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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
1章 義姉妹の誓い
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36話 村を救った見返りは

「俺も魔剣と一度、戦ったことがある!

 アイツは俺たちが斬っても斬っても

 何度も何度も人を斬るために立ち上がるんだ…


 俺はあんなバケモノになりたくないっ!!


 ジョアンだって同じ思いのハズだ!

 頼む…頼む…」


 痛みで自我を取り戻したマルタが泣きながら懇願する。

 血と涙で顔をグシャグシャにしながら。


「……」

「例え魔剣と引き離しても、

 再び魔剣を求めて彷徨うであろう。

 そのような者が行き着く先に平穏などあろうか」


 躊躇して固まったミルミルに魔剣ヤン・クオンが静かに重く語る。


「頼む…たの……ぐっ!

  ぐふぁあああああああああああああああああああああっっ」


 マルタの目が白目をむいた。

 素早く立ち上がり疑似日本刀の魔剣へと走り出す。


「くそぉぉぉぉぉぉぉっっ!!

 許せっっマルタ!

 天女降臨演舞・魔横閃舞(まおうせんぶ)!」


 ミルミルが華麗に2回転するとつむじ風が舞い、マルタの身体は3つに分離した。



 ジョアンの様子を見に行ったミルミルが、ミサキとモーリエを連れて戻ってきた。

 背中にヤン・クオンを、手に銅色の蛮刀の魔剣を持って。 


「ジョアンはコイツを口に咥えてコト切れてたぜ。

 ひでえ死に様だな。

 アレは本当にマリーがやったのか」

「そう!

 鮮やかにスパーッと。

 すごかったよね、モーリエ」

「う、うん。

 ちょっと怖かったかも…

 子供があんなに躊躇なく、その、人を…」

「おかげで私たちは助かったじゃない!

 ダルマはなんか不服そうだったけど」


 ミルミルがため息を漏らすのが聞こえた。


 東の空が白み始めた中、僕は元マルタだった肉片を眺めていた。


 ヤン・クオンがあまりに理性的すぎて忘れていた。

 魔剣が容赦のない凶器である事を。

 魔剣に関わった者の末路の姿がこのような肉片になるという事を。


 昨日の夕闇の中で見たマルタの笑顔を思い出す。


 ミルミルはこの先どうなってしまうのか。

 彼女に深く関わった僕達はどうなってしまうのか。

 ミルミルが脅威へと変貌した時にもマリちゃんは作業的に彼女の

手足を斬り落とすのだろうか。


 そんなのは見たくないっっ!!


 考えすぎて再び胃が踊る。

 今度はガマンできずに嘔吐した。


 マリちゃんが近づいて優しく背中をさすってくれる。

 今は少女の優しさがツラくて怖い。


「答えろぉぉぉっ

 魔剣ヤンッッ!!

 お前が契約を破らない保証があるかぁぁっっ

 げふっ…げふ」


 僕は胃液にむせながら魔剣に問いかける。

 魔剣から返答は無い。


 顔をあげるとミルミルが背中の魔剣を地に突き立てた。

 魔剣の顔と対峙できるように。

 構造上、鋼鉄の顔の向きは天地逆になる。


「魔剣のオッサンは答える気は無ぇようだ。

 ハハハッ!

 ダルマ、今更なにムキになってんだよ。

 コイツは契約通り傷を治してくれた。

 契約を守ってる間は大丈夫だって」


 顔を曇らせながらミルミルは口の端を上げる。


「マルタは子供たちに慕われるほど良い奴だった。

 弱い奴でもなかった。


 それでも魔剣に関わったら皆こうなるんだよ!


 お前だって例外じゃないっっ。

 ぼっ僕はお前の心配をしてるわけじゃないぞ。

 お前がこんな姿になった時にマリちゃんが可哀想だろぅよぉぉぉ!?」

「そん時はお前がお笑い芸でも披露してやればいい。

 笑う心を取り戻してやるんだろ、

 そう言ってたよな」


 ミルミルは笑い気味に答えるが目は笑っていない。


「ふざけるなっ!

 僕は真剣にこの先の話をっっ!!」

「お前こそふざけんな。

 マリーの教育者になる覚悟が半端なんだよ。

 お前はアレだろ、

 今更になってマリーの躊躇の無さにビビッて心を乱してんだろよ」


 痛いところを見抜かれて突かれた。

 だから余計に心が乱れる。


「それにな…

 俺はもう覚悟を決めてんだよ」

「お前が死ぬ覚悟なんてどうだっていいだよっ!

 また心を乗っ取られてマリちゃんを斬らない保証は無いだろがよっっ」

「マリーの魔力はすげぇ高い。

 だからシルトで俺は助けられた。

 今度は俺がマリーより強くなってやるって覚悟だ」 

「魔力を取られてる奴が何をっ!」


 ミルミルはグリグリと魔剣をさらに地面に食い込ませる。

 思いつめたような表情で。


「取られてるからこそ!

