第八章①神界での戦闘
第八章①神界での戦闘
気がついたら、静謐さが支配する静かな緑だった。
アラミスはどこか既視感を覚えつつ、歩み始める。
「ここが神界か……。」
「思っていたより普通だな。」
「何か神々しいものを期待していたのなら、ごめんなさいね。」
「いや、別にいいんだが……。」
「それより……囲まれてるな。」
「はい、まぁ、膨大な魔力を使いますからね。これ。バレないほうが不自然です。」
「こちらから仕掛けますかな?」
「こちらはたった5人です。ただ待っていては、相手の兵が増えるばかり……ならば。」
レティウスは詠唱を始める。
リゼットは身の丈には合わないほどの大剣をおろし、構える。
グレンヴァルは突撃の機会を窺っている。
その中で……。
アラミスだけが、すでに交戦状態になっていた。
「やれやれ……人界だろうが、魔界だろうが、神界だろうが、どこに行っても殺す役回りは変わらんのかね。」
ズバズバ斬っていくアラミス。すでに刀身は血塗れだった。
相手の一団が動く。グレンヴァルはそこへ突撃して、こちらはこちらでなかなかの豪快な戦いだった。
いつもの閃光が走る。真っ二つになる神兵たち。
そして一番神兵が密集している地点へ、レティウスが魔法を放つ。
「……クリムゾンパレス!」
一瞬で半径400mほどのクレーターが形成された。密集していた神兵は一瞬で「溶けた」。
ウェンディは近寄ってくる敵だけを、光弾だか何かでちびちび倒していた。
「もう少し出力あげてもいいかしら。どうせ倒しても倒してもキリがない展開ですよね、これ。」
レティウスに近づく、いや、近づこうとするものは、リゼットの大剣で一刀両断にされていく。
「おい、こいつら強いぞ!」
「他の神々に救援要請を出せ!」
「我々だけでは不利、いや、無理だ!」
当然、この様子は他の神々も見ていた。だが、動くものはほとんどいなかった。
「ユリウス様……。」
「なんだ、申してみよ。」
「……いえ。」
カルディスとエルディアンだけが動いた。
「やれやれ、他の神々は日和見ですか。まぁ、使えない神々が出ていったところで邪魔なだけ。」
「わしらが直接手を下すのが確実じゃろう。」
「そうそう、あなたには宿敵がいましたね。」
「ふん、グレンヴァルとかいう魔族じゃったか。あれはわしが仕留める。邪魔はしてくれるなよ。」
「そんな無粋な真似はしませんよ。私は魔王あたりを殺りますか。」
「ユリウス様、反逆者どもは我らにお任せください。それほど手こずることもないでしょう。クリムゾンパレスを使うとは思いませんでしたが、あの程度の威力なら。」
「そうか、勝手にしろ。我は我が動きたい時に動く。」
「その必要がないことを期待しているがな。」
「御意。」
戦場に到着するカルディスとエルディアン。
そこは神兵だけが死体として転がっていた。
「ふん、役に立たない連中だ。」
「指揮官不在とはいえ、これはひどい有様ですね。」
「さて、盤面をひっくり返しますよ。」
「カルディス、あなたは中央で暴れているあの黒騎士、グレンヴァルですか、あれを頼みます。」
「是非もなし。」
「残った神兵は一旦集めましょう。このままでは無駄に各個撃破されていくだけです。」
「伝令を。」
伝令を聞きつけた、神兵たちはエルディアンの下に集まり始まる。
「やれやれ、私の指揮を無視して戦っている連中は自殺志願者なのですかね。」
「彼我の力量もわからないとは……全く、愚かな極みですよ。」
「また会ったの、グレンヴァル。」
「貴様はあの時の!」
「ここがお主の死に場所じゃ。何、墓標ぐらいは立ててやらんでもない。」
「ぬかせ!我は魔王様の剣、貴様如きに敗れる我ではない!」
「ほほ、若いの。」
「威勢だけでは戦いには勝てぬよ。」
斧を振り上げるカルディス。矛で防ぐグレンヴァル。
「わしはな……ユリウス様に忠誠を誓ったのじゃ。」
「お主はレティウスとかいう魔王に忠誠を誓っているのじゃったな。」
「お主は強い。じゃが、忠誠心だけで勝てるほど、戦場は甘くはない。」
矛で突き刺すグレンヴァル。斧で防ぐカルディス。
「く、貴様らの秩序は主が望んでおらぬ。負けるわけにはいかないのだ!」
今度は矛を横向きに薙ぐ。しかし、それもカルディスには通用しない。
「わしはな……秩序で動いているわけではないのじゃよ。」
「ただユリウス様への誓い、それだけじゃ!」
そう言って斧で再び薙ぎ払う。
そして……。
その斧は矛では防ぎきれなかった。
鎧に大きな裂け目ができる。
鮮血がポツポツと溢れる。
「ぐはっ!」
「だから言ったじゃろ、ここがお主の墓場じゃと。」
余裕の笑みを見せるカルディス。
「なれどこの程度の傷ならば!」
グレンヴァルはその勝ち誇ったカルディスの隙を見逃さなかった。矛を無理やり突き出す。
「がっ!」
致命傷ではない、だが、確実に矛はカルディスに手傷を負わせる。
「ふふっ、やるの!わしに傷をつけるものなど、そうはおらぬぞ。」
こうしてグレンヴァルとカルディスの一進一退の戦いは続く。
一方、司令部。
エルディアンが忙しそうに指揮をする。
「左翼・右翼は限界を維持しなさい!中央、ここに兵を集めて、相手の精鋭を人海戦術で潰します!」
「相手はたかだが5人。それも、1人はカルディスが決めます。」
