第10話 ノウカはどこへ行った?
「頼むから……先に僕をここから助け出してくれ……話はそれからにしてくれ……」とフィンが懇願した。
「あ、ごめんごめん! フィオナ、マルとキチをどかすのを手伝って」とフィオナが言った。
ふたりはマルとキチを機嫌を損ねないよう、ゆっくりと退かした。
「うぅ……助かったよ……」とフィンが呟いた。
下敷きにされてすっかり呆然とした顔のフィンは、そのまま大木の根元に腰を下ろした。フィオナは感染症を起こしていないか確認しながら、すっかり良くなってきたキチの傷口を観察していた。一方、イーファは二匹のオオカミの前に再び立った。
「それで、この噛みついているものは何なの? 狩りの肉かしら?」とイーファが尋ねた。
「イーファお姉ちゃん、たぶんノウカが二匹をここに預けていく時に、持たせたお肉なんじゃないかしら」とフィオナが言った。
「そうだったのね。でも、もしそうだとしたら、このお肉の量で足りるかしら?」とイーファが言った。
「っていうか、あのアホなノウカは一体どこへ行ったのよーっ!」とフィオナが叫んだ。
*回想終了*
「まったく……マル、キチ、早くお食べ」とフィンはミミズを差し出しながら言った。
イーファは二匹に近づき、ノウカが預けていったお肉をマルとキチの前に置いた。
「近くの川を探した方がよさそうね。マルとキチの食べ物が不足しないように準備しておかないと」とイーファが言った。
マルとキチは小さく遠吠えを上げると、キチは鼻先で示すように森の方へと歩き出し、マルはイーファの服の袖を甘噛みした。
フィンは手をポンと叩いて言った。「そういえば、二匹と出会った時、この近くで釣りをしたってノウカが言ってたな」
「それなら急ぎましょう。ちょうど火打ち石も持ってきているわ」とイーファが言った。
彼らはマルとキチの後に続いて森へと足を踏み入れた。
幸いにもマルとキチは一定の pace で歩いてくれたため、走って疲弊するようなことはなかった。
やぶを飛び越えると、そこはノウカが初めてマルとキチに出会ったあの川だった。
「ここが例の場所ね」とイーファが言った。
「見てくれ、あそこの小さな木の裏に木製の釣竿もあるぞ」とフィンが川辺の木を指差した。
「本当ね、それなら役割分担をしましょう」とイーファが言った。
彼らは話し合い、方針を決めた。
「よし、フィンが釣り担当、私は落ち葉と小枝を集めるわ。フィオナは魚の下処理をしてちょうだい」とイーファが指示した。
「了解、作業開始ね!」とフィオナは元気に川辺へ走っていった。
しばらくして。
フィンとフィオナは川辺に並んで座り、仕掛けに魚が食いつくのを待っていた。
「うーん……ちゃんとエサはつけてるのに、なんで食いつかないんだろ?」とフィンが首をかしげた。
「エサに塩でも振ってみたらどう?」とフィオナが言った。
(んなわけあるか)とフィンは心の中で突っ込んだ。
一方のイーファは、乾燥した落ち葉を集めて一箇所にまとめていた。
「ちょっとマル、どきなさい。落ち葉の上で寝ないの」と、落ち葉の上で丸くなるマルを追い払おうとイーファが言った。
「キチまでマルの真似をしないで……もう……」とイーファが頭を抱えた。
オオカミたちの世話に手を焼くイーファをよそに、フィンの場所では……。
「うぅ……まだかみつかないの……?」とフィオナが痺れを切らした。
「うわぁぁぁっ!」とフィンが叫びながら、勢い余って釣竿を川へ放り投げてしまった。
「釣竿がぁ!」とフィオナが叫んだ。
*カット*
「まったく、ドジなお兄ちゃんね。無事に拾い上げられて良かったわ」とフィオナはびしょ濡れのフィンを見ながら言った。
(『良かった』って、拾ったの僕だけだろ……)「あ、ああ……無回収できて良かったよ」とフィンが言った。
「二人とも、まだ一匹も捕れていないの?」とイーファが声をかけた。
「え、まだなんだ! すぐに捕まえてみせるよ」とフィンが答えた。
「ちょっとお兄ちゃん、早く魚を釣り上げてよ。さっきから一匹も釣れてないじゃない」とフィオナが突っ込んだ。
「分かってるって。お前は少し下がってろ、竿を引く準備をするから」とフィンが言った。
20分経過。
「ノウカが残していった最後のお肉もなくなったわ。フィンが魚を釣れたかどうか確認しに行きましょう」とイーファが言った。
イーファは川辺に座り込んでいるフィンとフィオナの元へ歩み寄った。
「フィン、魚は釣れた?」とイーファが尋ねた。
「うぅ……まだなんだイーファ。一体いつになったら釣れるんだか……」とフィンが弱音を吐いた。
「きゃぁぁぁっ! いつになったら魚が釣れるのよー!」とフィオナが叫んだ。
「落ち着いてフィオナ、フィンが釣るまでもう少しの辛抱よ」とイーファが宥めた。
「糸が短すぎるんじゃないかしら……」とフィオナが呟いた。
「そうね、フィオナの言うことも一理あるわ」とイーファがうなずいた。
「うーん……」とフィンが落ち込んだ。
その時、釣竿の糸がピクピクと震えた。
