第四章② 王国
レナードは……。
第四章② 王国
王国宰相・レナードは落ち着かなかった。
「ええい、騎士団は何をしている!なぜ、相手を殲滅しなかった!」
「レオンが出ているのだぞ!魔族の1000程度他愛のないことだろう!」
「また無駄に魔族どもに時間を与えてしまう。」
レティシアからの和平提案書が眼前に広がる。
「忌々しい!魔族から仕掛けてきたくせに、和平だと?何を考えてるのだ!」
「それに我らには、神々から与えられた魔石がある。」
「敗北は……ありえん。いや、許されんのだ。」
「全ては王国の繁栄のため……。どんな犠牲が出ようとも……。」
「多少の負け犬のために税金を投じるぐらいなら、有能な人間を優遇する。それがもっとも合理的だ。」
「盗賊など、冒険者どもにやらせておけばいい。似たようなもの同士で勝手にやり合っていれば良いのだ。」
「ローレンス・ヒルベルト……。「スラム街の現状と改善案」こんなもの公式に提出しおって!」
「あのギルドマスターも危険だな。いずれ傀儡をすえる必要もありそうだが……。今は魔族が先だ。」
その様子はキャシーの不可視魔法ユニットに記録され、それをローレンスや緋水のメンバーは眺めていた。
「やれやれ、我らが宰相殿は人間をなんだと思っているんですかね。」
「負け犬にも、負け犬の人生がある。」
「アラミス、お前がいうとなんか深みがあるから、頼むから哲学は後でやってくれ。」
と、バーレスはアラミスの暴走モードに入る前に止める。
「ところでキャシーさん。」
セリアが一言刺す。
「これは違法行為では?」
「ば、バレなきゃ問題ないでしょ!」
「待ってください。今まで上がってるキャシーさん案件は、氷山の一角ということですか。」
ローレンス、思わず顔を両手で覆う。
「はぁ私の胃はどうなるんでしょう。」
「……ギルマスの胃はともかく、このおっさん、人間を舐めた合理主義者って感じだな。正直、不愉快だ。」
シュバルが珍しく不機嫌だった。だが、アラミスにはその原因がなんとなくわかる気がした。
(負け犬は切り捨て、有能なだけに税金を投じる、か。)
(切り捨てられた負け犬は……もう二度と這い上がれないだろうな。これじゃ。)
(盗賊に同情するつもりはないが……。やはり俺も不愉快だ。)
「あ、この宰相のおっさんどっか行くみたい。」
「追尾追尾」
(この子はこの子で、もう手遅れかもしれませねんね……。)
「地下牢?いや、地下研究所みたいなそんな雰囲気ね。」
「宰相がそんなところになんの理由で来たのでしょうね。」
「……いやな予感しかない。」
そこには、ホムンクルスを生成できそうな、ポッドがあった。ただ、中に入っているのは、間違いなく人間であった。そして、レナードは持っていた魔石を研究員らしき人物に渡して……渡して……。
ポッド内の人物と融合させた。
「な、これは!」
「魔石を……人体実験?」
その魔石と融合した『ソレ』は突然変異をして……。
額に青い魔石をつけたゴブリンとなっていた。
「待て待て待て。こいつは……。」
「ええ、最近出没が明らかに増えている、魔石モンスター。そのものですね。」
「ま、魔石のモンスターが元の人間……?」
「お、俺が殺した紫魔石のゴブリン、人間だった……?お、俺は、俺は……!」
「アラミスさん落ち着いて!まだあなたの倒したモンスターが、元人間だったかは証明されたわけではありません。」
シュバルは無理やり、アラミスを外に連れ出した。そして、気つけ薬を飲ませた。
「お前にはきついシーンだ。見なくていい。」
「詳しくは俺たちが調べる。」
「今は、休んでろ。お前の戦場はここじゃない。だろ?」
「……。」
アラミスは小刻みに体を動かしていることしかできなかった。
「ふんっ、失敗作か。その辺にほっぽっとけ。冒険者あたりが勝手に討伐するだろ。」
「それより実験を続けろ。我々にはこの力を使って、強化兵士が必要なのだ。」
「この戦争に勝つには、それしかない。」
「宰相閣下、我々がやっていることは……。」
研究員が言葉を濁す。
「わかっている!わかってはいるのだ!だか、王国を、人類を繁栄させるためには仕方のないことなのだ。」
「……。実験を続けます。」
「今回の個体は、適正SSSです。間違いなく成功します。」
「ほぅ。見覚えがあるな、こいつはレオンの娘のハクトーじゃないか?」
「はい、我々が調べたところ、現存個体の中でもっとも適性の高い個体です。きっと素晴らしい強化兵士になることでしょう。」
「……そうだな。失敗したら、レオンには娘が死罪になったとでも伝えておけばいいだろう。」
「ハクトーって確か……。」
「そうね、前にギルドにきて、モンスター討伐して回って一躍時の人となった傑物ね。あの若さで。」
「レオン騎士団長の娘さんだったのね。やっぱりお父さんから剣術とか教わっていたのかしら。」
「いや、今それどころじゃないだろ。おい、キャシーお前の魔導ユニットでこの宰相のおっさんなんとかできねぇのか。」
「私に犯罪者になれっての?やりたいけど、残念だけど戦闘はムリ。」
「レナード・カルノー、危険ですね。我々はこの実験をやめさせなければなりません。」
「無理やり人間を強化するなんて、人道に反します。それに、モンスターの凶悪化により、一般の人々に多くの被害が出てます。」
「倫理的にも現実的にも、カルノーのやっていることは、人類のためにはなりません。」
実験室では、今まさにハクトーに魔石が合成され……。
融合した。
そして、ポッドから出されるハクトー。
「あれ、私……?」
「君、ちょっとこの剣で一振りしてみてくれないか?」
「え、あ、はい。」
ハクトーが剣を一振りした。それだけで……。
壁にヒビが入った。
そして誰にも剣速が見えなかった。
「よし、成功だ!」
「え、なに?私、強くなったの?」
「これでお父様の役に立てるかしら?」
「ああ、そうだ。お前は強くなった。今後、是非とも王国のためにその剣を振るうが良い。」
「ええ、今ならなんでもできる気がする。でもなんだろう、なんかちょっと胸の辺りがつかえる、不思議な感覚……。」
「疲れているだけだろう。帰って、休めばいい。」
「え、ええ……そうするわ。」
そう言ってハクトーは実験場を後にした。
「!?なんだこの動き、全く隙がないぞ!それにあの剣速……アラミス以上かこいつ!」
「シュバル、そんなにか。」
「あ、ああ……。だが、どこか危うげにも見える。よくわからないが……。とにかくこいつは、戦っちゃいけない。俺ですら……恐怖を感じる。」
「これは……ますます問題が悪化しましたね。」
「あ、ごめん、そろそろあたしの魔力切れる。」
「いえ、王国を危険視する絶好の機会でした。」
「ただし。」
「ただし?」
「後で反省書を提出するように!」
「なんでよー!」
一人取り残されたアラミス。
(篠田s……あなt……悪くありませ……ぶちっ)
(ウェンディ……無理してるな……俺なんて放っておけばいいのに……。)
(だが……俺はどうすれば……。)
続く




