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転生犬語 ~杖と剣の物語~  作者: 館主ひろぷぅ
1章 義姉妹の誓い
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34話 ボーイ・ミーツ・ガール?

 幌を付けた荷馬車をゆっくりと北へ走らせる。

 北ソリドニアのゼイタ城国近郊にあるモーリエの住んでいたコミューンへ向かっている。 

 コミューン。

 「街」「村」と同じ。

 ただ魔法の発達したこの世界では「10人集まればコミューンが出来る」という言葉があるほど少人数で定住したり移動するケースも多い。

 大きかったり歴史がある地は「街」「村」と呼ばれるが、小さい集落はほぼ「コミューン」や「里」で括られている。


 シラバを出て山道を駆けて。


 太陽が山の稜線に腰架けたあたりで広い丘に出て村の入り口に行き当たる。

 丸太のゲートには「シーワン村」と書かれていた。


 シラバのように木尽くしではないが丸太小屋ばかりの村。

 低いが木の壁が村を囲っている。


 村へ入ってすぐの広い場所で馬車を止める。

 乗り心地の悪い荷馬車からみんな早く外に出たがっていた。


 黒の革の繋ぎを着たミルミルが荷馬車から飛び降りる。

 脛当て付きのブーツの騒がしい音をたてて。

 胸の部分を全開にしているので黒の見せブラのリボンが揺れる。


 続いてマリちゃんがミルミルの手を借りて下りる。

 血の付いたワンピースから着替えて白のパジャマの上からミサキのブラウスを羽織っている。

 

 次に同じくシラバの一般的な形のオレンジのロングスカートのワンピースを着たモーリエがミルミルの手を借りて下りる。


「ちょっと!

 アタシにも手を貸しなさいよっ!!」


 御者台から深緑のレース入りのシックなドレスを着たミサキが叫ぶ。


「一番働いてるのは私だからね!

 だいたい…」


「お嬢さん、お手伝い致しましょうか」


 男の声に話を遮られ大きな手を差し出されたミサキは狼狽する。


 年齢は30歳前後かな?

 上半身はアーマープレート、下は革のズボンをはいた長身セミロング金髪のなかなかのイケメンが手を差し出していた。


「ど、どうも…」


 ミサキが珍しくしおらしく手を借りて馬車を降りる。


「お嬢さん、南のどこから来たの?

 あ、シラバからの旅行者でしょ。

 今夜は宿に泊まるんでしょ。

 この村には一軒しかないけどいい宿だから。

 案内させてよ!」


 男はミサキの手を離さず軽い口調で彼女に迫る。


「おいジョアン、

 お嬢さん方を困らせるなよ」


 別の方向から陽気な男の声。

 一緒に子供の笑い声も付いて来る。


 ミルミルよりひと回り大きな筋肉質で短髪アゴヒゲの男が近づく。

 両肩とモスグリーンのタンクトップと革のズボンに小さな子供をぶらさげて。


 年齢は30半ばぐらい。

 体格に似あわず陽気な笑顔がカッコイイというよりカワイイ雰囲気のオッサン。

 保父さんかな、と思ったが両者とも剣を引っ提げている。


「ようこそシーワン村へ!

 美人の旅行者は大歓迎だ!

 俺達はこの村の傭兵でそっちがジョアン、俺はマルタだ」

「こんばんわ。

 一晩お世話になりたいのですけど、宿はどちらでしょうか」


 ミサキはジョアンから離れマルタへ挨拶する。

 軟派な男は好みではないらしい。


「ジョアン、黙ってお客人達を宿に案内してくれ。

 嫌われたくなきゃな。

 俺はオテンバ達を家に送らなきゃならねえからな」

「悪いな、男が苦手なのがいるんだ。

 場所だけ教えてくれればいい」


 ミルミルは自分の後ろに隠れて震えるモーリエを気遣って言う。


「ははっそいつは残念だな!