「なれば我らは一気に叩きのめすのみ。何、代わりなんていくらでもいます。どんどん兵を送り込めば、いずれ疲労して油断するでしょう。」
ふと、カルディスの戦いに目をやるエルディアン。
「ほう……。左腕が苦戦しますか。」
それだけを言って、その場を後にする。
「ふん、思ったよりやるの、若いの。」
「く、こちらが不利か!なれど!」
矛で穿つ。しかし、微かに傷を負わせるだけだった。
「これでも、か。なれどまだ!」
「終わりじゃよ。」
斧を一閃するカルディス。
そこに。
エルディアンがいた。そして詠唱を初めて……。
「ホーリーレイ。」
「クリスタルウォール!」
エルディアンが放った魔法は弾かれた。
「なっ、魔法壁!?」
そこにはレティウスがいた。
「これ以上、私の仲間を傷つけるのは許さないわ。」
「魔王様……我はまだ、戦えます。」
「無理、ね。下がって、ウェンディさんに回復してもらいなさい。」
「あっちはリゼットとアラミスさんが奮戦してるから。」
「!?魔王様単独で二人を相手にするというのですか!」
「ええ、そのつもり。」
「そ、それは……我も残ります!」
「あなたはもう戦える状態ではありません。ボロボロじゃないですか。」
「なれど、相手は絶対神の左腕、そしてあれは……。」
「エルディアン。右腕ね。」
「ならばこそ!我も残って!」
「黙りなさない!」
あまりにも重い一言だった。
「私が力を解放します。そうすれば、倒せるでしょう。」
「……魔王様、どうかご無事で……!」
「まずはあなた自身の心配をなさい。」
おずおずと警戒しながら下がるグレンヴァル。
「させんよ!」
「ダークアイ!」
「ぐぬっ!」
「あなたたちの相手は、私がするわ。」
わずかにふらつくレティウス。
(まだよ、これからが本番なんだから……。)
(私は私の役目を果たす。それだけよ。)
「ふふ、ちょうどいい。現魔王は邪魔だとずっと思っていたのですよ。ここで、その首、落としてしまいましょう。」
カルディスはまだグレンヴァルを追いかけようとしていた。
「左腕!何をしているのです!私たちの相手は現魔王ですよ!」
「そんな瑣末なもの、放っておきなさい。」
「現魔王さえ倒せば、我らの勝利は確定します!」
「口惜しいが、それしかないようじゃな。」
詠唱を始めるエルディアン。斧を薙ぐカルディス。
それをはらりとよけ、詠唱を始めるレティウス。
そして最初に魔法を放ったのは、レティウスだった。
「グラン・グレイス!」
突然、カルディスのいた地面に亀裂が走る。
「ぬぉ!」
「なんじゃ、何が起きている!」
姿勢を保つだけで精一杯なカルディス。
「終わりね。」
亀裂は突然、パックリと大穴にかえ、カルディスはその大穴に飲み込まれる。
「ほほ……これは一本取られたわ。」
「ユリウス様、申し訳ございませぬ!」
そして地面は何事もなかったように、閉じる。
「なっ、左腕がこうもあっけなくやられるとは。」
「あれも無能だった、ということですか。」
「ホーリーランス!」
だがエルディアンが放った魔法は残存するクリスタルウォールに弾かれる。
「ちぃ、あの魔法壁、邪魔ですね。」
再び詠唱を始めるエルディアン。
一瞬、クラリとするレティウス。
視線が一点になかなか集中しない。
「まだ……まだ、行ける。」
「アラミスさんに負担を……かけるわけには……。」
「ここで……私が、エルディアン。あれを殺る!」
「ディ・スペル!」
エルディアンが唱えた魔法は、レティウスの魔法壁を消滅させた。
「さて、あとは残飯処理ですか。」
「舐めてもらっては困るわ。」
再び詠唱を始めるレティウス。
同じく詠唱を始めるエルディアン。
(この一撃なら、絶対神の右腕といえども……。)
(ちょっと、自信……ないな。)
(でも、やるしかない!私の身体……耐えてちょうだい。)
「喰らいなさい、最高出力の……。」
「クリムゾンパレス!」
魔力の塊が一箇所に集中して……。
エルディアンのそばに集まり……。
「ば、バカな!クリムゾンパレスの魔力が一点に集まるなんて、これでは!」
突如暴発した。
半径500mの大きなクレーターができていた。
エルディアンは存在自体消えていた。
跡形すら残っていなかった。
そしてバタッと倒れるレティウス。
「ここまで……かしらね。私でも、魔力が保たない。」
その魔法は後衛の神兵たちも巻き込んで、誰一人生き残っていなかった。
「レティ、無茶した。」
その光景を遠くから見ていたリゼットは、思わずそう呟いた。
「いかないと!今、レティ、丸腰なのよ!」
「アラミス、あんたにここは任せる!」
「……。それが一番いいな。」
事実、アラミスたちの周りの神兵はほとんど残っておらず、それも皆明らかに動揺していた。
そしてその動揺の隙にリゼットはレティウスの元へ向かう。アラミスはいつもの高速戦闘でバッサリと神兵たちを斬っていく。
そこに……戸惑いという空間はなかった。
(俺も、覚悟を決めないと、な。)
(もう考える猶予、ないよな。)
そこには場違いな、鮮やかな神界の風だけが吹いていた。
続く
補足:
クリムゾンパレスは、ss級のキャシーですら半径300m。
これで魔力回路、実質使用不能の威力ですからね。




