35話 私は人を殺さない
「宿に戻ろう!
モーリエとミサキに何かあったんかも!!
急いで…」
急いで戻ろう、と告げる前にマリさんは素早く僕を担ぎ上げると全速力で走る。
村の騒ぎが大きくなっている。
泣く声、叫ぶ声、何かが壊れる音やらが広範囲に広がる。
賊の襲撃?
だとしたら傭兵達はどうしたのだろう。
宿にたどり着くと。
「ぬ゛ぐおおおおおおおおおっっ!!」
「このおおおぉぉぉっっ」
窓をぶち破ってもつれ合った2人の人間が飛び出して地面を転がる。
立ち上がった2人は剣を構える。
片方はヤン・クオンと短い直刀、もう一方は日本刀に似た反りのある大刀。
「うぐわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ」
日本刀の男、マルタが白目を向いて吠える。
まさかのまたまた魔剣!?
「マリィィーッ!
どこ行ってやがったコラッ!!
部屋の中の二人を頼む」
「魔剣多過ぎやろっ!
どういう事やねーんっっ」
「こっちが聞きてえよ!」
息を乱したミルミルがマルタを直視しながら叫び答える。
マリちゃんは頷くと宿屋へと向かう。
壊れた窓を飛び越えて中へ入ると。
狂気に顔を歪ませたジョアンが銅色の蛮刀を振り上げていた。
部屋の隅にはモーリエをかばって立ち、ジョアンをにらむミサキ。
「おい、ジョアン。
乙女の部屋に無断で立ち入るとまた嫌われるで」
僕は声をかけながらなるべく高くマリちゃんの腕の中から飛び降りる。
こちらに注意を向けるようにジョアンの近くに着地。
ヤン・クオンの話を聞く限りでは魔剣は人じゃないものに興味はないらしいし、近づいても斬られることはないだろう。
「う、うひゃあっ」
なんて考えてたら銅色の蛮刀が落ちてきたので華麗にかわす。
「び、ビビったーっ」
心臓が早鐘を打って飛び出しそう。
動くモノに反応したのか?
魔剣にもそれぞれ個性があるんかなー。
「ダルマちゃん大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。
マリちゃん、アレを試そう!
後ろの壁にアンカー!!」
荷馬車の中で一日中ごろ寝していたワケじゃない。
僕が考えて二人で練習していたんだ。
マリちゃんの攻撃の型を。
おかげで荷台の床に穴を開けて怒られたけど。
マリちゃんが正面に突き出して構える金の杖の真ん中が左右に枝分かれして後方の壁に突き刺さる。
これを仮に”アンカー”と名付けた。
「グオオオオオッッ!」
ジョアンが身体の筋肉を膨張させながらこちらへ近づく。
「マリちゃん、
身体を固定できた!?」
「はい、大丈夫です」
「いけーっっ
シュートォォォッ!」
半円上の刃物にした杖の先端が超速で伸びて、振り上げられた右上腕の真ん中が切断された。
反動で狙いがブレたり、相手に押し負ける事は無い。
簡単な話。
ただ闇雲に地面に突き刺すだけじゃダメで。
杖を伸ばす方向の反対方向を固定すれば良いだけの事。
デメリットもあるが、それは多分今は考える必要はない。
「やった!」
「グガガガガッッ!」
ジョアンがひるんだのは一瞬だった。
右手の付いた魔剣の刀身を左手でつかむと横薙ぎにする。
「マリちゃん、防御!」
アンカーの固定のおかげで伸びた杖を戻すにも反動が無く素早い。
杖を波打たせ器用に魔剣の襲撃を受け流す。
競り合った部分から火花が散る。
「もう一度!
今度は左手っ」
「はいっ!」
「シュートッッ!」
半円上の金の刃物が今度は左上腕の半分を斬り裂いた。
「ガアアアアアッッッッ!!」
今度もジョアンがひるんだのは一瞬で、今度は残った腕で魔剣を挟んで捕まえる。
スプリンクラーのように血をまき散らしながら。
なんなんだ、この魔剣への執着!
例えばマリちゃんが金の杖を手放すと杖の操作は出来ない。
それがこの世界の魔法だ。
しかし魔剣の呪いはそうではないらしい。
手首ごと斬り落として魔剣を身体から話してもその呪いは続く。
「ウグルルルル…」
3分の1を失った両腕で魔剣を挟んだ状態でジョアンが突進。
マリちゃんは金の盾を生成して防ぐ。
ドシン、ドスッ!
盾は腕の斬り口を押し付けられて赤く染まっていく。
突進の勢いは凄まじくアンカーを打った壁の丸太にヒビが走る。
「……」
鮮血を浴びながらもアンカーの間の領域にいるマリちゃんは冷静だった。
そして盾の下方部分を刃物に変形させるとジョアンの両足を切断。
支えを失ったジョアンの胴体は床に転がる。
残った腕で受け身を取ろうとして手放された魔剣が部屋の隅へ滑っていった。
「マリちゃん!?」
「ウググググッッ」
両手両足を失ったジョアンはそれでも、這いずりながら魔剣を求める。
痛みを感じている様子はない。
痛覚を遮断する魔法のある魔剣だろうか。
しかし血をまき散らし魔剣を求めて蠢く姿は痛々しく哀れだった。
「マリちゃん……
彼は、その…もう助からないから殺そうよ…」
「私は直接人を殺しません」
え?へっ!?
