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第五部第五話:愚者たちの饗宴と、夜の契約

第五部第五話:愚者たちの饗宴と、夜の契約


ブラム王国南部に位置する、深い森に囲まれた小さな農村。

日没とともに静まり返る村の入り口へ到着した聖騎士団は、松明を手にした村人たちから思いのほか温かい歓迎を受けた。

騎士団長である聖騎士ジェイク、彼を補佐する女性聖戦士マリオン、そして未だ顔に疲労の色を滲ませる聖女ソフィアの一行は、村で最も立派な作りである村長の館へと招き入れられた。

古びた木造の大広間。

使い古された長テーブルを挟み、村長は削げ落ちた頬と落ち窪んだ目で客人を迎え入れた。その表情は重苦しく、神妙そのものであった。

「……騎士様方、よくぞお越しくださいました。ですが……この村はもう限界なのです」

村長は震える声を漏らし、これまでに人狼の犠牲となった若者たちの名や、荒らされた農地の被害を痛切に訴えた。

そして、暗闇の奥から響く人狼たちの恐ろしい脅迫について語り始めた。

『聖天神殿の者がやって来ても協力するな。もし我らに逆らえば、村の者を子供の一人に至るまで皆殺しにする』――と。

「……そして、奴らはこうも言ったのです。惨劇を回避したくば、ただ一つ……こうするしかないのだと」

村長がかすれた声で合図を出した、その瞬間――。

――バタンッ!!

大広間の扉が荒々しく叩き開かれ、手に手に鍬(くわ)や鋤(すき)、研ぎ澄まされた薪割り用の斧を握りしめた三十人近くの農民たちが、殺気を孕んだ目で部屋の中へ雪崩れ込んできた。

「……なっ……!? 村人ども、何の真似だッ!」

即座に腰の剣に手をかけたマリオンが鋭い疾呼を上げる。

しかし、農民たちは冷酷な目で騎士たちを包囲し、その尖端を中央に座す聖女ソフィアへと向けた。

「……申し訳ございません、騎士様。……聖女様を、奴らへの生贄として捧げなければ……我らは皆、引き裂かれて殺されてしまうのです」

「馬鹿なッ! 魔王族の戯言と取引をするなど、言語道断の重罪ですぞ!」

ジェイクが怒脈を浮かべて立ち上がり、厳格な声で説得を試みる。

「目を覚ましなさい! 魔王族は聖女様という脅威を取り除いた後、あなた方を救うどころか、悠々と皆殺しにするだけに決まっている!」

「いいえ……! 魔王族の『契約』は絶対だと聞き及んでおります! 我らの命と引き換えに、聖女様を差し出す……ただそれだけで村は救われるのです!」

村長の狂信的な言葉に、マリオンは歯噛みした。

「愚かな……! 神の加護たる我らを信じず、牙を剥く魔王族を信じるというのですかッ!」

マリオンが剣を抜き放とうと柄へ手を掛けたその時、その手元を可憐な白い手が静かに制した。

「……おやめなさい、マリオン」

聖女ソフィアであった。彼女は恐れに震えながらも、気高く澄んだ碧眼で村人たちを見つめ、静かに首を振った。

「……分かりました。私は、あなた方に従いましょう。……ジェイク様、あとはお任せいたします」

ソフィアはそれ以上抗うことなく、静かに両手を差し出し、哀しみと決意を秘めた瞳のまま村長たちの捕虜となったのだった。


村の外れ、鬱蒼とした大樹の陰。

遅れて村へ到着したグレイランスとブルドは、ジェイクから一連の顛末を聞かされていた。

「……馬鹿げたことを。で、あの手厚く護衛されてたはずの聖女様は、大人しく農民どもの縄に縛られてるってのかい?」

グレイランスは信じられないといった風に吐き捨てるように言った。

「……そうだ」

ジェイクは苦渋の表情を浮かべ、闇の中に視線を落とした。

「一度魔王族と『契約』を結んでしまった以上、形の上だけでも生贄となってやらねばならん。もしここで我らが無理に村人を切り捨てて契約を破れば、村人たちの皆殺しは確実となるからな」

「なるほどねぇ……。で、生贄として差し出した『そのあと』はどうなっても知らん、ってわけか」

「……そうだ。言いようは悪いが、聖女様には『囮』になってもらう。敵が聖女様を受け取り、契約を履行したと油断したその瞬間……我ら騎士団が本陣へ突入し、魔族を根絶やしにする」

ジェイクの冷酷とも取れる合理的な決断に、グレイランスは「ふん」と鼻で笑った。

「……フン、相変わらず頭の固い作戦だこと。生憎だが俺たちは、神殿の金で雇われた騎士様でもなんでもねぇんでね。勝手にやらせてもらうぜ!」

そう言い放つと、グレイランスは漆黒のマントを翻した。

横に立つ老僧ブルドもまた、錫杖をカツンと地面に突き、無言で不敵な笑みを浮かべた。

「待て、グレイランス! 余計な真似を――」

ジェイクの引き止める声を背に受けながら、黒衣の傭兵と老僧の影は、月明かりすら届かない深い森の闇の中へと、静かに消えていったらのであった。

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