第六章①代償
第六章①代償
レナードの死から数日後、正式にギルドと王国の間で和平がとり行われた。和平交渉が終わり、ギルドに集う冒険者たち。
そこにはセリアに押される、車椅子姿のローレンスがいた。
アラミスはその姿を一瞥すると、思わず握り拳をした。
(ギルマス……俺がもっと上手く立ち回れていたら、こんなことにならなかったんじゃないか。)
「今回の戦争は王命により、強制的に終戦を迎えました。」
「私の思想とレナードの狂気に巻き込ませてしまい、申し訳ありませんでした。」
そう言うと、ローレンスは頭を下げた。
一瞬だけ、ギルド内は騒然とした。
それを止めるように、ローレンスは続ける。
「ですが、レナードの狂気を止めないと、この王国は実質レナードの狂気に飲み込まれていたことでしょう。」
「……たくさんの犠牲が出た。」
アラミスが不意に本音をこぼす。それは少しずつ周囲に滲んでいくようだった。
「緋水は……もう崩壊した。シュバルは利き手を喪失、キャシーは魔法回路がおかしくなった。そしてバーシスは……戦死した。」
「……全て、私の責任です。レナードの狂気も別な方向から止められたのかもしれません。」
「間違っていた……といえばそうかもしれません。ですが、あれの狂気は話し合いなどと生やさしい方法では止められるとは思えません。」
「人は、ここまでしないと分かり合えないのか。いや、そもそも分かり合えたのか。この戦争は……人の愚かさを全て表しているんじゃないか。」
「アラミスさん、残念ながら、世界はあなたが思っているほど、優しくないのかもしれません。私は、あなたほど人を信頼していないのかもしれません。」
「そして俺は期待しすぎた、か。」
この後も、ローレンスの謝罪、そしてどのように贖罪するか、延々とギルメンの間で続けられた。しかし、アラミスの耳には何も届かなかった。
いつも緋水がたむろしている一角。そこには筋肉ダルマはいなかった。
アラミスはゆっくり席につき、いつも通り冷水を頼む。
「シュバル……、お前、もう剣は……。」
「ああ、無理かもな。だが、俺はまだ生きている。」
「そしてバーシスの死を無駄にしないためにも、俺は生きるさ。」
「どうやって生きていくかは、今後次第だがな。」
片手を失ったまま、肩をすくめるシュバル。
「あたしは、まだマシかもしれないわね。」
一瞬だけ、仮面の下でアラミスが喜んだ気がした。
しかし、それはすぐに曇った。
「魔法は……使える。けど、激痛がくるのよ。でも、そうね、シュバルみたいに生活に支障が出るわけじゃないし……。」
「ついでになぜか監視ユニットだけは自在に扱えるのよね。」
「これだけあるだけマシよ。」
少し笑って。
「そうね、探偵業でもやろうかしら。」
ザービは終始俯いていた。長いスカートの中間あたりをギュッと握っていた。
「私は……何もできなかった。シュバルの喪失を防ぐことも、キャシーの痛みをなくすことも、そしてバーシスを止めることも……。」
「いや、あんたは十分やったさ。どれだけの負傷したやつを救ったんだと思ってる?俺の知り合いもあんたに助けられたって聞いてるぜ。」
「そうよ、あたしは魔力回路は絶望的だけど、それはあたしの独断だったわけだし。」
「でも、あの時、こうしてたらと思えば、もっといい結末だってあったはずよ。」
「リーダー失格ね。」
「それは語弊がある。」
冷水を飲んで、ドンと強めにコップを置くアラミス。感情を露わにするなんて珍しい、誰もがそう思った。
「戦争が始まった時点で、この結末はあり得た。無論、別な結末もあり得た。しかし、俺たちが迎えたのは、今転がってる現実、それだけだ。」
「誰が正しくて、誰が誤ったのかは俺にはわからない。だが、過去に拘泥しても何も始まらない。俺は……それを知っているんだ。」
ふとアラミスの脳裏に過去の悪夢が再来する。それを振り切るように、再び冷水を一気に飲む。
「おい、アラミスが珍しくまともなこと言ってるぞ。」
「ええ、見直したわ。あんた、ただの優柔不断のフラッシュ仮面じゃなかったのね。」
「アラミスさんは昔から、ずっと何か考えてただけよ。」
「だから、深いところで一気にその思考の塊が出てくる、というわけですか。」
気がつけば、車椅子のローレンスが側にいた。
「あんた、車椅子になっても気配消せるんだな。」
「これでもあなたたちの先輩ですから。」
「緋水の皆さんは、今回一番活躍してくれました。……バーシスさんに関しては本当に残念でなりませんが。」
「ささやかながら、今回の勲章に対してギルドから毎月一定額を支給しましょう。特にシュバルさんは……。」
「おい、舐めんなよ、ギルマス。片手がなくても、自分の世話ぐらい自分でして見せるさ。」
「あたしもいらないわ。自分の生き方ぐらい、自分で決めるわよ。」
「やれやれ、あなた方は本当に独特というか、なんと言ったらいいのか。」
アラミスが仮面越しに真顔になる。
「めんどくさいだけだな。」
「お前がいうなや。」
そこだけは全員が一致する意見だった。
続く