 そこを左に曲がって真っ直ぐいけば宿だ。

 ジョアン、馬車を共同馬小屋へしまっておいてくれ」

「へいへい。

 これで今年で37回目の空振りだぜ。

 あ、女ばっかりってことはみんな男が苦手とか…」

「ジョーアーンー。

 いらん詮索は失礼だぞー」

「マルタ、マルタ、

 もっと、もっとあそぼ、あそぼ」

「あそぼ、あそーぼーよー」

「子供はおうちに帰る時間だ。

 夜になると山から鬼が子供の目を食べに来るぞぉ」

「オニがきても、マルタがやっつけてくれるんでしょ!」

「マルタ、すごくつよいもん!」


 騒ぐ子供の声が大きな体と共に遠のいていく。

 同じ傭兵でもミルミル達と違って村を守る仕事は呑気そうに見える。


 実際呑気そうで問題など起こりそうにない村だ。

 茶色く角のある、それでいて眠たげな牛のような生き物を連れたオジサンが挨拶をしてくる。

 井戸端会議をしているオバサン達が気軽に声をかけてくる。


 ミサキが村の人達と挨拶をしている合間に。


「オニ、ってなんですか」


 マリちゃんが胸に抱いた僕に聞く。


「ツノの生えた大きなミルミルみたいな生き物」

「それは怖いですね」

「マジで怖いわね」

「怖いですねー」

「お前ら目ン玉食べんぞ、おら」


 ワシワシとマリちゃんの頭を撫でて宿へとミルミルが歩き出した。



 悲鳴で目が覚めた気がした。

 いや、気のせいじゃない。

 村のどこかで喧噪が起きている。

 酔っ払いのケンカとかそんなカワイイ騒ぎではない。


 なんか既視感というか。

 城のバザールの事を思い出す。


 素早く起きたマリちゃんとミルミルは丸太の宿のカーテンを開けて窓を開けた。


 この世界に透明のガラスは無い。

 褐色や黒色のガラス鉱というものを魔法で加工するらしい。


 らしい、と言うのは召喚術士マスターから聞いた話だから。


 地球でガラスはメソポタミアの時代からあったものだから魔法でなくても簡単に出来るのではないかと思う。

 ただこの世界の場合、地球の色々な技法をすっ飛ばしていきなり板ガラスを造ったらしいから文明レベルの優劣は付けがたい。


 開かれた窓枠に飛び上がった。

 大彗星「女神の涙」が西の空に沈むところ。

 夜明けが近い時間だ。


「騒ぎは東の方からだな。

 ちょっと行って見てくるか

 傭兵のオッサンがいるから問題は無いと思うが」


 マリちゃんがミルミルを見上げる。


「お前はここに残ってコイツらを守ってろ」


 ミルミルは革の繋ぎを着て短剣を帯び、魔剣を担ぎ部屋を出ていく。

 ミサキは喧噪にひどく怯えているモーリエの肩を抱いて落ち着かせていた。

 僕は開け放された窓に腰掛ける。


「大事じゃなきゃいいね、

 マリちゃん」


 窓の外を見ながら話しかける。

 すぐ後ろに立っているマリちゃんは黙ったままだ。

 もしかして立ったまま寝ているのかと見上げる。


「……」


 じっと外の一点を見たまま立っている。

 何か様子が変だ。

 マリちゃんの場合、通常がちょっと変ではあるけれど。


「どうしたの?」

「誰かいます」


 そう言うと金の杖を持って窓から飛び出していった。


「マリちゃーんっ!」


 僕も慌てて窓から飛び出す。

 背後からミサキが何か声をかけてきたが。

 すまん。

 この選択肢で「ミサキ」を選ぶ事は多分無い。

 それは2週目以降の全エンディング回収の時ぐらいだ。


 この村の建物は全て平屋。

 おかしな飛び方さえしなければ怪我なんてしない高さに地面はある。

 

 着地をして闇の中を見回す。

 雑草の中の細い支道を走って行く白のパジャマが見えた。

 僕はそれを追う。


 本気で走るマリちゃんは速い。

 僕の小さな体ではなかなか追いつけない。

 村から離れる方向なので村の騒ぎが少しずつ遠ざかる。

 麦のような穀物が広がる辺りで角を曲がった。


 僕がその角へ走りつくと。

 マリちゃんの背中があった。


 「マリちゃ…」


 その向こうにもう一つ人影。

 「女神の涙」を背景に棒立ちしていた。


 黒いワイシャツに黒いズボン。

 長い白髪と華奢な体の少年。

 身長はマリちゃんより少し高い150センチメートルぐらい。


 「テメーは!」


 昼間のストーカー少年である。

 こんな所まで追っかけて来たのか!?

 

 その少年の中にマリちゃんと同じモノを見た。


 アクアマリンの生気の無い目。

 光の無い瞳同士が見つめ合っていた。

 これはボーイ・ミーツ・ガール?

 よく観察すれば女性顔の美少年。

 ストーカー男のクセに。


 マリちゃんは金の杖を構える。

 これは甘い出会いではないらしい。


「あなたは誰ですか?」

「……」


 マリちゃんの問いに少年は答えない。


「おい、そこのストーカー変態野郎!

 お前のしている事は犯罪なんやで!!」


 そういえばこの世界に「ストーカー規制法」はあるのか。

 多分、無い。

 いや法で定められていなくても、つきまといはほぼ事案やと思う。


「ストーカー、って何ですか?」

「マリちゃんみたいな美少女に付きまとう変態さんや」

「変態…?」


 珍しく無表情な顔に困惑の色を浮かべて少年を見るマリちゃん。


「キャアアアッ!!」


 モーリエのものと思われる悲鳴。

 僕もマリちゃんも宿の方に視線を向けた。


 その一瞬の間。


 白い少年の姿は消えていた。 


 僕は今の少年が誰なのか聞きたくてマリちゃんの顔を見上げた。

 マリちゃんはまるで答えを求めるように僕を見つめる。


 結局お互い分かったことなど何一つ無かった。


 それよりも。


「宿に戻ろう!

 モーリエとミサキに何かあったんかも」



「面白かった!」



「続きが気になる、読みたい!」



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