第15話 温かな村の祭り
翌日……。
ノウカの家にて。
「うぅ……お母さん、これで合ってる?」とノウカは編みかけの布を持ちながら尋ねた。
「そうよノウカ、そのあと鎖編み(くさりあみ)を作るの」とお母さんが答えた。
「全然わからないや」とノウカは呟いた。
家の外から、まるで誘い出すような大きな叫び声が聞こえてきた。
「ノウカ! 早く外に出てこいよ、遊びに行くぞ!」とフィンが叫んだ。
「あっ、友達が呼びに来たみたいだから、お母さん、私ちょっと外に行ってくるね。裁縫の続きはまた明日にするよ」とノウカが言った。
「わかったわ、気をつけて行くのよ、ノウカ」とお母さんが見送った。
「はーい、夕方には戻るからね」とノウカは答えた。
ノウカは玄関のドアへと駆け寄った。
「お母さん、教えてくれてありがとう」とノウカは言い残した。
扉を開けて外に出ると、ノウカは友人たちの元へ歩み寄った。
「ねえノウカ、中で何やってたの?」とフィオナが尋ねた。
「別に何でもないよ、へへっ〜……それにしても、みんなはどうして私を呼んでるの?」とノウカが聞き返した。
「別にアンタを呼んでるわけじゃないぞ」とフィンが言った。
「フィンの言う通りよ。アンタを呼んだりしたら、自分たちまで不吉な厄病神を引き寄せそうだし」とイーファが付け加えた。
「ハハハ! イーファの言う通りだわ」とフィオナが笑った。
「僕たちが呼んだのは、収穫祭に誘うためだよ。もう6月の半ばだしね」とフィンが説明した。
「そういえば、イーファはこの村の収穫祭に参加するのは初めてだよね」とノウカが言った。
「心配いらないわ、フィオナも初めてよ。もしかしたら最初で最後かもしれないけど」とフィンが返した。
「そうそう、私たちがよく野菜の育つ森の奥の場所も教えてあげるからね」とノウカが言った。
「それじゃあ、村の中央広場へ行こう。そこに調理場が用意されるはずだから」とフィンが促した。
四人は村の中心へと歩き出した。
道中、ノウカは道端のスギナ(Horsetail)を引き抜くと、まるで農家のおじさんのように口にくわえて噛み締めた。
「ねえノウカ、なんだかヒツジみたいになってるわよ」とフィオナが突っ込んだ。
「一本じゃ足りないな、僕を見ろよ」とフィンは言って、スギナを何本も一気に引き抜いた。
フィンは5本ものスギナを口にくわえた。
「それだけか? さっきのは本気じゃなかったからね」とノウカが対抗意識を燃やした。
ノウカは15本ものスギナをごっそり引き抜き、口にめいいっぱい頬張った。
「ハハハハ! ノウカのほっぺがハムスターみたいになってる! ノウカってよっぽどその草が好きなんだね」とフィオナが腹を抱えて大爆笑した。
「まったく……恥ずかしいからやめなさいよ、ノウカ」とイーファが呆れた。
ノウカは口の中に詰まっていたスギナをすべてペッと吐き出した。
「ぺっ、噛んでたらだんだん苦くなってきた……ぺっぺっ」とノウカは口についた草を必死に拭い去った。
遠くから、村長がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「おいお前たち! 祭りに行くんだろう? 早く来い!」と村長が遠くから怒鳴った。
「ちょうど村長が村民を呼び集めるところだな。急いで広場に行こう」とフィンが言った。
彼らは一目散に走り出し、我先にと先頭を目指した。
しばらくして……。
ようやく調理場となる広場に到着した。
息を切らしながら、彼らはひとまず近くの木製ベンチに腰を下ろした。
「はぁ……はぁ……もう疲れ果てたよ……」とフィンがぐったりした。
「はぁ……あんなことなら途中でフィオナを置いてくればよかったわね。子供の割に足が速すぎるんだから」とノウカが零した。
