔。それを取り除く手助けをできたらと思う。嫌だったらすぐに中止するから、信じて委ねてくれるかい?」
「…わかりました」
何するかわからないけど、隣の部屋にはみんないるし大丈夫だと思う。
胸元はだけてるけど、いい人そうだし。
ルーメンさんは銀の懐中時計を取り出し蓋をあけた。
「目をつぶって、この音に集中して…私の声が遠くから、しかししっかりと聞こえるね…懐中時計に音と、私の声にだけ集中して、ゆっくりと数を数えていくよ。」
ルーメンさんの声が遠くから聞こえて来る。
いーち (螺旋の階段を降りていく様に、記憶の奥底まで降りていこう…)
にー…さーん…
(階段を下りると、扉があるね。鍵はかかっていないから開けてみよう。)
私はノブを握りしめ扉を開ける。
(扉をあけたら何がみえる?)
「家の中」
(知っている家かな?君の名前は?)
「ノラ。前に、お母さんと住んでた家」
(家の中には誰かいるのかな?)
「お母さんがいる」
(お母さんは何をやっているの?)
「ベッドの横で泣いてる」
(悲しんでいるのかな?わかる?)
「わたしが悪い子だから」
(ノラは悪い子じゃないよ。お母さんはまだ泣いているの?)
「違う!わたしがわるいこだから、わるいこだから」
(ノラのせいじゃないよ。少し周りをみてみようか。ベッドの上にノラはいるのかな?)
「私は…上から見てる」
そうなんだね。ドアはそこから見えるかな?
「うん」
(じゃあ、上から降りてきてドアを開こう。もっと昔に戻ってみようね。扉を開いて)
見慣れた家の勝手口を開く。真っ白で景色が見えない。
景色は見えないけど…見えないけど…
(どこに出たのかな?何が見える?)
「娘が見える」
後ろ姿だ。走っている。
(君の名前は?誰の娘さんかな?何をしているの)
「名前はないの。娘が家をでてしまって、追いかけているの。もう夜も遅いのに」
ダメ、行かないで。危ないよ。
(どうして出て行ってしまったのかな?)
「帰りが遅いから…ダメだって言ったのに…うう…」
(泣いているの?何かあったのかな)
「私から産まれたくなかったって。死んじゃえって」
(悲しいんだね。)
「悲しい。」
(本気で言ったんじゃないよ。本気じゃないって感じる?)
「うん」
(娘さんは君の事大好きなのって感じる?)
「感じる」
(娘さんは、君の事を愛しているよね。人は誰でも心にもない事を行ってしまうんだ。それじゃあ移動しよう。目を閉じて、ノラ。ノラ、さっきの所に戻ったかな?)
「うん」
(ノラ。お母さんはまだ泣いてるの?)
「うん」
(じゃあ、お母さんに教えてあげよう。大好きだよって。)
「お、おかあさん!おかあさん!泣かないで。大好き!ほんとうだから。もう悪い子にならないから。」
いかないで、死なないで。私を置いて行かないで。
抱きつくと、お母さんの涙は止まった。
(お母さんはノラがお母さんを大好きだってこと、わかってくれてるよね)
「うん。わかってる」
わかっている。わたしだってわかっている。
(それじゃあまたゆっくりと数を数えていくから、階段を上って戻ってこようか。ノラの靴には羽が生えているから階段は辛くないよ)
はーち…きゅーう…じゅう。
パンっと音が鳴り、私の目が開く。
目が覚めた私は、冷たい不快感を感じる。耳の方まで水で濡れている。
どうやら、号泣していたみたいだ。
なんだろう。会話があった事は覚えてるんだけど、内容はあんまり覚えてない。
ハンカチを差し出しながら、ルーメンさんが言う。
「これは占いじゃないんだ。”ノラ”の心を軽くする事しかできないからね。」
うん。占いじゃないと思っていました。催眠術的なやつだよね。
「今後、君には訪れがあるはずだ。その時に選択をしなければならない。どちらを選んでも何かを失うだろう。といっても、そんなに深刻になる事はないよ。人生とは得る事と失う事を繰り返すだけだから。それと忘れないで。君はノラなんだからね」
今のはちょっと占い師っぽいね
私は今まで、ノラと私は別人のように感じていたんだけどね。
まぁ、いいや。今は考えるのはやめよう。