「でも…でも。
彼はもう出血多量で助からないよ!
せめて今すぐに楽にさせてあげたほうが…」
無感情のオレンジとブライトグリーンの瞳がジョアンと僕を交互に見ている。
アンカーを壁から外し金の杖は元の形へ戻った。
少女の中ではもう戦闘は終わっていた。
「アグ、アグッ、アグゥ」
一方でジョアンは魔剣へとたどり着くと今度は歯で魔剣を取ろうと口を開ける。
「ミサキちゃん、
大丈夫ですか?」
「こっちは大丈夫。
早くその男をなんとかして!」
「こっちも大丈夫です」
血溜まりの中で必死に魔剣を口で咥えようとするジョアンを再び一瞥すると、少女は壊れた窓から外へ出て行った。
世界がぐにゃりと歪む。
手足を斬ったのはマリちゃんの判断だったワケで。
散々斬っておいて息の根を止めない?
なんて残酷な殺し方!
これなら瞬時に相手を斬り殺すミルミルの方が優しいとさえ思う。
いくら心が無いといってもこれはあんまりだ。
僕は初めてマリちゃんに憤慨していた。
「これは酷い事だ」って後で教えてあげないと。
…教えてあげる?
胃が踊って嘔吐感がこみ上げる。
口の中が酸っぱくなったがガマンできた。
では。
では幼い少女に攻撃方法を教えて、斬れ殺せと命令する僕は何様だ?
本当にジョアンの事を思うなら今、彼の喉笛を食いちぎればいい。
でも僕にそんな勇気は無い。
こんな僕にマリちゃんに命令する資格があるのだろうか。
僕はとんでもない事をしてるのではないだろうか。
世界が砕けて真っ暗で底なしの空洞の中に立っている錯覚を覚える。
冷や汗が止まらない。
「ダルマちゃん、
行きますよ」
目の前には夜の闇を背負って窓の外で僕を見下ろして待つ少女がいる。
その美しく感情の映らない顔が恐ろしいモノに感じた。
「あーっはっははは!
コイツは今までのどの剣よりも扱いやすいぜぇぇ!」
「当然至極。
魔力を使って汝が戦いやすいように調整する。
それが我の役割」
外ではマルタとミルミルの太刀打ち合いが続いていた。
意識が乗っ取られ唸り声をあげてよだれを垂らしながら戦うマルタに対して、ミルミルはヤン・クオンとお喋りしながらそれを振り回す。
「この長さで片手剣とは笑わせてくれるぜ、魔剣はよぉ!
ちぃとばかり軽すぎるがな」
「ふむ、調整しよう。
それより汝の剣技は大味でムダが多し。
それではいつまでも決着はつかぬ」
「うるせえーよっ!」
ミルミルが舞い落とす斬撃が火花を散らす。
数合打ち合って男が距離を取る。
「うぐおおぉぉぉ」
男が唸ると上半身の筋肉が倍に膨れ上がっていく。
「おい、魔剣のオッサン!
俺をあんな体にしたら川に投げ込んでやるからな!」
「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛っっっ!!」
マルタがすごい勢いで突進してくるのをかろうじてミルミルが受け流す。
が、転身して勢いを落とすことなく疑似日本刀魔剣を振るう。
ミルミル、劣勢。
「ダルマちゃん、
アンカーですか?」
「う、うん…」
僕はマリちゃんと少し距離を置いて立っていた。
今は少女の側にいたくないし命令もしたくない。
マリちゃんはトテトテと二人の側に小走りをして近寄り、アンカーを地面に刺して杖を伸ばす。
マルタの右手首を切り落とし日本刀のような魔剣は地に落ちた。
まるで職人が作業台を用意していつもの作業をするかのように。
その光景に眩暈を覚えた。
これは本当に正しい事なのか。
いや、無法地帯の多いこの世界で生きるためには必要な事ではある。
「俺の言うとおりにしてりゃいい」
そう主張するミルミルが正しいように思えてきた。
もう全部ミルミルに任せてしまった方が楽かもしれない。
「このぉっっ」
ミルミルが片腕になった男を蹴り飛ばす。
腕から鮮血をまき散らし男は吹き飛ぶ。
「やったぜ!
ナイスアシストだぜ、マリー!
これでマルタは元に戻るか!?」
「それが無理なんです」
「是。
一度魔剣に乗っ取られた心を元に戻す苦労を
汝が一番知っておろうに。
木の城で暴れていた男も手首を斬っただけで
助けられたとでも思ったか。
否、否」
ヤン・クオンの落ち着いた声が響く。
「じゃあどうすりゃいいんだよ!」
「ここ殺してくれっっ…
頼む殺してくれぇぇっっ」
マルタが声をあげた。
地にうずくまり斬られた手首を左手で抑えて震えている。
こっちの魔剣は痛覚の遮断は出来ないようだ。
「面白かった!」
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