するとフィオナがドンッと勢いよくテーブルを叩き、ノウカは驚いて飛び上がった。
「ちょっと! 私を置いていくなんていい度胸じゃない……!」
「まあまあ二人とも……一体いつから祭りが始まるのかしら?」とイーファが話をそらした。
「村長が壇上に上がって宣言しないと始まらないみたいだけど、まだおばさんたちも調理道具や材料の準備が終わってないみたいだな」とフィンが周りを見回した。
「やばい、それなら今すぐここから立ち去った方がいいぞ」とノウカが提案した。
「どうしてよ?」とフィオナが首をかしげた。
ノウカはその理由を青ざめながら説明した。
「下手をしたら、調理器具の運搬を手伝わされるハメに……」
その予感が的中するかのように、遠くから声がかかった。
「そこのあなたたち! ちょっと手を貸してちょうだい!」と村の女性が声を張り上げた。
「もう手遅れだ……悪魔の使いが僕たちを呼んでいる」とノウカが遠い目をした。
「はぁ? 何を言ってるのよ」とフィオナが怪訝な顔をした。
彼らは観念して、呼んでいる女性たちのもとへトボトボと歩いていった。
「おばさん、何かご用ですか?」とフィンが尋ねた。
「村の集会所から大鍋を取ってきてほしいのよ。それと一緒に、おたまやヘラみたいな調理道具もね」と女性の一人が頼んだ。
「集会所からって……めちゃくちゃ遠いじゃん」とノウカが頭を抱えた。
しばらくして。
彼らは集会所に到着した。
何人かの村人が集会所の前で話し合っており、別の者たちはテーブルを運んでいる最中だった。
「で、大鍋はどこにあるんだ?」とフィンが辺りを見回した。
ノウカが集会所の窓から中をそっと覗き込んだ。
「たぶん中にあるはずだわ。まずは誰かに聞いてみようよ」
彼らは集会所の入口でテーブルを持ち上げようとしている男の人に近づいた。
「あの、おじさん! 広場のおばさんたちに頼まれて、大鍋を取りに来たんですけど」とノウカが声をかけた。
「大鍋か。全部奥の部屋にあるから、勝手に持って行っていいぞ、ボクちゃんたち」とその男の人は気さくに言った。
「やったな、すぐに許可が下りたぞ」とフィンが喜んだ。
「突撃だ! 障害物なし!」とノウカは勢いよく集会所の中へ駆け込んだ。
「ちょっとノウカ! 一人で入るなよ!」とフィンも慌てて後を追った。
フィオナとイーファも二人の後に続いた。
「それで……誰がこの大きな鍋を運ぶのよ」とイーファが冷ややかに尋ねた。
ノウカが名案と言わばかりに提案した。
「みんなで一緒に抱えて運ぼうよ」
「それもいいけどさ、歩く時に場所を取りすぎて、他の人の邪魔になりそうね」とフィオナが指摘した。
やがて、大鍋をはじめとする調理道具が山積みにされている場所にたどり着いた。
「うわぁ……めちゃくちゃでかいなこの鍋」とフィンは感嘆の声を漏らし、そのまま大鍋に抱きついた。
「ちょっと、そんなに鍋に抱きついたりしたら、服が真っ黒になっちゃうでしょ」とフィオナが注意した。
フィンは慌てて鍋から手を離した。
「ははっ、そんなわけ——」
……。
「ハハハハ! お兄ちゃんの服、ススだらけになってる! 爆笑!」とノウカが指をさして笑い転げた。
「しまう前にちゃんと洗っておくべきだったんだろうけど、どうせ中身しか洗わないし仕方ないわね」とイーファが冷静に分析した。
ノウカがまだゲラゲラと笑っていると、その声を聞きつけた別の男の人が彼らに近づいてきた。
「おいお前たち、こんなところで何やってるんだ」と声をかけた。
「ははっ……すみませんおじさん、実は——」とノウカが説明しようとしたが、イーファがすかさずノウカの口をふさいだ。
「私から説明します」
