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聖女は山へ向かう  作者: 仕様です。


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#05 フラウィアの日記①

◾️落葉月 二日

本日、ミレイア山への同行任務を担当される方とお会いしました。

アルノさんという、戦没者遺品返還部所属の方だそうです。


とても静かな方でした。

王立軍の方々や聖務官の皆さまはなにか、見定めるような様子でしたが、アルノさんは終始落ち着いていて、私はどこか不思議な頼もしさを覚えました。


「よろしくお願いします」とお伝えすると、短く会釈を返してくださいました。

気難しい方なのかなと思っていましたが、少し安心しました。


さて、ミレイア山の山頂を目指す旅の準備が始まります。

せめて、ご迷惑をおかけしない程度には体力をつけたいです。


騎士隊の方々に、またお話を聞かせていただこうと思います。



◾️落葉月 三日

修練場で走り込みをしようとしたところを、聖務官の方々に止められてしまいました。

慣れない運動を急に行っても、すぐに体力がつくわけではなく、かえって体を痛めるだけだと。


それは、その通りなんでしょうけど……。


ああ、戯れに少しだけ剣を持たせていただいただけで腕が震えてしまったことも、きっと見抜かれていたことでしょう。


情けないです。


ですが、修練場にいた騎士隊の方が「山を登るのに必要なのは、肉体の強さだけではありません」と教えてくださいました。


辛くても、少しでも、歩くことやめないこと。


意志を強く持ち進み続けることも強さなのだと。


気を保ち続けること。

それならば、私にも少しくらいはできるでしょうか。



◾️落葉月 四日

今日は大聖堂へ運び込まれた魔力核の浄化を行いました。

冷たい器の中の光が、ゆっくり濁っていくのを見るたび、胸が重くなります。

戦死された兵士の方々から回収された魔力核には、様々な感情が残っているように思います。


恐怖や、怒り。

後悔、帰りたいという願い。


時折、自分のものではない涙が流れます。

浄化を終えた後は、いつも少しだけ呼吸が苦しくなります。


浄化を終えた魔力核は再利用され、また別の方へ渡るそうです。

せめて、その方の支えとなるように祈ります。


降臨の儀を果たさなければなりません。

これ以上、誰かの恐怖が残らないように。



◾️落葉月 五日

出発の日が近付き、本日はアルノさんを交えた行程確認が行われました。


ですが、途中から険悪な空気になってしまいました。

どうやら、事前に決定されていた行程が、アルノさんによって大幅に変更されてしまったようです。


ミレイア山へ向かう道すじ。

補給予定地。

野営の回数。


そのほとんどを見直す必要があると、アルノさんは淡々と説明されていました。

軍の方々、聖務官の皆さまは強く反発していました。


「危険すぎる」

「現地状況がわからない」

「聖女様の負担を考慮していない」


皆さま口々に仰っていましたが、アルノさんはほとんど表情を変えませんでした。

ただただ、地図を見ながら静かに言葉を返していました。


「予定ルート付近にて魔物の上位個体を複数確認しました」


「こちらの谷は崩落しています」


「この野営予定地は視界が開かれ過ぎている。すぐ魔物に発見されます」


まるで、実際にその場所を見てきた人のように。

聖務官の方が困ったように私を見ました。


「フラウィア様からもお伝えください」


つまり、アルノさんを説得してほしいということだったのでしょう。


私は少し迷ってから、アルノさんへ尋ねました。


「必要なことなのですね?」


アルノさんは私を見ました。


「アルノさんだけがミレイア山を目指すわけではないことを、踏まえた上で?」


しばらく沈黙があり、それからアルノさんは言いました。


「できることをやるだけと、貴方は言いました。その通りだと、私も思います」


静かな声でした。

けれど次の言葉は、少しだけ厳しく聞こえました。


「だが、あなたは本来できないことまでをやろうとしている」


会議室が静まり返っていたのを覚えています。


「できることだけでは足りないのです」


その言葉は、不思議と責められているようには聞こえませんでした。


アルノさんは続けます。


「私は、あなたが今できないことをできるようになると信じます。そして、私は私で、あなたを引きずってでもミレイア山まで連れて行きます」


その時、思いました。


それなら、大丈夫でしょう。


と。


なので、念のため、記録として残しておきます。


もしこの先、何か問題が起きたとして。

それがアルノさんだけの責任にされることがありませんように。


行程変更は、私も了承したものです。


これは私とアルノさんが、一緒に決めたことです。

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