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聖女は山へ向かう  作者: 仕様です。


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#04 ブリーフィング

「戦没者遺品返還部のアルノ・カリエルです」


中央大聖堂の応接室、重厚な扉の前でアルノが名乗ると、内側から入室許可が返る。

静かに扉を開くと、中では長机を挟むように聖職者と軍人達が並んでいるのが見えた。

その中央、白い衣を纏った一人の少女が、静かにこちらを見つめている。


年の頃は十代後半ほど。

淡い金髪を肩口で揃え、膝の上で両の手を小さく重ねている。

目が合うと、少女はわずかに微笑んだ。


「こちらへ」


少女の隣に座る男が口を開き、その低い声に促されて、アルノは室内へ進む。

男の装束から、高位の司祭であることがわかる。


「急な召集となったことを詫びよう。中央大聖堂司祭長、エドヴァルだ」


言葉を受けたアルノは一礼する。

次に、司祭長の隣に座る軍人が書類を机上へ滑らせた。


「王立軍参謀本部より、貴官を指名とする任務が発令された」


アルノは書類を受け取り、視線を落とす。


司祭長が続ける。


「聖女フラウィアを旧聖地ミレイア山 山頂部にある神殿へ送り届け、そこで行われる『降臨の儀』実施までの護衛、および補助協力を行うこと」


アルノは黙って書面を読んでいる。


「また、儀式完了後は」


司祭長は一拍置いた。


「聖女フラウィアの遺体を回収・保全し、速やかに中央大聖堂へ返還すること」


そういって司祭は言葉を切る。

室内は静まり返っていた。

アルノの視線だけが、書類上の任務項目をなぞっている。


「移動経路は現在選定中だが、ミレイア山周辺は既に魔物支配域となっている。

聖女を確実に届けるためには極力戦闘を避ける必要があり、本任務は隠密行動を前提とした少人数編成で行う」


「少人数」


アルノが初めて口を開いた。


「同行者は」


「貴官一名だ」


軍人は即答した。

アルノは特に表情を変えず、「承知しました」とだけ返した。

その様子を見てから、司祭長はそばにいた少女を振り返る。


「フラウィア」


促された少女が静かに立ち上がった。


「初めまして、アルノさん。フラウィアと申します。此度はよろしくお願いします」


柔らかな声だった。

アルノが小さく頭を下げると、フラウィアもそれに合わせるように一礼し、それから、少し困ったように笑った。


「……あまり国を離れたことがなくて、旅には不慣れなことが多い自覚があります」


場違いなほど穏やかな口調だった。


「このお話を頂いてから、騎士隊の皆さんの見様見真似で、こっそり修練してみたりもしたのですが……やはり、すぐには上手くいかないものですね」


「そんなことをしていたのかね?」


司祭長が呆れ半分に口を挟む。


「あまり無茶をし過ぎるでないよ」


「ふふ、申し訳ありません」


そう言って、フラウィアは小さく笑った。

室内の空気が、ほんの少しだけ緩む。

アルノはその様子を黙って見ていた。

やがて、静かに口を開く。


「……あなたは」


声に気がつき、フラウィアがアルノに視線を戻す。


「この『任務』について、承知しているのですか」


アルノの静かな問いで、室内から音が消えた。

軍人達の視線がアルノへ集まる。

フラウィアは、自分に差し出された言葉を大切に受け取るように目を閉じ、静かに頷いた。


「はい」


その返答に躊躇いは無かった。

再び開かれたフラウィアの目が、アルノに合わせられる。


「聖女として、できることをするだけなのです」


澄みきった声音。


「そうでしょう?」


アルノは答えなかった。

ただ、少女の瞳を静かに見返していた。

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