イーファは落ち着いたトーンでその男の人に事情を話した。
「おじさん、私たちは広場の方々から大鍋を持ってくるように言われたのですが、どうやって運ぶべきか迷っていまして」
男の人は「なるほどね」とうなずいた。
「それなら、いい方法を教えてやろう」
男の人はその大鍋をひょいと持ち上げると、逆さにしてフィンの頭すっぽりとかぶせた。
「ほら、これなら一人で被って歩くだけで運べるだろ」と男の人は笑った。
「ワハハハ! フィンが鍋の怪物になっちゃったぞ!」とノウカが大はしゃぎした。
フィオナはおもしろがってその鍋の上に登ろうとしたが、イーファに服の裾を引っ張られて止められた。
「おい、前が全然見えないんだけど!」と鍋の中からフィンが悲鳴を上げた。
「安心して、私たちが正しい道へ……というか、迷子にさせてあげるからさ」とノウカが冗談を言った。
みんなは後ろから鍋を押し、フィンの進路を誘導していった。
「おじさん、ありがとうございました! 祭りであいましょう!」とフィオナが手を振った。
帰り道にて……。
「おいフィン、そのまま左だ、穴があるぞ」とイーファはフィンの体をすっぽり覆う鍋を支えながら声をかけた。
みんなで鍋を支え、フィンが安全に歩けるようにコントロールしていた。
ちょうどその時、一人の村人が彼らの横を通り過ぎようとした。
ノウカの中で悪だくみの電気が走った。
「ねえフィン、右に曲がれ!」とノウカは叫びながら、鍋の側面を思い切り右へ押した。
巨大な鍋を被ったままのフィンはバランスを崩し、通りかかった村人にドンッと激突してしまった。
ノウカは腹を抱えて笑いながら、友達たちから逃げるように走り出した。
「ハハハハ!」
「ちょっとノウカ! 何すんだよ! 人様に迷惑かけて!」とフィオナが後ろから怒鳴りつけた。
一方のフィンはというと、足をもつれさせて鍋ごと盛大に地面を転がっていた。
「いてて……誰か助けてくれー!」とフィンが泣き叫んだ。
激しい逃走劇とフィンの救出劇を終え……。
彼らはようやく、鍋を被ったままのフィンを引き連れて広場へと戻ってきた。
ノウカとフィオナは疲労困憊でその場にへたり込んだが、イーファはテキパキとフィンの頭から鍋を外してあげた。
「ふぅ……やっと終わった……」とノウカが息を吐いた。
フィオナは起き上がると、ノウカの腕を強めにつねった。
「もう、アンタが変なことするから恥ずかしかったじゃない」
「いてて、痛いってば……ごめんごめん、許してよ」とノウカが謝った。
イーファは外した大鍋を持ち上げながら言った。
「はい、喧嘩しないの。それより、この鍋をさっきのおばさんに渡しに行きましょう」
「あぁ……やっと生きてる太陽の光が拝める……俺、空を飛べる気がするよ」とフィンが感動に浸った。
「それじゃあ行くか」とノウカが立ち上がった。
ノウカはフィオナに手を差し伸べて立たせてやった。
二人は協力しながら、再び大鍋を両手で持ち上げた。
最初の調理場エリアにたどり着くと、
「おばさん! お鍋持ってきました!」とノウカが大声で知らせた。
「あら、ご苦労様ね、子どもたち」と女性が優しく微笑んだ。
「あのさおばさん、この場所では何を作るんですか?」とフィンが興味津々で尋ねた。
「ここはね、レギュラー鍋のエリアだよ。みんなが森で集めてきた食材をここで一斉に煮込むのさ。ほら、もう基本の食材が集まり始めてるだろ?」と女性が指差した。
「ねえノウカ、変な虫とか毒キノコをこの鍋にこっそり混ぜたりしたら許さないからね」とフィオナがジト目で釘を刺した。
その時、遠くの壇上に村長の姿が現れた。
「おい、村長が祭りを始めるみたいだぞ、早くあっちに行こう!」とフィンが声を弾ませた。