 今度は俺がコイツを支配してやるんだよ」

「カッコのいい言葉を並べてそれが何になるんだっ!」


「それは楽しみであるな」


 僕の問いかけには黙って、こういう時だけ口を開くヤン・クオン。

 そういう態度が僕をさらにイライラさせた。


「ミルミルちゃんが大丈夫って言うから大丈夫です」


 マリちゃんの優しい声が取り乱した僕の心を少しだけ冷静にしてくれた

 その言葉の内容には根拠も何もない空虚な言葉の羅列。


「だから…信用とか愛情とかでどうにかなる話じゃないんだってば…」


 視界がぼやける。

 大粒の涙が僕の頬を流れていく。


 僕を抱きあげたマリちゃんの白い腕を胃液と鼻水と涙で汚していた。


「大丈夫、大丈夫」


 マリちゃんが僕の頭を優しく撫でる。


「あー盛り上がってるところ悪いんだけど。

 村の人達が来たみたいだから騒ぎは収まったって報告したいんだけど。

 どう?」

 

 ミサキが割って入ってきた。


 この世界で生まれ育ったこの女にとってマルタとジョアンの死は。

 寝室に入ってきた不届き者が成敗された、ぐらいの意味しかないのだろうな。

 僕とマリちゃんが取り戻したい心はそんないい加減なモノでいいのだろうか。

 この世界で生きていくには。


 ミルミルがヤン・クオンを地面から引き抜くと、刃の部分にシャッターが下りる。

 議論をしている時間は無くなった。

 僕は心を乱したままだけど。


 村人30人ほどがゆっくりこちらへ近づいてきていた。

 

「あ、みなさーん

 ご安心ください、騒ぎは収まりましたよー」


 ミサキが村人達に話しかける。


 しかし反応がない。

 皆暗い顔をしてゾンビのようだ。

 実はみんな魔剣を手にしていた、とかって展開じゃないよな。


「おお、マルタがあのような姿に…」

「なんて惨い……」

「ジョアンは?

 彼はどうなったんだ…」


 悲愴な呟きや嗚咽が、明けきらない灰色の空の下に広がる。


「お主ら…」


 木の飾り杖をついた厳格そうな顔をした老人が数歩前に進み出る。


「お主らが魔剣を持ちこんだのであろう!

 魔剣でなければあの優しいジョアンやマルタが

 このような残忍な事をするハズがない!」

「えー、あのーですね…」


 ミサキが作り笑いで村長かと思われるその老人と交渉をしようするが、その剣幕に呑まれている。


 確かに僕達は一本魔剣を持ち込んだのは間違いではない。

 しかしマルタ達を狂わせた魔剣は僕達の知るところではない。


「昨日まで皆で平穏に暮らしていたのにお前らが来て全てが狂った!

 あのジョアンとマルタがっっ

 2人で村の半分の人間を斬り殺しおった!!

 村想いの2人が女子供問わず容赦なくっ!

 悪魔の所業じゃっっ!!

 こんな恐ろしい事が出来るのは魔剣以外考えられまいぞっっ」


 目の前にいるのが残った半分の村人だとしたら。

 かなりの数の犠牲者が出ている。


「あの女の剣、

 ジョアンの持ってたものじゃないか?」

「ああそうだ!

 あれで女房も子供も斬られた!」

「もう一本、

 禍々しい剣を持っている…」

「アイツだ!

 ヤツが魔剣を持ち込んだんだ!!」

「恐ろしい…」

「魔女だっ魔女だ!

 厄災を持ち込む魔女だっっ」

「おぞましい!!」

「で、出て行け!」


「うるせええええええええええええぇぇぇぇぇぇっっっ!!」


 気が付くと僕はマリちゃんの腕の中から飛び降り、雄叫びをあげていた。


「僕たちがおらへんかったら、この村は全滅してたんやで!

 お前らそれがわかってるんか!?

 助けてやったのに礼の一つも言えへんのかっっ!

 お前らボケかぁぁぁぁっっ!!」


 今回の騒動の当事者は全員人を斬りたくて斬ったわけじゃない。

 魔剣以外は。

 それもわからず村人は罪を僕たちになすりつけようとしている。


 そんなのわかるワケもなくて。


 彼らにとって怒りの捌け口のスケープゴートが必要で。

 そう、今回の一番の被害者は村人だ。


 それはわかってる、でも。

 ああああああ、もう心の中がグッチャグチャで叫ばずにはいられなかった!


「なんだ、あの面妖な生き物は?」

「あのぬいぐるみ、

 人語を話しているぞ!」

「魔剣に妖怪まで連れて…

 なんておぞましい連中だ!」

「しかも女ばかり…

 魔女の一団じゃないか!?」


「だーかーらっ!

 お前らうるせええぇぇっっ!!

 文句のあるヤツぁ、出てこいやああぁぁぁっっ」


 怒りに我を忘れていつの間にか言葉を忘れてガオーガオーと吠えていた。


 その後ろで。


「ミサト、お前は宿に行って荷物をまとめろ。」


 ミルミルが魔剣ヤン・クオンを背中に背負いながら指示を出す。


「馬車は…

 モーリエ頼めるか」

「はいっ」

「じゃあ頼む!」


 モーリエが馬小屋の方へ走って行く。


「出て行け!」

「悪魔め!」

「出て行け!!」

「村から出て行け!」

「出て行け!出て行け!出て行け!出て行け!」


 ミルミルは腕を広げて持っていた二刀を構えると。


「ぐああああああああああああああああっっっ」


 大げさに吠えてみせた。


「ひぃぃぃっっ!!

 魔剣の呪いだぁぁぁっっ」


 長老以下村人の多くがそれを見て逃げ出す。

 勇気ある者たちが石を拾い投げ始めた。

 その全てをミルミルが斬り落とす。


 吠えていた僕を担ぎ上げたマリちゃんはミルミルの背後にまわった。

 背中合わせで金の杖を構える。


「大丈夫だ、マリー。

 村の連中は後ろに回り込んで挟撃なんてしないぜ。

 俺たちに早く出て行って欲しいだけだ」

「そうなんですか」


 本当にミルミルはマリちゃんに戦い方だけは徹底的に教えているんだな。


 馬車が近づくと。


「走れ!」


 ミルミルの合図で走る。

 途中、ミルミルはマルタの持っていた疑似日本刀を拾う。

 マリちゃんは御者席の隣に飛び乗って金の盾を展開。

 モーリエを守る。


 途中に小走りで村から逃げ出していたミサキを拾うと急いで村を後にした。



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