第四章③レティとアラミス
ダメだ、この魔王、優しすぎるw
第四章③ レティとアラミス
深夜。ギルドはもう閑散としていた。
緋水のメンバーはアラミスのことが気がかりだったが、アラミスの「一人にしてくれ」だけで、誰も声をかけることはできなかった。
そんなアラミスは一人、ギルドの小さいテーブルについて、何杯目かわからない水を飲んでいた。
そんな中、来訪者が二人。フードを被った二人組。明らかに怪しいが、ギルドではこの手の輩は割と普通だったりする。
「……レティ、あの仮面。」
「そうね、『神々の使者』ね。」
「どうするの?戦うの?」
「いえ、一旦様子見しましょう。」
「私たちはただ観光に来ただけなのだから。」
(……なんだ、この異物感。)
(キャシー……じゃないな。誰かに観察されている?)
(ウェンディ……だったら直接声かけてくるか。)
周囲を見渡すアラミス。そしてフードと視線が交差する。
「……あんたら、何者だ?」
「!?」
「な、なんのことかしら……。私たちはちょっと休みに立ち寄っただけよ。」
「……。」
「あら、何も突っ込んでこないのね。『神々の使者』さん。」
「!?」
「俺を……知っているのか。何者だ、あんた?」
「私はレティ……旅人よ。」
「ちなみに私はリゼ。よろしく、『神々の使者』さん。」
「その呼び方やめてくれないか。俺はただの仮面だよ。」
「ただの仮面のバカなら私たちに気づかないわよ。」
「……アラミスだ。少なくとも……。」
「……なるほど、訳あり、か。」
「昔からだがな。」
「……。」
「……。」
「あなた、何か思い詰めてるみたい。」
「そういうあんたも、何か背負った人に見えるがね。」
「もーどうせ他人同士なんだから、腹を割って話しちゃえば。」
一瞬、考えるレティ。まさか、「私は魔王です。」とは流石に言っていいのか悩んだ。
「私は……とある王族の……。」
「嘘だな。」
即決。
「なっ……。」
「この感覚、何かを背負ってる奴が持ってる特有のなんかだ。」
リゼはこのやりとりがなぜか面白く思えた。
「……あんた、魔王とかそう言う類のやばい連中じゃないか?」
「ほら、見透かされてるじゃん。だから『神々の使者』じゃなかった、えーっと、とにかくこの仮面は只者じゃないって。」
「アラミスだ。」
「そ、そうアラミス。あんた、自分のことどう思っているの?」
「どう……とは?」
「リゼに代わって、私が言うわ。」
「あなた、明らかに今までの連中と違うのよね。魔王という言葉を聞いたら、即座に切り掛かってくる馬鹿ばっかだったわ。」
「俺にはチートがとかスキルがとか訳のわからないこと言いながら。」
「そいつらは馬鹿だな。」
「……俺は罪のない人間を斬った。」
「そう……。でも罪人というわけではなさそうだけど?」
「俺もよくわからないが、魔石?とかで王国が人間を強化して、その副産物で魔物になった。」
「そいつを俺は何も知らず斬った。」
「……そこまでやっているのね、神々は。」
「レティこれ、完全に……。」
「そうね、魔族殲滅に来てるわね。人間を駒にして神々からの挑戦ね。」
「??」
「なんの話だ?」
「あなたは神々に利用されています。そして、王国もまた神々に利用されているように聞こえます。」
「これ以上の断定はできません。」
「ただし、あなたが斬ったのは罪のない人間だったかもしれない。」
「でも、罪のない人間を魔物に変えたのは別な人間よ。」
「そして王国も、神々に利用されているだけ、かも。」
「だが、殺したことに変わりはない。事実は事実だ。」
「でもその事実は本来、ありえない法則から生み出された被害者なのよ。」
「魔法史の書物で読んだのだけれど……魔族と神々が戦争してた頃、魔石を使って戦闘に特化した戦争兵器のようなものを送り込んできたことがあったのよ。」
「自称魔王は随分と考古学に詳しいんだな。いや、歴史学?魔法学か?」
「ど、読書家なだけよ。」
「どこの図書館にそんな禁呪書みたいな本が貸し出されてるんだ?」
「魔王城。」
「はっ?」
リゼ、目を瞑りながら、顔を天に仰ぐ。
「あ、いや、今のは……。何かの聞き間違いじゃないかしら。」
「そ、それはともかく、副作用もあったわ。ある者は自我が崩壊、ある者は極端に短命、ある者は反逆。」
「とにかく魔石による戦争兵器量産は黒歴史として残ったわ。」
「あなたが斬ったのは、その黒歴史の一部。そして被害者だったのよ。」
「魔石が埋め込まれた人間がどうなるかは、知らない。けど、本人は楽になれたはずよ。」
「……そうだといいが。」
アラミスは水をごくりと飲んだ。冷水だったが、もうぬるくなっていた。
(楽になれたかなんてどうでもいい。)
(俺の願望はそれじゃないんだよ。)
「あなたの善悪の判断知らない。けど、事実は事実よ。」
「それ、俺のパクリだな。」
「ええ、もちろん。」
「少し長居しすぎたわ。それじゃね、アラミスさん。」
「あなたが私に斬りかかってこなかっただけで十分よ。」
「……どんな連中に絡まれてたんだよ、この人。」
「それにしても、善悪、か。王国も魔族もどっちが善でどっちが悪なんだろうな。」
「そもそも善悪だけで語れるのか、これ……。」
「ただ、あのレナードとかいう宰相。放っておくと、やばいやつなのは確実だな。」
「善悪の判断なんてわからんね。そんなことより、今は、この魔石実験を終わらせないと、だな。」
アラミスはどこか、気が楽になった気がした。ただし頭の中は重石だらけだった。
でも……。
それはいつもの通りだった。
後日。
ローレンスは書類を王城へ持っていき、公式文書として提言した。
「これで王国も魔石実験を再考してくれればいいのですが……。」
「万が一蹴られたら、その時は……。」
続く