「あ、見て! 食いついたぞ!」とフィンが声を上げた。
「引いてフィン! 逃がしちゃダメよ!」とイーファが叫んだ。
「ぐぐっ……重い! 手応えがすごすぎるぞ、なんだこの魚!? こんな重い魚、釣ったことないぞ!」とフィンが必死に糸を引いた。
「手伝うわ!」とイーファが駆け寄ろうとした瞬間、
イーファの手を借りる間もなく、フィンは魚ごと勢いよく引き上げた。
勢い余ったフィンは、後ろにいたイーファに激突した。
「きゃっ……痛たた……イーファ、ごめん!」とフィンが焦った。
「うぅ……大丈夫よ、ただ押し倒されただけだから」とイーファが答えた。
「イーファお姉ちゃん、大丈夫?」とフィオナが手を差し伸べた。
「言ったでしょ、ただ押されただけだからそんなに心配しないで」とイーファが言った。
「ん? 何この魚……キャーッ!? サケじゃないの!」とフィオナが驚嘆した。
「うわぁぁ、すごく大きなサケだな!」とフィンも目を丸くした。
イーファはサケが川へ跳ね返らないよう尾びれを押さえ、フィンが頭を押さえた。
「ふむ……お腹の中に筋子が入っているみたいね。自分たちだけで下処理するのは難しいから、家に持ち帰ったらどうかしら?」とイーファが提案した。
「それなら、骨と内臓の部分をマルとキチにあげて、筋子は家に持ち帰って、身の部分はここで焼いて食べましょうよ!」とフィオナが提案した。
「良いアイデアね。マルとキチをしっかり満腹にさせるために、尻尾に近い身の部分もあげることにしましょう」とイーファが賛同した.
イーファは火打ち石で火を起こすためマルとキチの元へ戻り、フィオナとフィンはサケの下処理と筋子の分離にとりかかった。
「二人とも! 火の準備ができたわよ、早く来なさい」とイーファが呼んだ。
「はーい!」とフィンとフィオナが同時に返事をした。
二人が小走りでイーファの元へ向かうと、濡れた手に冷たくなり始めた夕風が吹き抜けた。
「うぅ……寒い。もう夕方になってきたみたいね」とフィオナが身を縮めた。
「そろそろ日が暮れるな、早くこのサケを焼いてしまおう」とフィンが言った.
フィンとフィオナはサケの身と石ナイフをイーファに手渡した。
石ナイフの切れ味が鈍いため、イーファはゆっくりとサケの身を切り分けた。
「イーファ、何か手伝おうか?」とフィンが尋ねた。
イーファは石ナイフをフィンに手渡した。
「串にするための木枝を探してきて。私はお肉にハーブをまぶしておくわ」とイーファが言った.
イーファはパセリ、ニンニク、そしてバジルを取り出した。
「そのハーブ、どうやって使うの?」とフィオナが尋ねた。
「お肉と一緒に焼き上げるのよ」とイーファが答えた。
その後。
フィンが自作の木串を持ってきた。
イーファは切り分けたサケの身を木串に刺していった。
「バジル、サケ、ニンニク、サケ、バジル、パセリ、ニンニク、サケの順番で刺していくわね」とイーファが説明した。
「それじゃあ、交代でこの魚串を育てることにしよう」とフィンが言った。
イーファとフィンが串焼きの番をしている間、フィオナは骨や食べられない部分をマルとキチに与えていた。
「マル、キチ、アクロバットな芸とかできないの?」とフィオナが尋ねた。
マルとキチはフゥと息を吐くだけで、再び横たわった。
しかし、二匹がぴったりと寄り添って横たわる姿は、毛並みのコントラストが実に美しかった。
「わぁぁ、二人とも毛並みがすごく綺麗ね」とフィオナは感嘆しながら、再びエサを与えた。
夕風が吹き始め、太陽の光が鮮やかなオレンジ色へと変わり始めた。
「うぅ……本格的に冷え込んできたな」とフィンが身を震わせた。
「大丈夫よ、このお魚を食べたらすぐに帰りましょう」とイーファが言った。
串焼きが焼き上がると、彼らはそれぞれ一本ずつ手に取った。
「うわぁ……うますぎる……!」とフィンが声を上げた。
「最初の目的はマルとキチの食べ物探しだったのに、私たちまでお腹を空かせて食べちゃうなんてね」とイーファが笑った。
「いいじゃないいいじゃない〜! みんなでお腹いっぱいになれたんだし、マルとキチも満足そうなんだから、結果オーライでしょ?」とフィオナが言った。
マルとキチは、イーファからもらった肉や骨を美味そうに食べながら、小さく遠吠えを上げた。
空は茜色に染まり、周囲の空気も冷たくなってきたが、焚き火の温もりのおかげで彼らの心と体は温かかった。
「あたたっ!」とフィオナが悲鳴を上げた。自分の舌を噛んでしまったのだ。
「へっ、うっかり者め」とフィンが笑った。
*一方、別の場所では*
「うぅ……おばさん……あとどれくらいで着くのぉ……?」とノウカが不平を漏らしていた。
「我慢しなさいノウカ、もうすぐ着くからね」とモリガンお母さんがノウカの手を引っ張りながら進んでいた。
「見て! あれが学校よ、やっと着いたわ」とフィンの母親が言った。
ノウカ、モリガンお母さん、そしてフィンの母親の三人は、聳え立つ大きな学校の前に立っていた。




