第七章⑤ウェンディの提案
第七章⑤
魔王城へ帰還する、一同。
客間で待っていた、亜麻色の髪をしたウェンディ。
顎に手を当てて、室内をうろうろしている。
明らかに考え事してますという風体で。
「ねぇ、ちょっと提案があるんだけども……。」
「提案?」
最初に反応したのは、レティだった。
「ええ、絶対神、倒しませんか?」
レティら一同の側に、静かな空間が置かれた。
「はい?」
その静寂を打ち破ったのは、相変わらずレティだった。
「ご自分が何を言っているのか、わかっての発言ですか。」
「ええ、こう見えても、元女神ですよ?何も考えなしに、突拍子もなくこんなこと言いませんよ。」
「ねぇ」
次に口を開いたのは、リゼだった。視線が泳いでいる。明らかに当惑している。
「絶対神って倒せるの?」
「すごく強いって聞いてるんだけど、レティなら倒せるとかそういう公算あるの?」
「いえ、残念ながら、レティさんでは倒せないでしょう。」
「いかに現魔王といえども、絶対神は絶対神ですから。文字通り、絶対的な強さですよ。」
「じゃあ……。」
レティはふと伏目がちになり、考え込む。
ウェンディは迷いなく言い切った。
「アラミスさん、あなたなら倒せます。」
「……。根拠がない希望的観測は嫌いなんだがね。」
「確かに根拠はないですよ。ですが、倒せる可能性が一番高いのは、この世界ではアラミスさん、あなただけです。」
「それは過大評価だな。」
「俺はただのおっさんだよ。」
「ただのおっさんは、神兵を最前線で斬りまくったりできません。」
「……お前がそういうふうに強化したんだろ。」
「アラミスさん、あなたにはまだ解放されていない力があります。私はもっと強力なスキルを付与したのですが。」
「どうやらまだ現れていないようですね。」
「おい……。お前は俺をバケモンに変えたのか。」
「俺はもう、シノダではない。アラミスになってしまった。」
「いえ、それは表面だけです。芯は篠田さんですよ。」
「……だといいがね。」
明らかに当惑しながら、肩をすくめるアラミス。
「で、そのスキルサマというのはどんなやつなんだ?」
「さぁ?」
「は?」
「お前、自分が付与した能力を忘れたのか?」
「いえ、忘れたのではありません。知らないのです。」
「どういうことだ……。」
「私は力は付与しました。ですが、その中身はアラミスさん、いえ、篠田さん次第でどうとでも変化するものなのですよ。」
「最初にご説明しましたよね?どんな能力を伸ばすかはあなた次第、だと。」
「悪いがおっさん症候群の俺には記憶がないね。」
「元女神として、あなたにその力を付与したのは断言できます。」
「篠田さんがいう、『自動戦闘』というのも、私が直接付与したわけではないのですよ。あなたが、後天的に開花させた能力なのですよ。」
「やれやれ……女神様とやらは身勝手な力を付与してくれたものだな。俺は……力なんて望んじゃなかった。」
「力を持つということ。それは、使い所を考え、期待にも結果にも責任を持たないといけないんだ。」
「……俺はそんな責任を背負うはごめんだ。」
「ですが、あなたは現に能力を開花して生き延びてきた。」
リゼがミントティーを飲みながら、たまにカップを回している。そんなリゼを尻目に、ウェンディは続ける。
「緋水。」
「あの人たちは、当代冒険者では格別な力を持っていました。それでも、死人がでた、能力が使えなくなった、腕を欠損した。」
「そんな中、あなただけが何事もなく生きているのですよ。これが、あなたの本来の力と言わず、なんというのでしょうかね。」
「……。俺がもっと早く決断していたら、緋水はあんな結末にはならなかった、のか……。」
「そういうわけではありません。あなたは戦わない、いえ、戦える人じゃないと思っていました。」
「あの戦場はあなたのように感受性の塊みたいな人には、悲惨すぎました。」
「……否定できないかもしれない。だが……。」
「結果は結果です。別な可能性を考えても、過去は過去です。」
「過去の評価は変わりますが、事実そのものは不動なものです。」
「その評価が大事なんだろ。いや、そんなもの関係なく、現実をどうするかが先決だ。」
「なら……。」
ウェンディは亜麻色の髪を軽く流す。これ以上、言うことは無い。そんな雰囲気だった。
再び、静寂という空間が生成される。
そしてそれを破ったのは、リゼだった。
「ねぇ、仮に絶対神を倒したとして、その後、世界はどうなっちゃうの?」
「ユリウスの世界が崩壊して、秩序が崩壊します。」
淡々と答えるウェンディ。
「お前、よくそんな爆弾発言を平気で言えるな。」
「まぁ、元ブラック企業勤めの元女神ですから。」
碧色の瞳が、少し寂しく見えた。
「そこで、レティさん、あなたの出番です。」
「私、ですか……?」
「お話を伺ったところ、私では力不足のようですが……。」
「確かにレティさんでは、絶対神は倒せません。ですが、敵を倒す以外にもやることがあるのですよ。」
「……秩序の維持、かしら。」
「そう。」
「そんなこと……私にできるかしら?」
「そもそも私はそんな大それた思想なんて……。」
「そうですね。この世界に誰も傷つかない思想、そんなものはただの理想論でしかないかもしれませんね。」
「ですが、あなたの思想はなんです?」
「一言で言えば、共存、でしょうか。」
「憎しみあっていてもいい、恨んでいてもいい、それでも種族の壁なんていらない。戦争する必要なんてないんです。」
「正の感情も負の感情も全て抱えて、それでも現実と向き合い、前向きに生きていける世界、そんな世界が私は好きです。」
「私もそれに同感しています。だから、離反しました。」
「ユリウス。あれの思想は過激すぎます。」
「使えるなら残す。」
「使えないなら切り捨てる。」
「それだけです。」
「私はそれについていけませんでした。」
「だから、今、ここにいます。」
「……。つまり、完璧な思想はないが、今のユリウス思想よりはマシってところか。」
「それなら、ある程度同感できるな。」
「……ただの綺麗事にも聞こえるが。」
「それは……そうかもしれません。」
「世界はそんなに単純化できないのも、あらゆる種族が感情を持って、それに振り回されて暴走することがあるのも知っています。」
「それでも私は、理性を信じたい。」
「ふふ、綺麗事……ですね。」
「そうだな……だが、嫌いじゃない。」
「ですが、具体的にはどのように?私にはそのような術式、知りませんし、魔王城の禁書庫にもないでしょう。」
亜麻色のロングが大げさに揺れる。何かを確信しているように見えた。
「ここに一人の元女神の神がいます。」
「さて、私はなんのためにこんなことを言い出したのでしょうか。」
「それは、私が秩序の維持ができるからですよ。」
「まぁ、モン缶の消費量は現役時より、ちょっぴり増えるかもしれませんが。」
「お前、それ好きな。」
この会話にだけは、レティもリゼもついていけなかった。
魔法陣を描くウェンディ。
そこには、レティウス、リゼット、アラミス、グレンヴァルそしてウェンディがいた。
「では、一仕事しますよ。」
「私が詠唱を始めたら、もう神界へ行くものだと思ってください。」
こくりと頷く一同。
「いきますよ。」
そして皆、一瞬で消えた。
続く




