第五章⑧ ローレンスの思想、レナードの狂気、アラミスの懊悩
第五章⑧
「……たった二人で行くのか?」
「大勢で行っても、お互い死人が増えるだけです。」
「過大評価しすぎだ。」
「俺はそんなに……強くないさ。」
「あなたはご自身を過小評価しすぎですね。この間のシュバルさんとの模擬戦、あれは並大抵の動きではありませんよ。」
「……体が勝手にやっていることだ。」
「それはある意味……ずるいですね。」
ローレンスは水を軽く飲む。落ち着いたまま続ける。
「で、どうしますか?あなたが嫌なら、無理強いはしませんが。」
「それで……そのレナードとかいうやつの首を落とせば、このどうしようもない戦争は終わるのか?」
「……。おそらく。」
「仮定の話だが、万が一俺たちがくたばったらどうなる?俺はどうでもいいが、あんたの代わりなんていないだろ。」
「だから、あなたを連れて行きたいのですよ。」
「やれやれ、ギルマスは無理を仰る。だが、行くしかなさそうだな。」
そうして二人はギルドを後にした。
夜の街道は静かだった。それでも二人は目だたないように、こそこそとわざわざ裏道を選びながら進んだ。
「ところで、レナードとかいうのは強いのか。」
一瞬、ローレンスが足を止める。何かを考えているように、視線がうろつく。
「強い……ですね。少なくとも私と同等程度には。」
「……訳あり、か。」
「昔、一緒に冒険した仲でしたよ。もっともあれはたまに参戦する助っ人タイプでしたが。彼も出世競争がありますから。」
「昔冒険者やってた奴が、冒険者ギルドを潰すのか……皮肉だな。」
「魔法使いなのですが、あれの「ダークプリズム」だけは気をつけてください。」
「あれの必殺魔法なので。」
アラミスは軽く頷くと、そのまま城内へ侵入した。
門番はアラミスに瞬殺されていた。
ローレンスは小声で。
「あれは今の時間なら作戦室にいるのが、キャシーさんの普段の『観測』結果です。」
「統計的にはどうなる?」
「今はそれどころではありません。」
城内を巡回している兵士はことごとくアラミスにやられていく。
そして……当然のごとく、城内の死体はすぐに見つかり、兵士たちがあちらこちらを動き回っていた。
「まぁ、ここまでやっていて、バレずにレナードの作戦室まで辿り着ける方が奇跡ですよね。」
「つまり……見つけ次第、殺せ、か。だが、ここまで来たら、こんなに無駄な犠牲者を出させたやつは責任を取らさせないとな。」
(それが本当に正しいのかはわからない。だけど、ギルマスとレナードのどっちかが諦めるか、くたばるまでこの無駄な戦いは続く。)
(なら、俺は……ギルマス側につくしか、ないか。)
アラミスは文字通り、殺して回った。目につくものは、敵とあれば体が勝手にやっていた。
そんな自分が……嫌だった。
そしてレナードの作戦室へようやく辿り着いた。その頃には、アラミスの剣は真っ赤に染められていた。
アラミスの無機質な仮面も、鮮血が飛び散っていた。
「レナード、もうあなたの狂気も終わりです!」
「くっ、ローレンス、貴様ああああああ!」
「強化兵ども、あやつをやれ!」
一斉に飛びかかる強化兵士。
しかし、アラミスが凄まじい勢いで斬り殺していく。
だが、一人だけそれをすり抜けて、ローレンスに近づいた。
が。
四肢がバラバラになったのは、強化兵士の方だった。
「私は単に、王国の、人類のために戦ってきたのだ!」
「それを貴様……ローレンス!お前が全てを壊したのだ!」
「私は単に王国存続、人類存続のために必要なことをやり、不要なものを切り捨てた!それしか、道はなかったのだ!」
「……あなたの言い分は強者が弱者をさらに弱者に追い込んだだけです。」
「あなたは勝者だった。ただそれだけです。」
「救ったのではない、最後に残った者までも、切り捨てたにすぎません!」
「そしてそのあなたが弱者を虐げる。これは、私も見逃すわけにはいきません!」
「だが、それが世界の理だ。この世界はそういうものなのだ!敗者は弱者になる、これは自然の摂理だ!」
「ですが、勝者が弱者を切り捨てていいという結論にはならないでしょう!」
ローレンスが剣を抜く。
レナードが魔法の詠唱を始める。
「今なら!」
ローレンスが抜いた剣はレナードの首へ向かう。
だが、その寸前。
「……ダークプリズム。」
「しまっ……!」
放たれた魔法は漆黒の魔力塊となり、ローレンスに直撃した。
「がはっ!」
そして……胡乱な意識の中、ローレンスはレナードの首を刎ねた。
アラミスは助太刀したかった。だが、強化兵士の群れを叩きのめすのに精一杯だった。
そして、レナードの死が決まっても尚、強化兵士はアラミスを狙ってくる。
「こいつら……もう自我はないのか!?」
最後の強化兵士を斬った頃には、王国兵士、騎士団員がただただ混乱しているだけだった。
アラミスはその隙に、気絶しているローレンスをギルドへ運ぶのが精一杯だった。
続く




