第七章③平和の終わり
第七章③平和の終わり
「今日から私も、魔族側につきました」
「いや、待て。お前、女神だろ?神々だろ?」
「……裏切った、いや、見限ったのか?」
ウェンディは亜麻色の髪を流しながら、微笑む。
「はい、私はユリウスのやり方にはついていけません。」
「ついでに言うと、業務の負担が集中しすぎて限界です。」
「モンスター1日、何本開けたと思います?」
「なんで神々の世界にモン缶があるんだよ。」
人差し指を顎に当てながら。軽く考える。
「まぁ、美味しかったのと、なんか気分が乗るから?」
「自分で言っておいて、なんで疑問形?。」
「それは……私もよくわかってないからです。」
ふっと軽く吐息を漏らすアラミス。考えるのがめんどくさかった。
「まぁ、そんなもんだろうな。」
「ちなみに……。」
「俺はレッドブル派だ。」
コツコツと足音が遠くから響いてくる。二人。そして客間に入ってきたのは、案の定、レティウスとリゼットだった。
「お二人とも揃っていますね。」
「あんたがこの前、どっか行ったのって、ウェンディに会いに行ったのか?」
「ええ、神々が我々を観測しているように、我々も神々を観測しているのですよ。」
「で、一番不穏分子と思しき、彼女に声をかけました。」
「はい、悩んでるところを狙われて、ナンパされました。魔王に。」
リゼットが無駄に言葉を足す。どこか機嫌がいい。
「あんたはめんどくさかったけど、女神はチョロかった。」
「……待て。女神はこの世界に降臨できるなら、なんで最初からそうしなかった?転移者なんて送らず、神々が直接手を下せばよかっただろ?」
「ああ、それはですね……。」
ウェンディは宙に指をやると、軽く丸を描く。
こういう時は本当に亜麻色の長髪が映える。
「世界は人界、魔界、神界と三すくみ構造になっているのですが……。」
「我々神々が直接介入できるのは、現状、魔界と神界だけなんですよ。」
「不便なシステムだな。明らかに欠陥だ。」
「まぁそこは、神々も色々と派閥争いがあるってことですよ。」
「……待て、今、現状って言ったか?それなら。」
「はい、条件次第ですが、書き換えできます。何せ、絶対神がユリウスですから。」
「ちっ、なんでもありか。」
レティウスが入りこむ隙を窺っていた。そしてそれは今しかないと思った。この二人、なんか妙に噛み合う。
「実は……先ほど、こんなものが。」
さっきから手に持っていた紙をアラミスに渡す。
最初は軽く目を通すだけのつもりだった。しかし、読めば読むにつれて、思わず持っている指に力が入り、紙に皺がよる。
「おい、これ、実質宣戦布告だろ。」
「そうですね。我々が想定していたよりも、ユリウスの動きが早かったです。」
「私も前線へ出ます。が、最前線はアラミスさん、あなたにお願いしたいのです。」
「指揮はグレンヴァルがやります。まぁ、あれも戦うと思いますけどね。性格的に。」
「ちなみにリゼちゃんはレティの護衛があるから、最前線へ行けないの。」
「護衛なんて必要ないんだけどな……。本音はリゼにも最前線へ出てもらいたいのだけど。」
「流石にそれはだめ。レティが肩書きに負けないほど強いのは知っているけど、万が一もありうるじゃない?」
「……万が一が起きたら、あなた、どうするつもり?」
「……守る。」
「そう……。」
ラベンダーティーを飲んでいたウェンディが落ち着いて話を始める。カチャと無機質な音だけが響いた。
「神兵は強いわよ。魔族でも間違いなく苦戦するわ。」
「ユリウスは多分出てこないわね。その代わり、気をつけるべき神々が二人います。」
「ユリウスは左腕、右腕と呼んでいますが……。」
「左腕がカルディス。武神です。そして右腕がエルディアン、総司令官です。」
「この二人、性格は完全に反対なんですが……強いです。ものすごく。」
「アラミスさんや、レティウスさんでも苦戦すると思います。」
アラミスはいつものように何かを考えていた。が、不意に以前からの疑問をぶつけてしまった。
「なぁ、俺のこの謎の自動戦闘、なんなんだ?」
「それはですね……一言で言えば、あなたの生存本能とでも言いましょうか。いえ、生存戦略として勝手に身につけていたのを私が刺激した、そんな感じかしら。」
「……つまり本質が開花した、と?」
「まぁ、そんなところですね。」
「本質の定義がよくわからないが、まぁ、今はいいか。……いや、よくないな。俺は本来殺人鬼の気質があったってことか?」
「いえ、そういう意味ではありません。あなたの生い立ち、それを考えれば、生存戦略として勝手に身につけたと言えばお分かりですか?」
「……ああ、察してしまった。」
「そうか……。だから生存戦略、か。」
「文化圏お姉さんは役立つでしょ?」
「待て、勝手に昇格させるなよ。」
「ねぇレティ、あれラブコメってやつじゃない?」
「……本人たちはその自覚なさそうですね。」
レティウスは相変わらず、話に入りこむ余地を探していた。
「えっと……いいですか?」
「なんだ?」
「最前線で戦っていただけるか、お返事が欲しいのですが。」
「ああ、それなら……。ここまできて、嫌ですとは言えないだろ。」
「やってみるさ。」
レティウスは一瞬、明るい表情になった。
「そうですか、助かります。」
「現在、我々も戦争の準備をしています。ただ、あまり時間はないでしょう。宣戦布告して、時間を置く必要がありませんから。」
「だろうな。電撃戦とか仕掛けてきそうだが。」
「そうなると厄介ですね。情報も指揮系統も全て乱れます。」
「電撃戦が何か、詳しいことはわからないけど、エルディアンならやりうるわね。」
「……あんた、女神時代よりテキトーになってないか?」
「ええ、今はただの元女神のニートですから。」
「……そんな経歴のニートいねぇよ。」
「ご報告します!神々が大々的に戦線を展開、我が軍の斥候が確認!グレンヴァル様が陣頭指揮をとっております。」
「……早すぎるわね。」
「第一防衛線、接敵、交戦開始!」
「やれやれ、ここは一仕事、やりますか。」
そう言って、ウェンディを残して、皆が皆、行動を開始した。
続く
みなさんはモンスターとレッドブル、どちらがお好きですか。
久瀬はモンスター500mlですが。
ところでウェンディ、経歴がひどい。
元ブラック企業勤務。元女神。モンスター常飲の魔王城に住み着くニート。




