55.産まれます
私たちは祖父の家で充分な時間を過ごし、ミリーも家に帰りたいと言うので、パン屋に向かうことにした。
祖父は差し入れの入った大きなバスケットを片手に持ち、空いている方の手を私と繋ぐ。
先生は移動中、ずっとミリーを抱っこしている。
ミリーは私より身体がかなり小さいので、先生もそんなに重くなさそう。
そっとパン屋の二階に上がると、丁度、陣痛が治まっているタイミングだったようで、ジナさんはお水を飲ませてもらったり、汗を拭いたり、少しゆるやかな空気が流れていた。
ソニアさんと、もう一人いる女性が、ブッチャーさんの奥さんのケイトさんだろう。
髪型も服装もピシッとしていて真面目そう。
「戻ってきたのか。今のところ順調だよ。そんなに長くはかからないと思うよ。」
と、マッケンジー先生が言う。
ローガンさんはジナさんの手を握ったまま青ざめていて、そんなローガンさんをジナさんが慰めている。
「あの、もし何か食べられるならと思っておやつを持ってきました。」
「あぁ助かるわ。ほら、あんたももらっておきな!」
「俺はいいから」
「ローガンさんも今食べておいたほうがいいですよ。ジナさんはしっかりと私が着いているので今のうちにみんないただいてください。」
マッケンジー先生の一言でローガンさん、ソニアさんがパンを手に取り、ケイトさんはグラノーラバーをジナさんの口へと持っていく。
「うまい。特にこの雑穀のパンが最高だ。」
いいと言っていたけど、やはりお腹が空いていたのか、ローガンさんはパンを全種類口にした。
そして、ローガンさんが感想を述べると、雑穀パンの製作者のミリーがローガンさんに抱きついた。
「みんな、ありがとう。生き返った気分だわ!もう一踏ん張り出来そう!!」
ジナさんも笑顔だ。
ケイトさんはジナさんの汗を拭きながら、私をじっと見ている。
あ、挨拶したほうがいいかな?
と思っている間にジナさんの陣痛が始まり、私達4人は寝室から出るように言われ、居間で待っている事になった。
祖父は台所をかりて、ジナさんとローガンさんが後で食べられるようにと栄養満点のスープを作り始めた。
なんとなく落ち着かない時間を2時間ほど過ごしたが、間も無く寝室のざわめきが一際大きくなり、か細いが、確かな産声があがった。
みんなで顔を見合わせ、しばらくするとソニアさんが出てきて「入って大丈夫よ」と声をかけてくれた。
ミリーを先頭に静かに室内に入ると、赤ちゃんを抱いたジナさんと声を出さずに泣いているローガンさん、テキパキと片付けをしているマッケンジー先生、ソニアさん、ケイトさんがいた。
ミリーがそっとジナさんのそばに行くと、ジナさんは「男の子よ」と言って赤ちゃんを見せると、ミリーを優しく撫でた。
ミリーも声をださずに泣き始め、ローガンさんそっくりになった。
「さぁ、ジナさんと赤ちゃんを休ませてあげよう。何かあったらすぐに呼んでくださいね。」
赤ちゃんもミルクを飲むものね。邪魔にならないように、私たちは居間に移動した。
手を洗い終えたケイトさんに、挨拶をすると、ケイトさんはにこやかに答えてくれる。
「あなたは本当に、お料理のセンスがいいのね。うちの子に欲しいわ」
ケイトさんの言葉に祖父はギョッとした顔をする。
「ケイト?」
「あぁ、違うわ。そういう意味じゃなくて、将来うちにお嫁に来てくれると嬉しいわ」
嫁というと、リッキーかアイザイヤだよね。正直、どっちも恋愛対象ではないし、二人にも好みと言うものがあるでしょう。
「えーと…」私が困っていると祖父が助け舟をだしてくれた。
「ケイト、そういうのは子供達に任せようじゃないか。」
「えぇ、来てくれたら嬉しいけど本気で言ったわけじゃないわ。いえ、少し本気だったわね」
「うちの子が男の子だったら、私もお嫁にほしかったよ」
「さて、私はお祝いのプレゼントを仕上げる必要があるから、失礼するよ。スープを作っておいたからお腹がすいたら飲むといい。」
「グラノーラバーも日持ちがするので、ジナさんにあげてください。」
「私も、お店に戻って、みんなに知らせてくるよ」
マッケンジー先生は少し残って様子をみるみたい。
ミリーにさよならを告げようとしたけど、ローガンさんにしがみついて眠っていた。
ジナさんの出産は村中に伝わり、ミリーの家はプレゼントの嵐だ。
祖父からは素敵なゆりかご、私からは手編みの靴下をお祝いに贈った。




