第八章②ユリウス
第八章②ユリウス
辺りの神兵を一掃したアラミス。
剣を鞘に戻す。血飛沫だけがポタポタと落ちた。
「……ユリウスは、どこだ?」
「私が案内します。今私たちが生きているということは、ユリウスはまだ大神殿の中でしょう。」
先導するウェンディ。それに少し遅れてアラミス。
「この戦いが終わったら、俺……。」
「とか、言わないでくださいよ?」
クスリとするウェンディ。だが、無理をしているのはアラミスからは当然のごとく見えた。
「そんな古臭いフラグ立てないさ。」
「やっぱ文化圏ババアに格下げだな。」
「あれ、私文化圏お姉さんだったはずだけど?」
「序列は変わるものだ。」
くだらない会話をしているうちに、ユリウスがいるとされる大神殿が見えてきた。
「あそこに、ユリウスはいる……はずです。」
「断定はできないのか。」
「もしユリウスが戦場にいたら、私たちもおそらく……。」
「そんなにか、ユリウスとかいうのは。」
「はい、信じられないくらいまでに強いですよ。」
「私も支援魔法くらいならできますが、アラミスさん、全てはあなたにかかっています。」
「もう、責任から逃れるっていうわけにもいかなそうだ。」
「そんなことしたら、あなたの株は下がりますよ?」
「序列は変わるものなんです。」
大神殿の中は静かだった。
数人の神々はいたが、見て見ぬふりをしているのは明らかだった。それはウェンディを知っているからなのか、それともウェンディ同様、離反したいのかどうかはアラミスは判断できなかった。
玉座の間につく。
小声でウェンディが呟く。
「大丈夫、勝てる。信じる。それだけ。」
扉を開けると、そこにはユリウスがいた。
「……あんたがユリウスか。」
「知っているぞ、転移者の裏切り者よ。我に刃向かうとはよい覚悟だ。使えぬものは、消し去る。それで世界の秩序は保たれるのだ。」
「ウェンディだったか。貴様は多少はマシだと思っていたが、結局は無能であったな。」
「私は、あなたの考えに賛同できないだけよ。」
「ふん、かまわんさ。無能なものは粛清される。この戦いが終われば、全てわかる。」
「そして、勝つのは我だ。」
ユリウスが立ち上がる。持っていた聖剣を抜く。同時にアラミスも刀剣を抜く。最初に斬りかかったのはユリウスだった。
いつもの自動戦闘が発動するが、避けきれなかった。
「ぐはっ!」
傷は浅い。だが、初めて刀身を身に受けたかもしれない。
「ふん、すんでのところでかわすか。面白いではないか。」
「貴様なら我の直属の部下にしてやってもいいのだがな。」
「それは、こちらからから……断る。」
「で、あろうな。結局、貴様も我に敗れ去る弱者に過ぎん。」
今度は凄まじい勢いでアラミスが動く。
だが。
かわされた。
「その程度か。」
「くっ……俺では敵わない、のか……。」
「ウェンディから補助魔法ももらっている。なのになぜ、剣が届かない!?」
「うぬと我とは格が違うだけだ。転移者といえど、所詮は人間よ。」
ユリウスの攻撃だけを喰らう。アラミスの攻撃だけが届かない。
致命傷はまだ避けている。だが、それも時間の問題だった。
「くっ……ここまで、なのか。」
その時だった。
不思議な紫の光がアラミスを覆う。
「……なんだ?この光は?」
最初に声を上げたのはユリウスだった。
「魔力、いや、違う。なんだこれは?」
アラミスは直感した。これは選ばれなかった者の叫びだと。思念だと。想いだと。
『生きていたかった……』
『こんなことするために生まれてきたわけじゃなかったはずなのに』
『俺はなんで盗賊なんてやっている?』
『俺も勝ち組に入りたかった』
『俺は蹴落とされた。だが、こんな結末望んじゃなかった……』
「……俺には聞こえる。お前……ユリウスに捨て駒にされて行った、ユリウスの思想で歪められた人たちの声が!」
「ユリウス、貴様だけは、この世界の秩序を握るに値しない人間だ!」
「敗者には敗者の人生があったんだ!それを貴様は!」
一瞬でアラミスの姿は紫の霧に溶けた。
そして。
その刀身はユリウスを串刺していた。
「な……んだと……。」
「我は……何と戦っている?」
「俺はみんなの無念の器にすぎない。」
「お前を貫いたのは俺の剣じゃない。お前が捨て駒として切り捨てていった者たちの無念だ!」
そしてアラミスは串刺した剣を上段に斬り抜いた。
ユリウスから血飛沫が上がる。
「がはっ!我は、我は単に世界を……秩序で安定したかった、だけなのだが!」
「弱者を切り捨てて何が悪い!」
「世界は強者が導けば安定するのだ!」
「だから、お前は誰にも選ばなかった。」
「我は……捨て駒に……敗れる、のか。」
「……これも一つの結末だ。あんたは正義感があったのかもしれないが、やっていることはただの独善だった。」
アラミスの周りは紫色の霧で覆われていた。
そして。
アラミスたちの剣はユリウスの首を落とした。
「終わった……のか?」
まるで幻想を見ているようだった。
気がつけば紫の霧は消えていた。
「私たち、勝ったのですね。」
「ユリウス、絶対神も、代替できるんだよ……。」
亜麻色のウェンディだけが、現実を示していた。
「あとは私たちの仕事です。残った神々もおそらく私たちに協力してくれるでしょう。」
「あなたを……選んでよかった。」
ウェンディは初めて、心の底から安堵したように微笑んだ。
続く




